52話 立ち上がる勇気
俺たち三人は、飛び出るように工房の外へ出た。
黒煙が視界を覆い、爆発音が鼓膜を揺らす。俺は掛けてあった魔装ヒュニエスタを引ったくり、袖を通しながら臨戦態勢を取る。
「ここは僕が出るよ! レイ、今のレイに無理をさせるわけにはいかない!」
ユキが決意の表情で、敵の砲撃地点へ向かおうとする。だが、俺はそれを手で制し、冷静に戦況を分析した。
「待て、ユキ。一度ここは様子見だ。迫撃砲はあるが、歩兵の本隊はまだ遠い。今は迎撃よりも、市民の避難を優先させよう」
「でもっ......!」
「俺の体が万全じゃない今、お前まで前線で孤立したら終わりだ。確実にいこう」
俺の言葉に、ユキは少し悔しそうに唇を噛んだが、すぐに頷いた。
「わかった。スミスさんは南側の区画を! 僕は北側の人たちを誘導する!」
「おうよ! レイ、アンタも無茶すんじゃねぇぞ!」
三人は短く言葉を交わし、それぞれの持ち場へと散った。
俺は混乱する街中を駆け抜け、逃げ遅れている人々を広場の方角へ誘導していく。 瓦礫を越え、悲鳴が交錯する中、俺の足は自然とある場所へと向かっていた。
アクシアの家の前だ。 周囲の家は空っぽだが、ここだけまだ人の気配がする。
「アクシアは、逃げてないらしいな」
俺は切れかけていた息を整え、勢いよくドアを開けた。
「大丈夫か、アクシア!」
声を掛けると、薄暗い部屋の奥、机の下で耳を塞いで震えているアクシアがいた。
「あ......レ、レイさん......?」
よし、無事だ。これならまだ間に合う。
「ここは危険だ。早く避難したほうがいい。ユキたちが誘導している広場へ走れ」
俺は彼の手を引き、避難を促そうとする。だが、アクシアはその場を動こうとせず、震える声で問いかけてきた。
「レイさんは......どうするんですか?」
「え?」
「さっき、スミスとの会話が聞こえちゃったんです。レイさんの体はボロボロで......戦える状態じゃないって」
アクシアが俺の目をまっすぐ見て、問いかけてくる。 その瞳は怯えていた。けれど、それ以上に「答え」を求めていた。 傷つき、万全でない人間が、なぜ死地に赴くのか。その理由を。
俺の答えはもちろん──────。
「俺は逃げないよ。例えそれで、体が壊れても、逃げるわけにはいかないんだ」
ユキと一緒に、最後まで足掻く。そう決めたから。 それに、ここで逃げたら、俺は本当に「何も守れなかった過去」に負けることになる。
「......ッ」
アクシアは息を呑み、何かを納得したように頷いた。 彼は涙を拭うと、リュックを背負い、立ち上がる。
「わかり、ました......。ボクも、行きます」
「ああ。頼んだぞ」
俺はアクシアの背中を押し、家から送り出す。そして、戦火の上がる通りへと駆け出す直前、振り返ってこう言い残した。
「あと、俺に”さん”はつけなくていいからな。友達だから」
少しむずがゆかったが、アクシアともっと仲良くなりたかった一心で、不意に言葉に出ていた。
◇◇◇◇◇
ボクはレイさんに送り出されて、避難場所へと向かっていた。 しかし、心が辛い。あの時と、両親を失ったあのダンジョンブレイクの時と重なる。
「このままで、いいのか......?」
そう思ったときには、避難の足は止まっていた。 二度と、何もできないまま終わるのは、嫌だ。
でも、怖い。痛いのが、失うのが、死ぬのが。
「......う、うぅッ」
ボクはたまらず、その場にうずくまってしまった。 ダメだ。怖い。前に進めない。やっぱりボクは、家で引きこもっているのがお似合い。そういう定めだったんだ。
そう、決めつけようとした瞬間、固く閉じた目の裏によみがえる、レイさんの背中。
レイさんは、過去を乗り越えているんじゃなかった。 受け止めて、ボロボロになりながら、それでも引きずって進んでいるんだ。
そのレイさんは、ボクの閉ざしていた心のドアを若干開けた。だから、今迷えている。
そうか──────。
ボクに必要だったのは、”きっかけ”だったんだ。
それなら、ボクにだって、出来ることはあるかもしれない。 引きこもりながらずっと考えていた妄想の数々。それが、想像力となり、ボクに力を与えてくれる。
何万回にもわたる、脳内シミュレーション。ボクに想像できないことは、きっとない。
「ボクに、出来ることをやるんだ」
そう思った瞬間、足は避難所ではなく、スミスの工房に向かっていた。
────武器が、いるんだ!!!




