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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
3章 快刀乱麻のブレイブハート

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49話 鉱山の町

暗い部屋、長らく使われていない発掘道具、そんな空間の中にボクはいた。



立ち上がる気力も、立ち上がる意味も分からない。そんな雁字搦めの日常。ボクには、それがお似合いだろう。



──────誰も救えなかったボクには。


────────────────────────────────────



「レ、レイぃ......。休憩しようよぉ......」



「ああ。ここら辺でひと休憩するか」



ユキの情けない声を聞き入れ、俺たちは街道沿いの木陰に腰を下ろした。 俺たちの旅は、拍子抜けするほど順調だった。 というのも、サテンヘルドで産出される魔鉱石は、ロンベルやエデニアムにも多く流通している。その影響で、二都市間のインフラ整備が徹底されているのだ。



道は舗装され、定期的に騎士の巡回もある。 荒れた獣道を通る必要もなければ、盗賊に襲われる心配も少ない。 ロンベルを出て早二日。サテンヘルドまでは、あと一日もあれば着くらしい。



「なあ、スミス。俺のこの腕をどう改造する予定なんだ?」



休憩がてら、気になっていたことをスミスに聞いてみる。 スミスは携帯食を齧る手を止め、珍しく真面目な表情になった。



「いいかレイ。ただ外側から覆うだけのガントレットじゃあ、アンタの魔力出力は抑えきれねぇ。すぐにガタが来る」



「だろうな」



「そこでだ。制御機構を、直接その結晶化した腕に『埋め込む』。......そんな感じだな!!」



スミスは腕を組み、自らの頭にある理想の設計図を語った。 装着するのではない。肉体、あるいは結晶化した骨格そのものに、魔導回路を直結させる。

スミスの案は、普通の職人なら禁忌とする領域だ。 しかし、俺の右腕はすでに人間の物とは言えない。それなら、最適なのがそれなのも理解できる。



「しかし、問題点が一つある。それは、取り付け時にアンタへの負担が大きくかかるってところだな。骨を削るような激痛が伴うぞ」



「問題ない。煮るなり焼くなり好きにやってくれ。ただし、最高の物を作ってくれよ」



俺の即答に、スミスはニヤリと口角を吊り上げた。



「へっ、言ってくれるじゃねぇか! 最高の素材に最高の使い手......職人冥利に尽きるぜ!」



スミスはやる気を滾らせ、再び歩き出す準備を始めた。 その背中を見ながら、俺も立ち上がる。 痛みなど、とっくの昔に友達だ。強くなれるなら、腕の一本や二本、喜んで差し出してやる。



◇◇◇◇◇



それから歩くこと半日。 街道の整備が行き届いていたこともあり、俺たちは想定より早く目的地へとたどり着いた。



「ここが、サテンヘルドか......!」



眼前に広がる光景に、息を呑む。 切り立った岩山にへばりつくように、無数の鉄骨とパイプが張り巡らされている。 あちこちから吹き上がる白い蒸気。重低音を響かせて回転する巨大な歯車。 そして、奥の方には魔鉱石が山積みにされたトロッコが、血管のように伸びるレールを絶え間なく行き交っていた。



鉄と蒸気、そして熱気の街だ。



「ようこそ、サテンヘルドへ! だぜ!」



スミスが我が家のように両手を広げ、ニカっと笑う。 とりあえず、ガントレットが完成するまでの間は、街外れにあるスミスの工房に泊まらせてくれることになった。宿代が浮くのはありがたい。



俺たちはスミスの案内で、活気あふれる市街地を歩く。 だが、ある一軒の家の前を通った時だ。 それまで快活だったスミスの表情が、一瞬だけ曇ったのを俺は見逃さなかった。



周囲の家はどこも煙突から煙を上げているのに、その家だけは雨戸が閉ざされ、まるで死んだように静まり返っていた。



「この家には何があるんだ?」



気になって問いかけると、スミスは歩みを止め、少し迷った末に口を開いた。



「えーとな。この家にはアクシアっていう青年が住んでいてな。俺の幼馴染なんだが......」



スミスは閉ざされた扉を、痛ましそうな目で見つめる。



「数年前にあったダンジョンブレイクで両親を失ってから、ずっと引きこもってるんだよなぁ......」



「......そうか」



ダンジョンブレイク。その単語の重みを、俺は知っている。 スミスの横顔には、「何とかしてあげたい」という焦りと、どうにもできない無力感が張り付いていた。 その表情を見て、俺の中に奇妙な共感が生まれた。 絶望して、殻に閉じこもりたくなる気持ち。それは、死に続けてきた俺にも覚えがある感覚だったからだ。



ガントレットの設計と基礎工事が終わるまで、俺の手は空く。 世話になる礼も兼ねて、何かできることがあるなら力になりたい。そう思った。



「明日、俺一人で生存確認に行こうと思っていたんだが......一緒に来るか?」



俺の視線に気づいたのか、スミスが顔を上げて提案してくる。



「ああ。俺で良ければ付き合うよ」



「助かるぜ。あいつも、たまには違う人間の顔を見た方がいいかもしれねぇ」



スミスは少しだけ安堵したように笑い、再び工房へと歩き出した。 鉄の街の片隅で、止まってしまった時間を動かすために。

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