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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
2章 艱難辛苦のフォアードロード

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40話 『勇者の定義』

俺が崩れ落ちるその瞬間。 途切れかけた意識が、強烈な光に引っ張られた。



これは...シンクロ? タゼの能力じゃない。もっと温かくて、懐かしい感覚。 多分、勇者の力が共鳴しているんだ。



────────────────────────────────────



気が付くと、そこはセピア色の世界だった。 目の前には、小さな男の子がうずくまっている。 ...幼い頃の、ユキだ。



懐かしい。俺たちが会ったのは、戦火を逃れた避難民が集まる集落だった。 お互いに親を戦争で失い、命からがら逃げてきた吹き溜まり。 ここが、俺たちの原点だ。



◇◇◇◇◇



目の前に、レイがいた。 まだ少年兵として徴用される前の、少しだけ幼い顔をしたレイ。



僕は、レイに会って久しぶりに誰かと「会話」をしたんだ。 お母さんが目の前で死んで、辛くて、怖くて。 でも、死にたくないという一心で逃げてきた。



『...お前も、一人か?』



レイが、その僕の辛い気持ちを受け止めてくれた。 その頃から、レイは何もかも一人で抱え込んでいて、僕はそんな彼に甘えて、迷惑ばっかりかけていたな。



◇◇◇◇◇



俺はユキと会って、初めて「守る側」に立った。 それまでは、いつも誰かに守られてばかりだったから。



最初は、ただの義務感だった。自分と同じ境遇の子供を放っておけなかっただけ。 でも、いつしかユキを助けることは俺の生きがいになって、一緒に居ることが目的になった。



そんな時だったか。俺が少年兵として目を付けられたのは。 身寄りがない、使いやすい駒として。



俺は戦争が始まる前、祖父の葬式でいっぱい泣いたことがある。 その時、俺は子供らしくない悩みを持った。「人はなんで生まれて、死ぬのか」って。 周りの子供が公園で遊んでいる中、哲学めいたことを考える日々。 無駄に大人びてしまった思考。



『君、いい目をしているね』



そんな扱いやすい「賢い子供」。人手が不足している軍からすれば、格好の消耗品リソースだったろうな。



◇◇◇◇◇



レイはいつも笑顔を作ってた。僕と一緒の時は。 でも、その笑顔の裏で、彼が傷ついていることを僕は知っていた。



僕はレイのために力になりたくて、空回りして、いつも失敗ばかり。 その尻拭いは全部レイがしてくれて...自分の無力さが嫌いだった。



それでも、レイは一緒に居ようとしてくれたんだ。



そんなレイが、初めて作った笑顔を崩した時があった。 ある夜、血相を変えて僕のテントに来たんだ。



『逃げるぞ、ユキ。こんな所、人間がいる場所じゃない』



何があったのかは分からない。 でも、従軍してボロボロになっていくレイを見なくて済むことが、僕はすごく嬉しかったのを覚えている。



◇◇◇◇◇



俺は少年兵として、文字通り死ぬ気で従軍した。 それが背後の人たち──ユキや、集落の民を守るためだと信じ込まされて。



でも。俺はある日、見てしまった。 俺たちが命がけで守っているはずの将校連中が、避難集落の女子供を夜な夜な慰み者にしているのを。



『...吐き気がする』



俺は、そんな奴らに仕える気はない。 あんな奴らにならないように。あんな奴らのために命を使わないように。 だから、ユキを連れて脱走したんだ。



◇◇◇◇◇



重なる。 記憶が、感情が、魂が。



僕と────── 俺と──────


俺が────── 僕が──────



◇◇◇◇◇



僕は、ずっとレイが助けてくれるのを期待していたんだ。 心のどこかで甘えていた。 「レイなら何とかしてくれる」って。



だから、今だってこうやって塞ぎ込んで、彼を一人で戦わせてしまった。



でも、今のレイを見てよ。 ボロボロで、泣きそうな顔をして、それでも僕を守ろうとしてくれている。 レイは今、困ってるんだ。助けを求めてるんだ。



僕は、今まで罪悪感と、無力感でいっぱいだった。でも、同じくらいレイも悩んでいたんだ。



それを、否定しちゃいけない。否定しちゃ、いけないんだ。



じゃあ。助けないと。 今までレイがしてくれていたように。



レイが僕の英雄なら。



『僕は、レイの勇者になるんだ』



世界の勇者なんて、そんな重い称号、まだ僕には背負えない。 世界中の人を救うなんて、僕には分からない。



でも、レイ一人を救う「レイの勇者」になら。 なれる気がする。 だって、こうやって心が繋がっているんだから。



待ってて。 今、助けに行くよ。レイ。



────────────────────────────────────


「...もう、自分を傷つけないで、レイ」



「...え?」



気が付いた時には、俺の魔剣──ユキの心臓を貫こうとして震えていたその手を、温かい手が包み込んでいた。



顔を上げると、そこにはユキがいた。 虚ろだった瞳には、確かな光が宿っている。



「ユキ...なんで...意識が...」



「全部、見たよ。レイの50回の絶望も、僕たちが出会った日のことも」



「離せッ! 俺は、もう一回やり直さないと! ユキを、みんなを助けるために...ッ!」



俺は必死に腕を引く。だが、ユキの力は驚くほど強かった。



「一人じゃ無理だよ。50回やってダメだったんでしょ?」



「だ、から! 次こそは...!」


「ううん。次もダメだ。レイ一人ならね」



そんな俺をなだめるような口調で、ユキは優しく、しかし力強く告げる。



「じゃあ。僕も一緒に飛ぶよ。そのループ」



「...は?」



思考が停止する。一緒に飛ぶ? どうやって?



「手を、出して?」



言われるがまま、魔剣を消して手を差し出す。 ユキは俺の手を両手で包み込んだ。 その隙間から、眩いばかりの黄金の粒子が溢れ出す。



「僕の『勇者の力』に、僕の今の記憶を封じ込めたんだ。次のループが始まった時、これを僕に返してね」


それは、グリモ=メモリアがあるからこそできる、裏技。



「ユキ...お前...」



「僕、決めたんだ。僕は『世界の勇者』にはなれないかもしれない。でも──『レイの勇者』にはなってあげる」



ユキが、悪戯っぽくはにかむ。 その顔を見た時、摩耗しきって死にかけていた俺の心が、急速に世界に戻ってくるのを感じた。



ああ、そうだ。 俺が守りたかったのは、この笑顔だったんだ。



「...ああ。次の世界で、また会おうな」


「うん。約束だ」



ユキは何も言わず、俺に強く抱き着いてきた。



俺は再び魔剣を生成する。 切っ先を、二人の体が重なる心臓の位置へ。



いつも通りの、死へのダイブ。 ただし、その剣にこもっているのは、重苦しい絶望じゃない。



未来を掴み取るための、輝ける希望だった。



「行くぞ、ユキ!!」



「うんっ!!」



ドスッ。



──────第五十一次観測、開始。

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