42話 二人の戦い
準備を整え、出撃する。今までのループと違うのは、ムラクとクオカミに対応するのが俺とユキの二人ということだ。
「行くよ。レイ」
隣にいるユキの存在が大きく感じる。俺は頷き、
俺はユキを抱きかかえ、一気にあの二人へと突撃する計画だ。
「チャージング=ストレングス」
「しっかり掴まってろよ!」
そして、一気に駆け出した。
◇◇◇◇◇
ムラクとクオカミの前に立ち、いつも通り決闘を挑む。
「円卓第十位『クオカミ=パッロン』、円卓第十一位『ダーシ=ムラク』! お前ら二人に決闘を挑もう!」
俺は魔剣を突きつけ、最大限の挑発を行う。
幾秒かの静寂を切り裂き、小柄な男──クオカミが口を開いた。
「わかった。第十席、クオカミ=パッロンの名において、貴様との決闘を受けよう」
「ボクは、そういう展開に燃えるタイプでね。その心意気、気に入ったよ」
クオカミは上から目線で、俺達の決闘を受け入れた。
「ムラクもそれでいいだろう?」
「......兄者がそうするなら、異論はない」
ここまでは毎回と一緒。大事なのは、ここからだ。
51回目の開戦。俺は、弾丸のように飛び出した。
俺は頷き、ターゲットを定める。狙うは──第十席、クオカミ=パッロン!
「チャージング=ストレングス!」
ムラクが反応して迎撃に来るが、その動きはすでに50回の死で学習済みだ。大振りのフックを、紙一重でスライディングして潜り抜ける。
「なっ!?」
ムラクの驚愕を置き去りにし、俺はクオカミの懐へと肉薄した。
「調子に乗るなよ、人間風情がッ!」
クオカミが嗤い、あえて無防備に身体を晒す。コイツの戦法はカウンターだ。斬られた傷口から血を操り、反撃する。だから、俺の攻撃を避けようとしない。
上等だ。俺は魔剣を振りかぶり、全力でクオカミの肩口から胸にかけて斬り下ろした。
ズバァッ!!
深々と肉が裂ける感触。クオカミが恍惚の表情を浮かべる。
「あハァッ! いい痛みだ! さあ、ボクの血よ、刃とな──」
クオカミが能力を発動しようとした、その瞬間。俺の背中で、ユキが冷徹に詠唱した。
「──────拒絶」
黄金の光がクオカミの傷口を覆う。次の瞬間。パックリと開いていたはずの傷口が、強引に縫い合わされるように塞がった。
「......は?」
クオカミの思考が停止する。痛みはある。骨まで達した衝撃も、断たれた筋肉の激痛も残っている。だが──「傷口」だけがない。当然、血も出ない。
「な、なんだこれは!? 血が出ない!? 傷が、ない!?」
クオカミがパニックに陥り、自分の胸をまさぐる。あいつの能力「バーサク・アンドレイア」は、血液を媒介にする。血が出なければ、ただの痛みに悶える小柄な男でしかない。
「『回復』じゃない。お前のその傷だけを、拒絶したんだ」
「が、はッ......!?」
俺はがら空きになった腹に、強烈な蹴りを叩き込む。クオカミは悲鳴を上げながら吹き飛んだ。まずは一人、無力化!
「兄者ァッ!!」
弟がやられたのを見て、ムラクが激昂する。全身の筋肉を膨張させ、暴走列車のような勢いで背後から迫る。速い!クオカミへの追撃に意識を割いていた俺は、反応が一瞬遅れた。
「しまッ......!」
回避が間に合わない。魔装ヒュニエスタで受け止めるか? いや、あの質量だ。中身が潰れる!
その時。
後ろから詠唱が聞こえる。
「借りるね、レイ」
「模倣:チャージング=ストレングス」
その魔法は、勇者の力と相乗して途轍もない速さを引き出していた。
「させないッ!!」
「来て!僕の剣!!!」
ユキが左手を突き出し、その左手に魔力を帯びさせる。まるで、俺が魔剣を生成するように。
「サモン・オブ・リュミエール!!!!」
俺の目の前で、ユキが聖剣を呼び出した。そして、とっさにムラクの攻撃に合わせる。
「ハァァァァッ!!」
ガギィィィンッ!!
衝撃波が周囲の地面を抉る。ユキの細い腕が、ムラクの剛腕を真正面から受け止めていた。聖剣と剛腕が火花を散らす。
「ググッ......小僧ォォォッ!!」
「レイ! 今だ!!」
ユキが叫ぶ。その声が、俺の思考をクリアにする。俺が作った隙をユキが守り、ユキが作った隙を俺が突く。これだ。これが、俺たちが目指した戦いの形だ!
「ああ!!」
俺は地面を蹴り、ムラクの懐──ユキがこじ開けた死角へと滑り込む。魔剣に全ての魔力を込める。50回分の殺意を乗せて。
「これで、終わりだァァァッ!!」
ズドォォォォォォッ!!
漆黒の刃が、ムラクの巨体を貫通した。心臓、肺、背骨。生命維持に必要な全てを破壊する一撃。
「ガ......ァ......?」
ムラクの動きが止まる。その瞳から光が消え、巨木が倒れるように、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
地響きと共に、土煙が舞う。俺とユキは、肩で息をしながらその光景を見下ろす。
無力化は何度もできた。だが、致命的な一撃は今までで一度もできなかったのだ。それを、俺達はやってのけた...!
だが。
「こうなることは、想定としてあった。でも実際、目前にすると不快だな」
地獄の底から響くような、怨嗟の声。吹き飛ばされていたクオカミが、ゆらりと立ち上がっていた。その目は、弟の死体釘付けになっている。
「ルター兄から聞いていた通り、油断しちゃいけなかったんだ。これは兄であるボクの責任だな。ゴメンよ、ムラク」
そう告げるクオカミの顔は、さっきまでの遊んでいるような顔ではなく、覚悟を決めた漢の顔になっていた。
「いつからか見誤っていたんだ。ボク自身の正義というものを。だから、今から誇示してやる。ボクの、正義を!!」
バヂヂヂヂッ!!
クオカミが自らの喉を爪で引き裂く。傷を拒絶されるなら、自ら死ぬほどの傷を負えばいいとでも言うように。噴き出す血が黒く変色し、クオカミの身体を繭のように包み込んでいく。
その勢いは、ユキの拒絶のキャパシティを超えていた。
「まだいけるか?ユキ」
「うん!大丈夫。気を抜かずに行こう」
俺は魔剣を構え直す。隣には、聖剣を構えたユキが並ぶ。




