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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
3章 快刀乱麻のブレイブハート

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63話 リベンジ

俺はヒュニエスタの袖をキュッと引っ張り、乱れた襟元を直す。

肺に空気が満ちる感覚。フェルファクナから伝わる魔力の伝導。その全てが、俺がこの世界に戻ってきたことを実感させてくれる。



実際の時間にすれば、数日──いや、数時間だったのかもしれない。

だが、あの光も音もない虚無の空間での体感時間は、それを何倍、何十倍にも引き伸ばすような永劫の苦痛だった。



しかし────────────。



俺の帰還を信じて待つユキが諦めない限り、俺が心を折るわけがないだろう?



自然と口元に笑みが零れる。

かつては俺の背中に隠れて震えていたあのユキが、今や俺を救い出し、こうして背中を預けられるほどの勇者になった。その事実が、言葉にできないほどの熱を俺の胸に灯してくれる。



「......随分と変わった剣だな?」



俺は思考を切り替え、目の前の男──ロータシーを見据える。彼が携えている剣、『ゲヴェニア』。

ユキとシンクロした記憶でその特性は把握している。剣と銃を融合させた魔導兵器。だが、その構造は俺の知るどんな武器とも異質だ。



俺の問いかけに、ロータシーは不敵な笑みを浮かべて口を開いた。



「確かに、ゲヴェニアは普通じゃないだろうな。……お前は、このリズムについて来れるか?」



カチリ。



ロータシーがトリガーに指をかける。



「行くぞ」



二発。

重厚な駆動音と共に、ゲヴェニアが蒼い燐光を撒き散らして加速する。



速い──!


だが、見えていれば対応できる。俺は魔剣を斜めに構え、ゲヴェニアの軌道を側面から叩いて逸らす。



重いな......!



剣が触れた瞬間、手首に痺れが走る。

火薬による爆発ではない。込められているのは高密度に圧縮された『魔弾』だ。トリガーを引くことで魔力を瞬発的に炸裂させ、その反動を斬撃の推進力へと変換しているのか。



実際に弾丸が飛んでくるわけではない。あくまで、『銃を撃つように斬る剣』─────。



「ハッ!!」



俺は魔剣を返し、ロータシーの首元を狙う。

だが、奴は表情一つ変えず、流れるような足さばきで俺の剣を紙一重で回避した。



「──ッ!?」



その動き。見覚えがあるどころの話じゃない。重心の移動、呼吸、そして「後の先」を取るカウンターの思考。



「お前......まさか」



「気づいたか? 同門だよ、俺たちは」



ロータシーが再びトリガーを引く。



ガォンッ!



加速する横薙ぎ。俺はバックステップで躱すが、衝撃波が肌に伝わる。



相手も『鏡映流』の使い手というわけか......!



どうりで攻めづらいわけだ。

俺が攻撃しようとする予備動作を読み、そこにカウンターを合わせようとしてくる。逆に俺がカウンターを狙えば、それを読んでフェイントを混ぜてくる。



互いに互いの思考を読み合う、鏡写しの攻防。



剣戟は激しさを増していく。



ゲヴェニアが弾を消費するたび、致命的な斬撃が俺を襲う。

手を変え品を変えて攻めるが、奴の防御は鉄壁だ。魔弾の加速がある分、単純な出力負けしそうになる。



だが、どんな武器にも「限界」はある。



......七、八ッ!



ロータシーが追撃の突きを放ち、八発目の魔弾を消費した瞬間だった。



キィィィンッ!



戦場に似つかわしくない、澄んだ金属音が響き渡る。

ゲヴェニアの機関部から、空になったクリップが勢いよく排出された。



──リロードか!



いかに強力な魔導兵器といえど、弾が尽きればただの鉄塊。次のクリップを装填する、コンマ数秒の隙。



ここを逃す手はない!



「そこだッ!!!」



俺は踏み込み、魔剣を突き出す。勝利を確信した一撃。


だが──相手もまた、鏡映流の達人であることを、俺は失念していた。



ロータシーは装填動作に入ることなく、空のゲヴェニアを構えたまま、スッと腰を落とした。



「鏡映流中段術 縮断(しゅくだん)白虎(びゃっこ)─────」



「なッ?」



奴の姿がブレる。弾丸の加速など必要ないと言わんばかりの神速の踏み込み──『縮地』。

俺の突きが空を切るより早く、奴は俺の懐へと潜り込んでいた。



マズった......! 弾がなくとも、剣術の腕は本物かッ!



魔弾はあくまでブースター。その本質は、研ぎ澄まされた剣技そのもの。



このままじゃ、反撃どころか防御すら間に合わない。

『縮地』で加速したロータシーの斬撃は、すでに俺の首を落とす軌道に乗っている。



なら─────。



俺は思考のギアを無理やりねじ上げた。

普段から常時発動している知覚強化魔法『ディテクティブ=アイ』。その術式へ、脳が焼き切れる寸前まで魔力を注ぎ込む。



「ぐぅ、うッ.....!」



脳漿が沸騰し、頭蓋がきしむような激痛。だが、その代償と引き換えに、流れ込んでくる情報量は爆発的に跳ね上がる。

ロータシーの筋肉の収縮、ゲヴェニアの駆動音、舞い散る雪の結晶。その全てが、コマ送りのスローモーションのように引き伸ばされていく。



見える......!



俺は冷静に、迫りくる死の軌道を解析する。

首への直撃は回避不可能。だが、身体を半歩──いや、数センチずらせば?



『首』ではなく、『左肩』。ゲヴェニアの質量と推進力なら、俺の左腕ごと肩を抉り飛ばすだろう。



激痛? 重傷?



─────上等だ。即死じゃなければ、それは「かすり傷」だ。



俺は回避行動を捨て、あえて一歩、前へと踏み込んだ。



「なッ!?」



スローモーションの世界で、ロータシーの目が驚愕に見開かれるのが見えた。カウンターを警戒していた彼にとって、防御を捨てた特攻は想定外の狂気。



ガギィィィンッ!!!!



ゲヴェニアの刃が、俺の左肩に深々と食い込む。骨が砕け、肉が裂ける感触。焼けるような衝撃が脳を揺らす。

だが、俺は倒れない。むしろ、食い込んだ刃ごと奴の懐へ身体をねじ込む。



「捕まえたぞ......ロータシーッ!!」



至近距離。回避不能のゼロ距離。

俺は右腕を突き出し、スミスが込めた禁断のコードを叫ぶ。



「フェルファクナ、完全開放(フルバースト)!!!!」



パージッ!!



乾いた音と共に、右腕を覆っていた装甲が弾け飛ぶ。露わになったのは、蒼碧色に結晶化した異形の腕──『魔鉱石』そのものと化した、俺の右腕だ。



制御を失った純粋な魔力が、大気を焦がして暴走を始める。



「撃ちィ、込めえええぇぇぇぇえええッッッッ!!!!!!!!!!」



俺はありったけの魔力と、フェルファクナ内部に蓄積されていたマナを、掌から一気に解放した。



魔法構成なんてない。術式もない。ただ純粋に、圧倒的なエネルギー質量をぶつけるだけの、破壊の奔流。



「馬鹿な、魔力をそのまま──ッ!?」



カッッ!!!!



ロータシーの声を掻き消し、視界全てを染め上げる蒼い閃光が炸裂した。

轟音と共に、要塞の壁ごと空間が吹き飛んでいく。



俺の左肩の痛みも、右腕の崩壊する感覚も、全てが光の彼方へと溶けていった。

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