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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
3章 快刀乱麻のブレイブハート

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67話 Again

ソフィアから渡された果たし状。

そこに記されていた場所は、どこかの遺跡でも、要塞でもなかった。



『始まりの森』。



地図に名前すら載っていない、ただの森。

俺たちが転移してきて、あの”あったはずの三年間の始発点”でもある森。



あそこが、全ての決着をつける場として選ばれていた。



「......あいつらしいな」



俺は手紙を握りつぶす。

決戦の時間は一週間後。ここロンベルからの移動距離を考えれば、今日発てば、少し急いでちょうど間に合う計算だ。



「ソフィア。今回は、俺とユキの二人だけで行く」



俺の言葉に、ソフィアは息を呑んだ。

当然の反応だ。相手は円卓第四席。これまでの敵とは格が違う。



「お待ちください! 相手はディフ=ルターですよ? 騎士団長やスミス殿を連れて万全を期すべきです。二人だけなんて、あまりに無謀すぎます!」



ソフィアが珍しく声を荒げて異を唱える。だが、俺は首を横に振った。



「頼む、ソフィア。これはただの戦闘じゃない。俺とユキ......『勇者』と『導き手』にとっての、通過儀礼なんだ」



俺はソフィアの肩に手を置き、真っ直ぐに彼女を見つめる。



「ルターとの因縁は、あそこで俺たちが断ち切らないといけない。それが、戦う者としてのケジメなんだ」



「......レイ様」



俺の目に迷いがないことを悟ったのか、ソフィアは悔しそうに唇を噛み、やがて深くため息をついて頷いた。



「......分かりました。貴方がそこまで言うのなら、私は止めません」



俺は右腕の『フェルファクナ』をさすり、この半年間の激戦に耐えてきた愛用のコート『ヒュニエスタ』の袖を見る。

スミスの手によって幾度も改修・強化された、俺の最強の装備たち。そして何より、隣には頼もしく成長したユキがいる。



あの時とは違う。俺たちは、格段に強くなった。

もう、選択肢が少なかったあの時とは違う──────。



◇◇◇◇◇



俺とユキはすぐさま身支度を整え、ロンベルの裏門へと向かった。見送りには、ソフィアだけが来てくれた。

スミスやイーシアには黙って出てきた。あいつらのことだ、知れば「水臭いぞ!」と無理やりにでもついて来ようとするだろうからな。



「......本当に、行くのですね」



朝靄の中、ソフィアが不安げに眉を下げる。



「ああ。行ってくる。留守は頼んだぞ」



「帰ってきたら、俺とユキにいっぱい美味しいものを食べさせてくれ。最近、保存食ばかりで飽きてたんだ」



俺がわざとらしくおどけて見せると、ソフィアはようやく少しだけ口元を緩めた。



「......はい。腕によりをかけて、最高のご馳走を用意して待っています。ですから、必ず......必ず無事で帰ってきてください」



「約束するよ、ソフィアさん」



ユキが力強く頷く。



「行ってきます」



俺たちは背を向け、歩き出した。目指すは西の果て。



全ての因縁が始まった、あの森へ──────。



◇◇◇◇◇



ロンベルから「始まりの森」への道中は、拍子抜けするほど順調だった。

いや、敵が出なかったわけではない。街道を外れれば、質の悪い盗賊や魔物が何度も襲ってきた。

だが──。



「──右だ、ユキ」



「分かってるよ!」



俺が短く告げるよりも早く、ユキはすでに動いていた。

俺が剣を振り下ろすと同時に、死角から飛びかかってきた別の盗賊を、ユキが聖剣で薙ぎ払う。



言葉はいらない。視線を合わせる必要すらない。

俺が呼吸をするように剣を振れば、ユキもまた呼吸をするように背中を守る。



......驚いたな



特筆すべきは、ユキの臨機応変さだ。

かつては俺の指示を待っていた彼が、今は戦況を独自に判断し、俺の思考を先読みして動いている。それを可能にしているのが、ユキが纏う星装『アルゴシスタ』だ。



俺の『ヒュニエスタ』と対になるその装備は、ユキの魔力循環を最適化し、思考と動作のラグを極限までゼロに近づけている。



「ふぅ......片付いたね、レイ」



「ああ。完璧な連携だったな」



俺たちは血を振り払い、再び歩き出す。この半年間の研鑽は、伊達じゃなかったというわけだ。



そして数日後。

俺たちは、目的の場所──地図に名前すらない、西の果ての森へと到着した。



鬱蒼と茂る木々。湿った土の匂い。風が葉を揺らす音さえも、あの時のままだ。俺の脳裏に、ここで繰り返した激戦の記憶がフラッシュバックする。



だが、今の俺の足は震えていない。隣には、最強のパートナーがいるからだ。



森の奥へと進むと、開けた場所に出た。崩れかけた石壁。苔むした柱。



かつて、何も知らない俺たちが焚き火を囲み、初めての夜を過ごした廃墟だ。



「懐かしいね......ここに転移して来たときは、何事かと思ったよ」



ユキがポツリと呟く。

そう、あの日。ここから全てが始まった。



そして──その廃墟の前には、俺たちを待つ人影があった。



豪奢な騎士の礼装を身に纏い、圧倒的な威圧感を放つ男。俺にとっては、沢山の観測を超え、その顔を見続けてきた因縁の相手。



「よう、ルター。......久しいな」



俺は努めて軽く、けれど静かな殺気を込めて声をかけた。



円卓第四席、ディフ=ルター。



俺たちの「最初の絶望」が、静かに振り返った。

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