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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
3章 快刀乱麻のブレイブハート

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57話 勝鬨

視界を埋め尽くしていた純白の閃光が、ゆっくりと薄れていく。



土煙と熱気が晴れた後に残っていたのは、更地になった荒野と......俺たちの勝利だけだった。



一瞬の静寂。



まだ死の恐怖に強張っていた市民たちが、目の前の光景を理解するまでに数秒を要した。



誰かが、震える声で呟く。



「かった......のか?」



その呟きは、すぐに熱狂の波となって広がった。



「う、おおおおお......俺たちの、勝利だああああッ!!!!」



割れんばかりの勝鬨が、サテンヘルドの空に響き渡る。



俺はその歓喜の渦を横目に、肩で息をする少年の元へと歩み寄った。



「やったな。アクシア」



短く声をかけ、右の拳を突き出す。



魔力を使い果たし、今にも倒れそうになっていたアクシアだったが、その顔には晴れやかな笑みがあった。



「うん......ボクたちの、勝ちだ」



彼は最後の力を振り絞り、俺の拳に、自らの拳をコツンと合わせた。



二度目のフィストバンプ。



あの薄暗い部屋で交わした時とは違う。



今の彼の瞳には、かつての後悔も、引きこもっていた頃の陰りもない。あるのは、自らの足で未来を勝ち取った活力と、確かな達成感だけだった。



◇◇◇◇◇



その後の事後処理は、痛みを伴いながらも順調に進んだ。



負傷者はユキと街の治療師たちが不眠不休で治療にあたり、そのほとんどが後遺症もなく回復する見込みが立った。



それでも、犠牲がゼロだったわけではない。



死者、数十名。最初の奇襲攻撃による被害だった。



俺たちはその死を悼み、丁重に弔った。全てを救うことはできなかったかもしれない。だが、この街は生き残った。俺たちが、守り切ったのだ。



そして──────



戦後処理から二日が経ち、街の復興が軌道に乗り始めた頃。



俺たちは再び、鉄と油の匂いが染み付いたスミスの工房へと戻ってきていた。



作業台の前で、スミスがニヤリと笑う。



「それじゃ、始めるとするか。『完全体フェルファクナ』の最終調整にな」



「痛みを伴う工程はもう終わってる。あとは微調整だけだ」



スミスのその言葉に、俺は肩の力を抜いた。



「んじゃ、眠りながらでもいいから座ってくれな」



その提案は、今の俺にとって救いだった。



ここ数日、戦後処理と警戒任務でまともに眠っていない。緊張の糸が切れた今、瞼は鉛のように重かった。



「......ああ。悪いが、任せたぞ」



言い終わるよりも早く、俺の意識は泥のような眠りへと落ちていった。



~~~~~~~~~~~~~~~



「......っ、はぁッ!!」



俺は弾かれたように飛び起きた。



心臓が早鐘を打ち、汗が背中を伝う。



とんでもない夢を見た気がする。内容は......いや、思い出すのはよそう。今はもう過ぎ去ったことだ。



「ん、どうした? 怖い夢でも見たかよ」



飛び起きた俺を覗き込むように、スミスがニヤニヤしながら顔を近づけてきた。



「......なんでもない。それより、作業は終わったのか?」



「へへん! よく聞いてくれたぜ!」



スミスは胸を張り、完成した『フェルファクナ』について語り始めた。



そこから一時間に及ぶ熱弁が続いたが......要約すると、機能は三つだ。



一つ目は『日常形態(ノーマルモード)』。



ガントレットの表面が、愛用している『ヒュニエスタ』と同じ特殊魔布で覆われ、擬態する。見た目の威圧感を消し、普段の生活に支障が出ないようにするモードだ。



二つ目は『戦闘形態(レディーモード)』。



サテンヘルド防衛戦で使用した形態。魔力循環を最適化し、無駄のない挙動を可能にする。



そして、三つ目。



「いいかレイ。最後の一つは『完全開放(フルバースト)』だ」



スミスの声色が、職人のそれへと変わる。



「お前の腕を覆う装甲をパージし、”あえて”魔鉱化した右腕を露出させる。リミッターを解除し、馬鹿でかい出力を叩き出すための形態だ」



「ただし......その反動は、四本の魔導杭を深々と突き刺すことで、お前の神経ごと無理やり発散させる。文字通りの諸刃の剣、切り札ってワケだ」



想像するだけで、右腕が幻痛に襲われるようだ。だが、それだけのリスクを背負う価値のある力なのだろう。



フェルファクナの調整は終わり、この街での俺の用事も全て済んだ。



「......さて、帰るか。ロンベルに」



翌日の出発に向け、俺は旅の準備を始めた。



荷物をまとめている途中、工房の扉が叩かれる。



「お、もう発つのか」



スミスだ。俺は「ああ」と短く頷き、作業を続けようとしたが......スミスは帰ろうとしなかった。



彼は決意を秘めた瞳で、俺を見据える。



「俺も、ロンベルへ行くぜ」



「......なに?」



「腕の立つ英雄様には、腕の立つ専属鍛冶師が必要だろ? それに、そのフェルファクナのメンテナンスができるのは、世界で俺様ただ一人だ」



スミスはニッと笑い、自分の荷物を掲げて見せた。



「まあ、任せろって!」



断る理由なんてない。これほど心強い仲間はいないだろう。



こうして、スミスも共にロンベルへ帰還することになった。



そして、翌日。



朝日が昇る中、街の出口には見送りに来てくれたアクシアの姿があった。



「ありがとう、レイくん。キミのおかげで、ボクは変われた」



アクシアは、もう俯いてはいなかった。その瞳は、真っ直ぐに俺たちを見ている。



「何かあったら呼んで。ボクも必ず力になるね。......それまで、もっと鍛えておくから!」



「ああ。期待してるよ、アクシア」



再会を約束し、俺たちは歩き出す。



アクシアとの別れは名残惜しいが、立ち止まっている暇はない。



背中で手を振る気配を感じながら、俺たちは前へと進む。



短いようで長かった、サテンヘルドでの激闘。



その旅は今、静かに終わりを告げた。

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