68話 再戦´
廃墟の前に立つ男──円卓第四席、ディフ=ルター
俺たちが近づくと、彼はゆっくりと振り返り、品定めをするように視線を巡らせた。
「来たか、”勇者”と”剣聖”」
その声は、かつて俺を何度も殺した時のような冷徹さは鳴りを潜め、どこか楽しげな響きを帯びていた。
「......随分と見違えたものだ。あの頃の浮浪者たちが、今や円卓を脅かす刃となるとはな」
「世間話をしに来たわけじゃない」
俺は魔剣の柄に手をかけ、ユキも聖剣を構える。ルターはフッと笑い、自らも戦闘態勢をとった。
「ああ、そうだな。いらない会話はもういいだろう」
「決着をつけよう。ルター」
風が止む。
森の空気が張り詰め、臨界点を超えた瞬間──戦いの火蓋が切って落とされた。
「──ターボ・アフトキニト」 「「──シンクロ!!」」
同時の技の行使。
ルターのギアがまわり始めたと同時に、俺とユキは定石である『意識の同調』を切る。
「FIRST=GEAR」
あの時と同じ、FIRST=GEARから連なる一連のテンションアップ。それがルターの能力。それはもう知っている。
「ユキ、行くぞ!」
(うん!)
遠慮はいらない。最初からトップスピードで叩き潰す!
俺とユキは二刀による攻撃を仕掛けていく。
「はぁッ!!」
(せいッ!!)
聖剣の光と、魔剣の闇。二つの刃がルターの急所へ同時に迫る。
だが──。
ガギィィィンッ!!!!
「......ッ!?」
硬い。
ルターは剣を抜くことすらせず、両腕に装着した無骨な『籠手』だけで、俺たちの斬撃を受け流していた。
聖剣と魔剣の直撃を受けて、傷一つ付かない装甲。
「随分、一撃が重くなったものだなッ....!!!」
ルターは涼しい顔で腕を振り払い、俺たちを弾き飛ばす。
やはり、あの時とは基礎スペックが違う。
それに、俺たちの手の内がある程度バレているのも大きい。俺が「どう動くか」を、ルターは経験則として知っている。
──なら、更に鋭く攻めるのみだ
俺は魔剣を大きく振りかぶり、強烈な横薙ぎを放つ。軌道は単純。威力は十分。だが、恐らくこれは凌がれる。そこまで想定済みだ。
ガキィィン!!!
予想通り。ルターはいなすのではなく、その横薙ぎを左手の籠手でガッチリと”受け止めた”。剣の腹を掴まれ、動きを完全にロックされる。
「......軽いな」
ルターが嘲笑う。
普通、この体勢から俺が次の連撃を繰り出すのは物理的に不可能だ。俺の身体は一つしかないのだから。
しかし、一つだけ例外がある。
──────今だ、ユキ!!
(うんッ!!)
俺は一時的に、精神の『シンクロ』を解除する。
瞬間、俺の中に溶けていたユキの意識が、幽体離脱のように俺の背中から半身を乗り出した。
「──ハァッ!!」
ユキがイメージするのは、聖剣リュミエールの遠隔生成。俺の意思とは無関係に、空中に黄金の光が集束し、聖剣が具現化する。
そして、ユキの意識がそれを振るうイメージに合わせて、聖剣が自律して”動いた”。
「なッ!?」
死角からの、質量を持った幻影の一撃。ルターの目が見開かれる。
ガァンッ!!
「チィッ!!!」
その一撃は不完全な形ではあったが、ルターの無防備な脇腹へと叩き込まれた。
装甲を貫くには至らないものの、強烈な衝撃が彼の体勢を崩す。
「そこだッ!!!!!」
俺の魔剣を掴んでいたルターの指が緩む。
その一瞬の隙を見逃さず、俺は魔剣を引き戻し、渾身の一突きを心臓へと繰り出した。
勝負あり──!
そう確信した切っ先が、ルターの胸に届く寸前。
「──SECOND=GEAR」
ドォンッ!!
まるで重たい鉄扉が閉まるような、腹の底に響く駆動音のようなものがルターの体内で弾けた。
「──っ!?」
ガギィィィンッ!!!!
俺の全力の突きが、ルターの裏拳一発で弾き飛ばされた。
ただの払いの動作じゃない。
力が増大し、圧倒的なパワーで空間ごとねじ伏せるような暴力的な重さ。
「くぅッ......!」
俺の手首が軋み、数メートル後方へと滑るように着地する。
ルターは体勢を戻し、蒸気のような熱気を纏いながらゆらりと構え直した。
「さあ、第二ラウンドだ」
やはり、一筋縄ではいかないな......!
瞬殺に失敗した以上、戦いが長引くことは必至だ。
ルターの能力は、ギアが上がるごとに手がつけられなくなる。だから、溜める必要がある『THIRD=GEAR』にこちらのカードのすべてをぶつけたい。
「このままいけば、オレのTHIRD=GEARで力を溜めきれず、圧倒されて負けだ。あの時のようなハッタリは効かないだろうからな」
ルターは両腕を広げ、不敵に笑う。
俺は痺れた手首を振るい、魔剣を構え直した。
「ユキ。今のうちに少し魔力を温存するぞ。奴がTHIRD=GEARになった時、全力で叩く」
(了解。ペース配分を調整するね)
俺たちがそう思考を巡らせた、その時だった。
「見せよう。オレの答えを──────」
ルターが、底冷えするような声で呟いた。
「──NITRO=BOOST」
ドクンッ!!!!
空気が震えた。
「GEARがかかり始めれば、あとはブーストできる。いわば、段階を踏まずにギアを強制的に引き上げるための、貯蓄された外付けGEARといったところか」
「ま、まさか......!」
悠々とした能力の説明が終わり、戦場に一瞬の静寂が戻ってくる。それは、嵐が来る直前の、張り詰めた真空のような静けさ。
その静寂を切り裂くように、ルターの声が響いた。
「──FINAL=GEAR」
GEARの到達点。速度を追い求めた男の限界。
それは爆発ではない。世界の色が反転するような、静かな変革だった。 赤いオーラは揺らめくことなく、硝子細工のように鋭く固定されている。
ここからが、円卓第四席ディフ=ルターという男の、本領だ。




