54話 思わぬ共闘
「レイ。奴らがここまで来るのも、時間の問題だぜ」
俺はアクシアを避難させた後、スミス、ユキと合流し、最前線へと舞い戻っていた。 スミスの言う通り、視界の先──市街地の目抜き通りを埋め尽くすように、円卓の軍勢が迫ってきている。
俺の体は、まだスミスによる改造手術の途中だ。 武器はない。右腕も制御できていない。
「......無理して、いいか? ユキ」
俺は隣に立つ相棒に、短く問いかけた。 もうなりふり構っていられない。今の状況で、武器なしにこの大軍を倒し切れるのは、俺の命を削る大規模魔法だけだ。 それを使えば、俺の半身は完全に魔鉱化し、二度と戻らないかもしれない。
ユキは顔を歪め、凄く渋い表情をした。 止めたいはずだ。でも、ここで俺たちが引けば、サテンヘルドは終わる。 数秒の葛藤の末、ユキは悲痛な覚悟と共に頷いた。
「......わかった。僕が、全力でサポートする」
「ありがとう」
俺は前に出た。 右腕の激痛を無視し、ありったけの魔力を練り上げる。 血管が軋む。視界が明滅する。それでも構わない。
敵の先頭集団に向かって、魔法を放とうとした、その時だった。
「──うぁぁぁぁあああああッ!!!!!!!!!!」
頭上から、聞いたことのない絶叫が降ってきた。
ズドォォォォオオオン!!!!
轟音と共に、俺たちの目の前──敵軍のど真ん中に、巨大な隕石が墜落したかのような衝撃が走った。 アスファルトが砕け、爆風が先頭にいた兵士たちを吹き飛ばす。
「な、なんだ!?」
俺は腕をかざして砂埃を防ぐ。 煙の向こう、クレーターの中心に、影が一つ立っていた。
「いつつ....まだ出力の調整がうまくできてないな」
右手に、正常に動作をしている「螺旋の剣」を携えて。 ハーフアップにまとめた金髪が、風に揺れる。
「あ、アクシア......!?」
そこにいたのは、避難したはずの、あの少年だった。
「レイくん! スミス! 二人は工房に戻って、その腕をどうにかして!!!!」
こちらに振り向かず、アクシアは敵を見据えたままそう叫ぶ。
「ここは、ボクが止めるッ!!!!」
「ああ! 任せたぞ!!」
その意志に、俺は突き動かされるようにその場を立ち去った。
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さて、どうしようか。
ボクはスミスの工房を出て、このクァエスタ・ヘリットを起動させた。 そのあと、出力最大でぶっ飛んできたってワケだ。 着地の衝撃で足が痺れているが、アドレナリンのおかげか不思議と痛みはない。
「ありがとう。アクシアくん」
後ろから、レイくんの相棒であろう人が話しかけてきた。 透き通るような銀髪の少年。
「あなたが、勇者......ですか?」
「うん。僕はユキ。よろしくね」
この人がレイくんの相棒だって、一瞬でわかった。 纏っている雰囲気が一緒なんだ。優しくて、でも芯に絶対に折れない強さがある。
「僕が援護するから、アクシアくんは思いっきり暴れてきて!!!」
ユキさんは可愛らしくウィンクすると、杖ではなく、虚空へと手を伸ばした。
「サモン・オブ・リュミエール」
刹那、ユキさんの手元に眩い光の粒子が収束する。 空間が揺らぎ、そこから現れたのは、黄金に輝く一振りの剣。 間違いない。あれこそが、世界を救う「聖剣」だ。
勇者が剣を抜いた。なら、ここから先はボクの仕事だ。
「どうやら、ボクの出番みたいだね」
ボクは巨大な螺旋剣を構え、眼前に迫る機械兵の群れを見据えた。 脳内で、シミュレーションが走る。沢山の行動パターンが頭に浮かぶ。それに合わせて動くか。
「行こうか。クァエスタ・ヘリット」
ギュイイイイイイイイイイイイッ!!!!
ボクの魔力を吸い上げ、ドリルが高速回転を始める。 甲高い駆動音が、敵の足音を掻き消した。
「行ける。ボクなら!!!」
ボクは地面を蹴った。 先頭にいた重装甲の魔導兵器が、盾を構えて突っ込んでくる。 普通なら弾かれる。だが──。
「計算通りだッ!」
ドガガガガガガガッ!!!!
激しい火花と共に、クァエスタ・ヘリットの切っ先が敵の盾に食い込む。 拮抗したのはコンマ数秒。 回転する螺旋の刃は、分厚い鉄板をまるで紙切れのように引き裂き、そのまま本体へと貫通した。
「ハッ、軽い!!!」
貫いた敵を回転の遠心力で振り回し、後続の部隊へと投げつける。 将棋倒しになる敵軍。
「すごい......!」
後ろで聖剣を構えたユキさんが、目を丸くしているのが気配でわかる。 ボクは止まらない。 髪を振り乱し、戦場を駆ける。 引きこもっていた数年分の鬱憤を、全てこの回転に込めて。
──────さあ、暴れよう。クァエスタ・ヘリット。




