66話 転機´
「──なかなか動けるようになったな、ユキ」
キンッ!!
鋭い金属音が、エデニアムの訓練場に響き渡る。
俺が振るった魔剣を、ユキは聖剣リュミエールで受け流し、さらに流れるようなステップで背後を取ろうとする。
その動きは、かつて俺の背中に隠れていた少年のものではない。歴戦の戦士のそれだ。
「はぁッ!」
ユキの鋭い突き。俺はそれを、半分兵器となった右腕『フェルファクナ』で弾く。
金属と魔鉱石がぶつかり合う重い音。だが、俺の腕に痺れはない。完全に俺の神経と接続され、手足のように動く。
「......ここまで」
俺が剣を引くと、ユキも大きく息を吐いて剣を下ろした。
ロータシーとの激戦から、半年が過ぎた。
円卓もあの戦いで相当な痛手を負ったらしく、あれから大きな動きはない。
その静寂を「嵐の前の静けさ」だと予感している俺たちは、こうして毎日研鑽を欠かしていないというわけだ。
休憩がてら、俺たちはベンチに座り、水を飲みながらこの半年を振り返る。
いろいろなことがあった。
「スミスが解析してた『ゲヴェニア』......結局、まだ倉庫入りか」
「うん。スミスさんが悔しがってたよ。『俺の技術パクっておいて、俺が使えねぇなんてふざけんな!』って」
ロータシーが遺した『銃剣ゲヴェニア』。
スミスの解析によれば、やはり彼の思考パターンと同じ設計思想で作られた魔導兵器だった。
だが、最大の問題はセキュリティだ。この剣には厳重な生体認証──あるいは『魂の認証』のようなロックが掛かっており、俺も、ユキも、スミスでさえも、そのトリガーを引くことができなかった。
今はエデニアムの宝物庫で、いつか現れるかもしれない「正しき資質を持つ者」を待ちながら眠っている。
「それにしても、ユキ。お前、また強くなったな」
「えへへ、そうかな? 」
ユキが照れくさそうに笑う。この半年の彼の成長速度は異常だ。
どうやら、聖剣リュミエールを通じて、先代勇者の情報を投影できるらしい。その昔の経験を、自分のものにできるみたいだ。
「そして、レイ。右腕の調子はどう?」
「ああ。だいぶ馴染んできた」
俺は蒼碧色に輝く右腕を握りしめる。
当初は暴走しかけた『フェルファクナ』だが、スミスの調整と俺の慣れによって、今では日常生活で卵を割らずに掴めるレベルまで制御できている。
戦闘になれば、あの時の「完全開放」ほどではないにせよ、魔力を直接叩き込む砲台としても機能する。
これからまだ続くであろう、円卓との戦い。
そのための準備は、万全に整いつつあった。
◇◇◇◇◇
そんな、平和で充実したある日のことだった。
「レイ様、大変です──────」
ソフィアが、いつになく真剣な表情をして訓練場へ駆け込んできた。普段は冷静沈着な彼女が、ここまで焦りを露わにするのは珍しい。
またどこかで円卓の雑兵が現れたか? いや、それならイーシアが嬉々として狩りに行くだけだ。あの顔は、もっと質が悪い「個人的な」面倒ごとが降ってきた顔だ。
「どうした、ソフィア。落ち着け」
「......円卓『第四席』からの、直筆の果たし状が届きました」
その言葉に、場の空気が一瞬で凍りついた。
第四席。
俺の記憶が正しければ、その席次に座っているのは──────。
「差出人の名は?」
俺の問いに、ソフィアは震える声で告げた。
「......ルター。ディフ=ルターです」
俺の口元が、自然と吊り上がるのを感じた。
どうやら、ただの面倒ごとでは済まされない案件らしいな。
「そうか。待ちくたびれたぜ」
因縁の相手からの招待状。半年の沈黙を破り、ついに物語が動き出す。




