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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
3章 快刀乱麻のブレイブハート

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61話 二度目の転移

僕たち四人は準備を整え、音韻魔導塔の地下深く──各国に繋がる転移陣の間までやってきた。



ここに来るのは、二度目だ。



一度目は、心を閉ざしかけていた僕を、レイが無理やり北の国ヴァイドヘイムへと連れ出した時だった。

あの時の僕は、レイが僕を置いて遠くへ行ってしまうような気がして、ただ怯えることしかできなかった。レイが差し出してくれた手すら、冷たく振り払ってしまったんだ 。



でも、今は違う。

もう、あの頃のようにただ震えて待つだけの臆病な子供じゃない。僕だって、レイの背中を見て、成長しているんだ。



「じゃあ、行くよ。みんな」



僕が振り返ると、三人の頼もしい仲間たちが無言で、しかし力強く頷き返してくれた。西の王国リベルタスへと向かう、揺るぎない覚悟。



待ってて、レイ。今度は僕が、キミを助けるから──────



僕は、四つの魔法陣のうちの一つ──リベルタスへの座標が刻まれた陣へと、迷いなく足を踏み入れた。



◇◇◇◇◇



世界が反転したように歪む。自分の存在が世界から切り離される感覚。三半規管を直接かき回されるような、強烈な吐き気。



あの時と全く一緒の感覚だ。だが、今の僕は目を逸らさない。その感覚が数秒続いた後、世界が「カチリ」と音を立てて元に戻った。



「......ふぅ。やっぱり、この感覚だけは慣れないね」



転移の気持ち悪さに軽く息を吐き出すと、視界が一気に開けた。



そこは、ロンベルの荘厳な石造りの街並みや、ヴァイドヘイムの凍てつくような寒さとは全く違う世界だった。



転移してきた西の大国リベルタス。視界の先には、豊かな緑と広大な平原、そして自由を象徴するような美しい風車がいくつも並んでいるのが見える。



だが、そんなのどかな風景とは裏腹に、肌を刺す空気はヒリヒリとしていた。

街を巡回する兵士たちの顔には疲労と焦りがあり、ここでも円卓との戦いが激化していることが窺える。



「よし、無事に着いたな」



周囲を警戒しながら、スミスさんが背中の巨大な荷物をドスンと下ろして口を開いた。



「いよっしゃ。んじゃあ、まずはレイの幽閉場所──敵の陣地の近くに、俺たちのキャンプを作るところからだな!!!!」



スミスさんはいつもの調子で豪快に笑うが、その目には職人としての、そして戦士としての鋭い光が宿っている。



スミスさんだけじゃない。

イーシアさんはすでに二振りの剣の柄に手を当てて周囲の索敵を始めており、ソフィアさんも大気中のマナの流れを読んで、円卓の気配がないか分析してくれている。



誰も弱音を吐かない。誰も諦めていない。みんなが、いつになく真剣に、そして全力を尽くしてくれている。



これが......レイが今まで繋いできた絆なんだね



レイが必死に足掻いて、死線を越えて残してきた軌跡。それが今、レイ自身を救うための力となって、ここに集結している。



僕は腰のホルダーから『グリモ=メモリア』を抜き出し、その表紙を撫でた。本は微かに温かく、僕の魔力に呼応して蒼い光点の現在地を示している。

目的地──恐らくこの緑豊かなリベルタスの、最果ての山脈地帯だろう。



「それじゃあ、作戦開始だよ」



僕の合図とともに。レイを取り戻すための、僕たちの反撃の旅が始まった。



リベルタスの周囲には、円卓の雑兵が小規模の軍を成して徘徊していることがある。

レイがロンベル防衛戦で看破した通り、その全てが裏で操られた『人形』だ。僕たちは何度か接敵し、その都度確実に処理しながら、目的地へと歩を進めていた。



「しかし、こう何度も湧いてくると面倒だな」



イーシアさんが、双剣に付いた黒い血を払いながら愚痴をこぼす。

僕は一歩引いて、後方から回復と支援魔法に徹しているからよくわかる。イーシアさんは、圧倒的に強い。



ただ力任せに双剣を振り回すんじゃない。まるで舞を踊るように、右半身の『ライクシア』と左半身の『レフクシア』が全く別の意思を持っているかのように連撃を繰り出す。さすがは武の国、ヴァイドヘイムのお姫様だ。



「お疲れ様、イーシアさん。......あともう少しだね。レイのところまで」



僕はイーシアさんに魔力を送りながら労い、『グリモ=メモリア』を開いて残りの距離を大体で測る。蒼い光点は、もう目と鼻の先だ。およそ、あと一日の道のりといったところか。



「へっ、今頃あの唐変木、暗い箱の中で泣いて待ってるんじゃねぇか?」



スミスさんが巨大なハンマーを肩に担ぎ直し、ニヤリと笑う。



「油断は禁物です。目的地に近づくにつれ、操り人形の動きも洗練されてきています。敵の将......円卓の幹部が近くにいる証拠でしょう」



ソフィアさんが周囲の大気のマナを読み取りながら、冷静に釘を刺した。



僕たちはその夜、短い野営を挟み、交代で見張りをしながら休息を取った。

誰もが多くを語らなかったけれど、焚き火を囲む皆の瞳には、「絶対にレイを助け出す」という強い決意が揺らめいていた。



◇◇◇◇◇



翌朝。



リベルタスの豊かな緑は次第に姿を消し、景色は険しい岩肌と、へと変わっていった。切り断つ山々がそびえたつの山脈地帯。そこが、地図の示す『リベルタスの果て』だった。



「見えたぞ。アレだな」



先頭を歩いていたイーシアさんが足を止め、山頂付近を指差した。

そこには、自然の造形とは明らかに異なる、黒曜石で造られた巨大な要塞──円卓の『前哨基地』がそびえ立っていた。



基地の周囲には、これまでとは比べ物にならない数の操り人形たちが、等間隔で陣形を組んで配備されている。



そして、その要塞の最上部。禍々しい魔力が渦巻く祭壇の上に、宙に浮く黒い立方体──レイを閉じ込めた『漆黒の結界』が安置されているのが見えた。



「レイ......!」



僕の胸の中で、『グリモ=メモリア』がドクンと大きく脈打った。間違いない。あの中に、レイがいる。



「さて、どうするユキ? 隠密で近づくには、ちょっと数が多すぎるぜ」



スミスさんが好戦的な笑みを浮かべ、ハンマーの柄を強く握る。



「敵の陣形は防衛に特化しています。突破するには、正面から一点突破で抉り開けるのが最善かと」



ソフィアさんが魔法の構築を始めながら、僕に判断を委ねた。



少し前の僕なら、この光景に足がすくんでいたかもしれない。

でも、今の僕の背中には、みんながいてくれる。そして何より、僕を待っている人がいる。



僕は大きく深呼吸をすると、腰から『聖剣リュミエール』を顕現させ、黄金の光を山に放った。



「隠れる必要なんてない。僕たちが来たことを、レイに......いや、世界中に教えてやるんだ」



僕の言葉に、イーシアさんが双剣を構え、スミスさんが雄叫びを上げ、ソフィアさんが巨大な魔力陣を展開する。



「行くよ、みんな!! レイを取り戻すんだ!!」



僕の号令と共に。

四人の奪還部隊は、黒い軍勢が待ち受ける敵基地へと、一気に突入を開始した。

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