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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
3章 快刀乱麻のブレイブハート

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50話 『友達』

スミスの工房に到着した翌日。 俺たちは予定通り、スミスの幼馴染であるアクシアの家の前へとやってきた。



ユキには工房の留守番を頼んである。 ......まあ、去り際にウキウキで「この街、散策してくるね~!」と言っていたので、十中八九出歩いているだろうが。まあ、あいつなら大丈夫だろう。



「お邪魔するぜ。アクシア」



スミスが慎重にドアを開け、薄暗い部屋へと足を踏み入れる。 淀んだ空気。そこには、長らく切っていないであろう、伸び放題の金髪に埋もれるようにして座る青年の姿があった。



髪の隙間から、わずかに虚ろな瞳が覗く。 あれは、全てに絶望し、心を閉ざした人間の目だ。直感でそう察した。



「元気か、アクシア」



スミスは持ってきた差し入れの食料を床に置き、アクシアへと向き合う。しかし、アクシアは膝を抱えたまま、言葉を発さない。



「なあ、アクシア。もうそろそろ、俺と一緒に外に出てみないか?」



「......」



「あれから随分と時間は経ったんだ。俺の工房なら、雑用からでもやっていける。お前の手先が器用なのは俺が一番知ってるからな」



スミスは自分なりに、アクシアの未来を考えて提案しているのだろう。 だが、今の彼に「未来の話」は劇薬だ。あれでは逆効果になってしまう。 俺の予想通り、アクシアは拒絶の言葉を漏らした。



「......いいんだ。ボクには、外に出る資格なんてないから」



その痛々しい空気に、俺は思わず一歩踏み出していた。



「ちょっといいか、スミス。俺もアクシアと話してみたい」



「ん? ああ、いいぜ! アクシア、この人はロンベルから来た俺の客だ。凄腕の剣士なんだぞ」



スミスの紹介に、アクシアの視線がわずかに俺の方へ動く。だが、すぐに興味を失ったように床へと戻った。



「スミス。悪いが、少しの間アクシアと二人きりで話させてくれないか」



「え? あ、ああ......わかった。俺は外で待ってるよ」



スミスは不思議そうな顔をしつつも、俺の真剣な目を見て察してくれたのか、静かに部屋を出て行った。 俺がしてあげられること。お節介かもしれないが、やれるだけやってみよう。



「アクシアだったか。俺はレイ。勇者の守護者をやっている者だ」



俺は彼の目線に合うように、埃っぽい床に腰を下ろした。



「無理に返答する必要はない。ただ、少し話をしてみたかっただけだからな」



昔、泣いているユキをなだめた頃を思い出し、努めて優しい口調で語りかける。 腫れ物に触るような優しさではない。対等な人間としての言葉だ。



「何があったかは聞かないし、今の現状に同情もしない。......ただ、一つだけ気になったんだ」



俺は、膝を抱えて震える青年の背中に、言葉を投げる。



「キミは、現実から逃げてるんじゃない。現実を『直視しすぎている』んじゃないか?」



俺がかけられる言葉。 それは、絶望の淵を覗き込みすぎた人間にしか分からない、視点の転換だった。



の言葉を聞いた瞬間、アクシアの目がゆっくりとこちらに向いた。



長い前髪の奥にある瞳。 それは、全てに絶望した「死んだ目」ではなかった。 過去という牢獄に捕らわれ、そこで膝を抱え続けている......深い「後悔の目」だ。



「......あなたは、ボクのこと軽率に慰めないんだね」



アクシアが、俺に向かって初めて口を開いた。 掠れた声だが、そこには確かな意思が宿っていた。少しは言葉が届いたのだろうか。



「ああ。思ってもいない同情を、無理に演出しても嘘になるだけだ。そういうのは、お互い好きじゃないだろう?」



「......ふふ。変わってる人だね」



その口調は、さっきまでの拒絶の色が消え、少しだけ楽しげな響きを帯びていた。 今なら、踏み込める。 俺は、自分の中に芽生えた直感を信じて、言葉を継いだ。



「俺達は、多分似た者同士だ。過去に縛られて、それでも何かを探してる」



俺は一拍置き、少し照れくさい気持ちを押し殺して告げた。



「だから──友達になろう」



友達。 俺自身、よくわかっていないその響き。しかし、その言葉の中にある「対等な繋がり」こそが、彼を外の世界へ引き出す唯一の一手だと思った。それに、俺自身もアクシアという人間に、不思議なシンパシーを感じていたからだ。



「......友、だち」



アクシアは、その言葉を噛みしめるように繰り返す。 やがて、彼は小さく頷いた。



「......わかった」



俺は、友情を示す証として、右手の拳を突き出した。 黒い革手袋に包まれた、硬質な拳。 だが、アクシアは躊躇わなかった。彼は痩せ細った白い腕を伸ばし、俺の拳に、自らの拳をコツンと合わせた。



フィストバンプ。 言葉はいらない。その小さな衝撃が、俺とアクシアを繋ぐ契約の証。 これが、彼の、そして俺たちの運命が変わる転換点になる。そんな確かな予感がした。

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