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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
3章 快刀乱麻のブレイブハート

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65話 回り道

ロータシーとの激戦が終わり、そこには再び静寂が戻ってきた。

俺は魔剣を消滅させ、軋む身体を引きずりながら、倒れている仲間たちの元へと向かう。



「......みんな」



惨状、と呼ぶに相応しい光景だった。



瓦礫に埋もれ、ハンマーを握ったまま気絶しているスミス。

全身から血を流しながらも、膝をつき、最後まで壁となろうとした姿勢で意識を失っているイーシア。

そして、魔力枯渇で蒼白になりながら倒れているソフィア。



全員、重傷だ。だが、胸は動いている。息はある。彼らが命を削って稼いでくれた『10秒』がなければ、俺はこの世界に戻って来られなかっただろう。



俺は震える足で、その中心で倒れているユキの元へ膝をついた。



「......ッ」



酷い怪我だ。全身打撲に、肋骨も数本いっているかもしれない。俺は血に塗れた自分の手を拭い、震える指先をユキの胸にかざした。



「......頼む。起きてくれ」



俺はあまり慣れない──いや、苦手分野である『回復魔法』の構成を脳内で紡ぐ。

破壊することしか知らなかった俺にとって、崩れた組織を繋ぎ合わせ、細胞を活性化させる治癒のイメージは、針の穴に糸を通すような繊細さを要求される。



焦るな。集中しろ......。



脂汗が頬を伝う。魔力を糸のように細く絞り、ユキの傷口へと慎重に縫い合わせていく。



「ん、ううっ.......」



やがて、ユキの喉から微かな呻き声が漏れ、その瞼がゆっくりと震えた。

その瞳が、うっすらと開かれる。



「......レイ?」



「ああ。......平気か? ユキ。無茶させちまったな」



俺の声に、ユキは安堵したように微笑んだ。



「......うん。大丈夫だよ。レイが戻ってきてくれたんだから」



自分の傷よりも、まず俺の無事を喜ぶ。そんなユキの健気さに、胸が締め付けられるようだった。

ユキはふらつきながらも上半身を起こし、周囲を見渡した。



「それより、みんなを治さないと......!」



「ああ。だが、今の俺の回復魔法じゃ時間がかかりすぎる。スミスやイーシアの傷は深い」



俺の不器用な魔法では、全員を完治させる前に誰かが力尽きるかもしれない。俺が唇を噛み締めると、ユキが俺の手をギュッと握った。



「レイ。僕とシンクロして」



「......!」



「レイの魔力を使って、僕の拒絶(リジェクト)を使う。怪我をしたっていう『事実』ごと、拒絶するんだ」



なるほど。俺の膨大な魔力をガソリンにして、ユキの能力というエンジンを回すわけか。回復じゃない。事象の否定。それなら、一瞬で全員を救える。



「分かった。行くぞ」



俺はユキの手を強く握り返し、意識を同調させる。俺の中に渦巻く『魔鉱石』由来の莫大な魔力が、繋いだ手を通じてユキへと流れ込んでいく。



「──拒絶(リジェクト)!!!!」



ユキの澄んだ声が響く。



瞬間、世界の色が反転した。

スミス、イーシア、ソフィア、そしてユキ自身の身体を覆っていた血や傷口が、元々無かったようにふさがっていく。



『負傷した』という事実そのものが、世界から弾き出されたのだ。



「......っは、凄まじいな」



数秒後。

そこには、傷一つない状態で安らかな寝息を立てる仲間たちの姿があった。



◇◇◇◇◇



「......おいおい、マジかよ。身体が軽いぞ」



最初に声を上げたのは、スミスだった。

彼は自分の身体をペタペタと触り、信じられないといった顔で立ち上がる。



「あのデカブツにハンマーごと吹っ飛ばされて、肋骨の二、三本は覚悟したんだがなぁ。古傷まで治ってやがる」



「これが勇者の『拒絶』......事象の書き換えか。恐ろしいほどの力だな」



イーシアもまた、斬り裂かれたはずの腕をさすり、感嘆の息を漏らす。

ソフィアは眼鏡の位置を直しながら、呆れたように、けれど嬉しそうに微笑んだ。



「理論上は可能でも、まさか本当にやってのけるとは......。貴方たち二人は、いつも私の計算を飛び越えていきますね」



元気になった三人の姿を見て、俺とユキは顔を見合わせて笑った。



「お前たちが命懸けで『10秒』を稼いでくれたおかげだ。......ありがとう」



俺が頭を下げると、三人は照れくさそうに、あるいは誇らしげに鼻を鳴らした。



「礼を言うのはこっちだぜ、レイ。......ん? ちょっと待てよ」



スミスの視線が、俺が腰に差していた『ゲヴェニア』の機関部分に釘付けになった。



「その剣、ちょっと見せてみな」



俺が言われるままに渡すと、スミスは鍛冶師の目つきに変わり、内部のクリップやトリガー機構を食い入るように観察し始めた。



「......あ? なんだこれ」



「どうした、スミス」



「こいつの魔力圧縮機構と、爆発推進の回路......。俺が『フェルファクナ』や自分のハンマーに使ってる独自理論と、根幹の設計思想が全く同じだぞ?」



「なんだって?」



俺たちは驚きに目を見開く。

スミスの技術は、サテンヘルドの工房で彼が独自に編み出したものだと思っていた。だが、円卓の幹部が持つ武器に、同じ技術が使われている?



「魂レベルで俺と同じ設計思想。なんだこりゃ」



スミスは複雑そうな顔でゲヴェニアを俺に返した。

ロータシーが最期に見せた「人間らしさ」と、この技術の共通点。円卓という組織は、未だ底が知れないな。



だが、今は考えるのはよそう。俺たちは勝った。全員で、生きて帰れるんだ。



「......さて」



俺は大きく息を吐き、仲間たちを見渡した。



鉱山都市サテンヘルドを出発してから、随分と長い距離を歩いてきた気がする。



捕まり、離れ離れになり、そしてこうして再び巡り会った。大きな、本当に大きな回り道だった。



けれど、その回り道のおかげで、俺たちは「最強のパーティ」になれた。



俺はユキの肩を抱き、皆に向かって告げる。



「それじゃあ、帰ろうか。俺たちの拠点──ロンベルに」



俺の言葉に、全員が力強く頷いた。足取りは軽い。

俺たちは勝利の余韻を噛み締めながら、帰るべき場所へと歩き出した。

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