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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
3章 快刀乱麻のブレイブハート

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55話 最強の矛

俺たちは、土煙を巻き上げながらスミスの工房へと滑り込んだ。



壁一枚隔てた外の世界では、爆音と衝撃が絶え間なく鳴り響いている。アクシアとユキが、その身を削って時間を稼いでくれているのだ。



一秒たりとも、無駄にはできない。



「早速始めてくれ。俺のことは気にするな。手加減なしの全力で頼む」



作業台に腕を投げ出し、俺は短く告げる。それはスミスへというより、恐怖心を抱く自分自身への戒めでもあった。



スミスは工具を手に取り、ニカっと口角を吊り上げる。



「ああ! 言われなくたって、俺の辞書に手加減なんて言葉はねえよ!!」



その言葉を最後に、スミスの纏う空気が一変した。



親しみやすい悪友の顔は消え、そこにあるのは鉄と魔力を支配する職人の眼光。



「......じゃあ、行くぜ」



スミスがスイッチを入れる。



ギュイィィィィイイン......!!



甲高い駆動音と共に、高速回転する魔力ドリルが、俺の右腕に突き立てられた。



「ぐ、おおおおおおおおッッ!!!」



皮膚を裂き、肉を抉り、変質した骨へとドリルが食い込む。



脳髄を直接ミキサーにかけられるような激痛。飛び散る火花と鮮血、そして魔力の残滓が視界を灼く。



意識が白く飛びそうになるのを、俺は奥歯が砕けるほどの力で噛み締めて繋ぎ止める。



痛い。だが、外で戦うあいつらの痛みに比べれば、こんなものは蚊に刺された程度だ。



遠のく意識の中で、骨格の切削が終わる感触があった。



「ここからが本番だ。神経接続を固定するために、魔導杭を四本打ち込む。......舌噛むなよ、レイ!!」



スミスの鋭い警告。



直後、上下左右、四方から冷たい杭があてがわれた。



ドゴォォォォン!!



ハンマーが振り下ろされる。



打撃のたび、神経網に灼熱の鉛を流し込まれるような衝撃が走る。熱いのか冷たいのか、それすらもう判別できない。



二本、三本......四本目。



限界を超えた激痛が、逆に俺の意識を鋭敏に研ぎ澄ませていく。



「よし......コネクター装着に成功した。最後だ、ガントレット接続!!」



肉に食い込んだ杭を覆うように、黒光りする魔鉱の装甲がスライドし、装着される。



カシャン、と重厚にして冷徹なロック音が工房に響き渡った。



暴走しかけていた右腕の魔力が、強制的に循環回路へと組み込まれていく。



スミスが額の汗を拭い、獰猛な笑みを俺に向けた。



「......完成だ。そいつが、今の暴走した右腕を制御し、敵を穿つ最強の矛」



俺は、新しく生まれ変わった右腕をゆっくりと持ち上げる。



「『フェルファクナ』だぜ!!」



──────フェルファクナ。



これが、俺の魔力循環を正常化し、破壊の力を効率へと変換する新たな相棒だ。



俺は右手の感覚を確かめるように、ゆっくりと拳を握り込む。



肉を削られた手術の鈍痛は残っている。だが、これまで常に感じていた、血管をマグマが流れるような魔力暴走の激痛は......綺麗に消え失せていた。



代わりに流れるのは、冷徹で静謐な魔力の奔流。



「よし......循環は安定している。完璧だぞ、スミス」



「ったり前よ! 俺を誰だと思ってるんだぜ」



スミスは額の汗を拭いながら、張り詰めていた糸が切れたようにいつもの調子へと戻っていた。



だが、その顔色は蒼白だ。限界を超えて作業してくれた証拠だった。



「いいかレイ。そのフェルファクナは、まだ完全じゃねえ。......だが、その”モード”だけは完成させておいた。いわば、純粋な戦闘形態ってワケだ」



余計な機能は削ぎ落とし、ただ戦うためだけに特化させた。今の俺にはそれが一番ありがたい。



「利便性を高める調整は、これが終わってからだな」



「おうよ。......じゃあ、あとは派手に暴れてこいよ。頼んだぜ、守護者様!!」



言い切った瞬間、スミスの体から力が抜けた。



俺は倒れ込むその体を支え、近くの作業用椅子へと静かに座らせる。



泥のように眠る友の顔を見下ろし、俺は短く告げた。



「......ああ。あとは、任せろ」



工房の扉を開け放つ。



熱風と轟音が、再び俺の頬を叩いた。



準備は整った。



すでに、翼を折られた剣聖はそこにおらず、自らの存在を再観測する。縛られた英雄は解き放たれ、戦場へと舞い戻った──────。

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