41話 拒絶の力
──────戻ってきた。 この観測起点に。
何回も繰り返した、この最初の嫌悪感。吐き気と目眩。それを久しぶりに感じる。だが、今回は違う。心臓が早鐘を打っているのは、恐怖からじゃない。
「よし。やるか」
俺はベッドから跳ね起きると、身支度もそこそこに部屋を飛び出した。目的地はエデニアム本部。 目的はただ一つ。ユキの記憶を、このループに定着させること。
廊下を疾走する。すれ違う兵士たちが驚いた顔をしているが、構っていられない。 本部にある個室。そこには、いつもの様にユキが眠っているはずだ。
バンッ!
扉を勢いよく開ける。 ベッドの上には、まだ何も知らない顔で眠るユキの姿。 俺はそのユキの手をしっかりと握り、ポケットからグリモ=メモリアを取り出した。
「頼む...!」
強く念じる。 その時、俺とユキの重ねた手が、黄金に光り出した。 部屋全体を包み込むような暖かな光。 その光の中で、眠っていたユキの瞼がピクリと動き──ゆっくりと開かれた。
その瞳には、確かな理性が。そして、俺と共に地獄を乗り越える決意が宿っていた。
──────ユキは、このタイムラインにシフトした。
「......ただいま、レイ!」
ユキが俺の手を握り返し、噛みしめる様に言う。 その言葉の重みを知っているのは、世界で俺たち二人だけだ。
「ああ。おかえり、ユキ」
絶望を貫くその言葉を、俺たちは力強く交わした。
◇◇◇◇◇
「僕の能力について、聞いてほしいんだ」
その後、俺たちはすぐに作戦会議室へと移動した。 ソフィアとイーシアは、突然覚醒し、しかも自信に満ち溢れているユキを見て呆気にとられているが、説明は後だ。 今は、この「51回目」を勝利で飾るための作戦会議が最優先だ。
「僕の、ううん、勇者の能力は、”絶望の拒絶”みたい。レイ、そこの観葉植物の枝を折ってみて」
「こうか?」
俺は言われるがまま、部屋の隅にあった観葉植物の枝をパキンと折り、その折れた枝をユキに手渡した。
ユキはそれを受け取ると、折れて短くなった本体の方へ手をかざす。
「──────拒絶」
ユキの言葉と共に、金色の波紋が広がる。次の瞬間。折れた枝が手の中から消え、本体の断面と重なり合う。傷口が巻き戻るように塞がり、葉が青々と蘇る。時間にして、わずか一秒。そこには、最初から折れてなどいなかったかのように、元通りになった植物があった。
「なっ......!?」
見ていたソフィアが息を呑む。 これは、ただの治癒魔法じゃない。折れてしまったという「事実」そのものを拒絶したんだ。
「これが僕の力だよ。今回は折られた枝があったから簡単に治せたけど、破片が無かったら、僕の魔力で『失われた部分』を補わないといけない。だから、コストなしの万能な力じゃないみたいだね」
これが、勇者の力。まさに奇跡とも呼べるその力があれば、あの二人を倒す可能性も十分にある。そう思わせてくれるものだった。
「俺からも話したいことがある。ユキ、これを受け取ってくれ」
俺がいつか、ユキと並んで戦うために用意していた装備を取り出す。俺の『魔装ヒュニエスタ』と対になる、もう一つの最高傑作。
『星装アルゴシスタ』
白を基調とした高貴な生地に、青空を思わせるような碧色のラインがあしらわれている。 軍服のような威圧感を持つ俺の服とは違い、ユキの可憐さを際立たせるような、柔らかくも神聖なデザインとなっている。
そして、この服の凄さは見た目だけではない。 魔布が特殊な二層構造になっており、そこに魔力を循環させることができる。 それによって、敵の魔法を取り込んだり、自身の魔力を回して服を瞬時に修復したりなど、様々なことが可能になっているのだ。 まさに、魔力の扱い長けた勇者のための装備。
「わあ! これ、レイが用意してくれたの?」
その服を見て、ユキが花が咲いたような笑顔になる。 その様子に、俺も思わず笑みが零れ出てしまった。
「俺だけじゃない。イーシアも、ソフィアも協力してくれたんだ」
「みんな。ありがとう!」
ユキは元気いっぱいに、感謝を伝える。 その姿を見て、イーシアとソフィアも顔を見合わせ、安堵の微笑みを浮かべた。
準備は整った。 最強の盾と、最強の矛。 そして、50回分の「死の経験」。
さあ、始めようか。俺たちの、51回目の戦争を──────。




