56話 融合の閃光
レイくんが前線から去って、約30分といったところか。 体感では数時間にも感じる濃密な死線の中、ボクは何とか食らいつくことができている。
もちろん、ボクだけの力じゃない。この街を守るために立ち上がった町の人たち、そして何より、後ろで支えてくれているユキさんのサポートありきだ。
レイくんが戻ってきたら、きっと何とかしてくれる。それまで、絶対に前線を崩壊させるわけにはいかない。 ボクが、道を切り開くんだッ!!
「ハアッ、ハアッ......!!」
少しの休憩を経て、乱れた呼吸を整える間もなく、ボクはまた前線へと飛び出した。 螺旋剣『クァエスタ・ヘリット』の回転慣性を殺さず、そのまま切れ味へと転換する。 小細工はいらない。一番強いのは、純粋な回転による正面突破だ!!
脳内で、理想の動きをシミュレーションする。 敵の配置、剣の軌道、衝撃の逃し方。 妄想で描いた完璧な動きを、魔力を使って補正し、無理やり実際の肉体の動きへと投影する。
バキメキッ!!
「ぐッ......!!」
その代償で、筋肉が断裂し、骨が軋む音が体内で響く。 だが、その激痛が脳に届くよりも早く、温かな光がボクを包み込んだ。ユキさんの回復魔法だ。受けたダメージが、無かったようになる不思議な感覚がする。
だから──────!!
正面の装甲を粉砕。左の敵を弾き飛ばし、足払いで体勢を崩してからの回転撃ッ──────
ボクは、ボクの妄想を、そのまま現実にできるんだ。
「貫けえぇぇぇぇ!!!!」
轟音と共に、敵陣の中央を抉り抜く。 しかし、連戦による体力の消耗は限界に近い。思考の処理が追いつかず、死角が生まれる。
背後。鋭い殺気。 振り向こうとするが、体が鉛のように重くて動かない。
──────まずい、このままじゃ!!!
迫る凶刃に、死を覚悟したその時だった。 突如として黒い疾風が戦場を駆け抜け、ボクの視界を覆っていた絶望を斬り裂いた。
右腕に、禍々しくも美しい黒鉄の武器を纏った、ボクの”追うべき”人が帰ってきたのだ。
「良く耐えきったな。アクシア!」
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スミスの工房を飛び出し、戦場に戻った俺の目に映ったのは、驚くべき光景だった。
そこでは、アクシアが鬼神の如き活躍を見せていた。 巨大なドリルを振り回し、目の前に押し寄せる大軍を、文字通り”貫く”ように蹴散らしている。
そして目を引いたのは、ユキとの連携だ。 いや、あれはアクシアの無茶な突貫に、ユキが完璧なタイミングで回復と防御を合わせにいっているのか。 あいつの無謀な戦い方を成立させるため、ユキが全神経を注いで支えているのが分かった。
それでも、敵の数は圧倒的だ。殲滅しきれないのは、決定的な最後の一手が足りないからだろう。
俺は、魔力を脚に集中させ、全力で前線へと駆けた。
「貫けえぇぇぇぇ!!!!」
アクシアの咆哮が響く。 限界を超えた一撃が敵陣を穿つが、その反動で彼の動きが完全に止まった。 その隙を見逃さず、兵士が背後から刃を振り上げる。
──させない。
俺は風よりも速く間合いを詰め、魔剣を抜き放つ。
ザンッ!!
交差した一瞬。兵士の首が宙を舞い、アクシアへの凶刃は空を切った。 俺はそのまま勢いを殺し、荒い息をつくアクシアの背中に、労うように声を掛けた。
「良く耐えきったな。アクシア!」
ここまで耐えてくれたアクシアとユキをちらっと見る。
死線を越え、曇りかかっていた二人の顔に、パッと希望の光が差したのが分かった。
「レイくん!」
「レイ!」
その期待に、応えなきゃ男じゃないだろう。
俺は『フェルファクナ』を装着した右手を、眼前の大軍へと向ける。
久しぶりの感覚だ。だが、体は覚えている。俺は初心に帰り、一つ一つの工程を丁寧に、かつ高速で紡ぎ出す。
大気中のマナを収集。
体内魔力と結合。
そして、敵を屠るための破壊のイメージを、術式へと流し込む。
腰のホルダーから『グリモ=メモリア』が浮き上がり、パラパラとページがめくれる音が響く。
アーカイブされている俺の定型化した魔法を展開。
この現実を、”改変”する。
「ドラゴ=フォイア」
静かに告げた詠唱は、掌の前で紅蓮の顎となり、前衛の敵を瞬時に炎の海へと沈めた。
ゴォォォォォ......ッ!!
凄まじい熱量。通常なら、過剰魔力が俺の身体を蝕むはずだ。
だが。
プシュゥゥゥゥッ!!!!
鋭い排気音と共に、フェルファクナの装甲板が展開。
余剰魔力が白煙のような熱気となって、外部へと排出された。
痛みは......ない。
これなら──────いける。
俺はニヤリと笑い、右手にさらなる魔力を込める。
今できる、最強の一撃。
敵を一掃するための、戦略もクソもない、ただ純粋な破壊の暴力だ!!
その時、横からアクシアが俺の右腕に手を添えた。
「敵を一掃する妄想なら、もう終わってるよ、レイくん!!」
アクシアの瞳が、青白く輝いている。
「ボクの妄想を、使って!!!」
接触した肌を通して、アクシアの脳内で描かれた「完璧な殲滅図」が、直接俺の脳内へと流れ込んでくる。
敵の配置、弱点、魔力の流れ、爆発の規模。
何百通りもの計算の果てに導き出された、唯一の解。
俺はそのイメージをそのまま魔力に乗せ、四つの属性を強制的にねじ込んだ。
複合魔法──────
「エレメンタル=クォーク!!!!」
炎、水、風、土。
四色のマナが渦を巻き、臨界点で結合する。
色が混ざり合い、世界から色彩が消えた。
生まれたのは、全てを塗りつぶす「白」。
音すらも置き去りにする究極の閃光が、サテンヘルドの戦場を包み込んだ。




