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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
2章 艱難辛苦のフォアードロード

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38話 双対の強者

準備は整った。 俺は『魔装ヒュニエスタ』の襟を正し、音韻魔導塔の展望台から、眼下に広がる戦場を見下ろす。 地平線を埋め尽くすような、円卓の軍勢。



「よし。行くか」



自分に言い聞かせるように、決意としてその言葉を小さく叫んだ。



「レイ殿。生きてまた、稽古をしようぞ」



「ああ。必ず」



背後で見送るイーシアと、出撃前最後の言葉を交わす。 必ず、この戦いに勝ち、ロンベルに平穏を取り戻すんだ。 もう一度、ユキと並んで旅をする資格を得るためには、俺がここで勝利し、民を守らなければならない。 その責任感が、俺の足を突き動かす。



「チャージング=ストレングス」



いつも通り、身体強化魔法を起動。 俺は塔から飛び降り、暴風を纏って敵本陣まで一気に駆け抜ける。 狙うは敵将の首。円卓の幹部を引き付け、孤立させる!



「よう。円卓の皆さん」



土煙を上げて着地する。 本陣のど真ん中。そこにいたのは、奇妙な二人組だった。 ひょろりとした小柄な男と、岩山のような巨躯の大柄な男。



「円卓第十位『クオカミ=パッロン』、円卓第十一位『ダーシ=ムラク』! お前ら二人に決闘を挑もう!」



俺は魔剣を突きつけ、最大限の挑発を行う。 狙うのは、二人同時に俺を相手にさせることだ。



幾秒かの静寂を切り裂き、小柄な男──クオカミが口を開いた。



「わかった。第十席、クオカミ=パッロンの名において、貴様との決闘を受けよう」



「ボクは、そういう展開に燃えるタイプでね。その心意気、気に入ったよ」



クオカミは上から目線で、俺の決闘を受け入れた。 その節々から漂う余裕と自信。それは単なる傲慢か、それとも実力か。



「ムラクもそれでいいだろう?」



「......兄者がそうするなら、異論はない」



小柄な方が兄で、大柄な方が弟か。 どちらからも、今まで戦った円卓と同じ、生理的な嫌悪感を感じる。



そして、敵本隊から少し離れた荒野で、決闘の火蓋が切って落とされた。



「バースト・デュナミス!!」



ムラクが能力を行使し、咆哮する。 その叫びだけで空気が振動した。奴は獣のように四つん這いになり、猛烈なスピードで突進してくる。



「バーサク・アンドレイア」



同時に、クオカミも能力を発動した。しかし、動きはない。 今警戒すべきは、目の前の暴走機関車だ!



「ウがアアアアああ!!!!!!!」



突進が来る。速い。だが、その動きからは知性を感じられない。 直線的な動きなら、対処法はある!



「アイシクル=フィールド」



俺は地面に手を突き、周囲一帯を極低温の氷で満たす。 摩擦係数をゼロにされた地面。ムラクの巨体なら、滑って自滅するはずだ。



だが。



「フンッ!!」



バギィィィンッ!



「マジか、よ」



ムラクは氷の足場に対し、力ずくで踏み込み、氷ごと大地を砕いて特攻してきた。 理屈じゃない。純粋な質量とパワーの暴力!



その勢いのまま、ムラクは丸太のような腕を振り回す。 俺は何とか魔剣を盾にして受け流した。



ガギィッ!



「ぐぅッ...!?」



衝撃が骨まで響く。手がしびれるなんてレベルじゃない。 あのルターの攻撃を思い出すほどの重さ。そう何度も受けられるものじゃない。



ムラクの攻撃に集中していたその時、後ろにいたクオカミが動く。



「ちょっとどいてよ、ムラク!」



クオカミは無防備に、歩いて近づいてきた。 カウンターの兆候も、特別な攻撃の予備動作もなしに、まるで命を投げ出すように。



好機。 俺はその隙を見逃すことなく、すれ違いざまにクオカミの胴体へ深い斬撃を食らわせた。



ザシュッ!



手ごたえはあった。深々と肉を断った。 だが。



「ああ。その攻撃、効いたよ」



クオカミの様子がおかしい。 致命傷のはずなのに、よろめく気配すらない。 それどころか、クオカミの傷口から溢れ出た血が、まるで生き物のように蠢きだした。



血は傷を縫合するように形を変え、瞬く間に傷を修復していく。



「じゃあ! 次はボクの番だ!!!!」



クオカミは自分の傷口を手で抉り、溢れる血を手に纏わせる。 そして、その血を凝固させ、鋭利なナイフとして投擲してきた。



「常識ってのが無いのかよ!」



俺は無数の血のナイフを魔剣で弾く。 だが、数が多すぎる。いくつかが頬や肩を掠め、魔装ヒュニエスタを切り裂く。



敵は止まらない。 クオカミに注目していた隙を狙って、ムラクが再び突進してくる。 あの直線的な動き...アイツの能力は、知性と引き換えのオーバーパワーか!



「だったら...これで消し飛べ!」



ムラクの攻撃に合わせ、俺は体内の魔力を限界まで練り上げる。 グリモ=メモリアによる高速演算。今できる最大火力を、ゼロ距離でぶつける!



「ドラゴ=フォイア!!!」



巨大な炎の龍が顕現し、ムラクを飲み込む。 対人では大振りすぎる魔法だが、突っ込んでくる相手にはカウンターとして最適解だ!



「グアアああアアああ!」



ムラクの叫び声がこだまする。やったか? いや──炎を突き破り、黒焦げになった巨腕が伸びてきた。



しかも、その背後からクオカミが血の鎖を放ち、俺の回避ルートを潰している。 連携だと!? 知性がないんじゃなかったのか!?



「しまっ──────」



ドゴォォォォォンッ!



「が、はッ...!?」



防ぎきれない。 ムラクの拳が、俺の左腕を直撃した。



グシャァッ。



嫌な音が、自分の体から響く。 魔装ヒュニエスタの魔布は、確かに斬撃や魔法を防いだ。布自体は破れていない。 だが、その内側にある俺の生身の腕は──衝撃を殺しきれず、肉袋の中で挽肉のように砕け散った。



「がああああぁぁぁあああ!」



激痛。脂汗が噴き出す。 左腕の感覚がない。ぶらんと垂れ下がった袖の中が、熱くて重い。



吹き飛ばされ、地面を転がる。 だが、痛いだけだ。まだ、まだ負けてない!



俺は何とか体勢を立て直す。 ムラクはさっきの攻撃の勢いで、どこか遠くへ突っ込んでいった。 狙うなら、今孤立しているクオカミだ!



チャージング=ストレングスを足に集中。 痛みを怒りに変え、速攻を仕掛けてクオカミの首を狙う!



「隙だらけだ!!」



一閃。 魔剣がクオカミの首を捉え、その身体を引き裂いた──ハズだった。



ボコッ、グチュ。



「...は?」



瞬く間に血で修復され、元に戻る。 それだけではない。クオカミから立ち昇る魔力の気配が、切り裂く前よりも強大に膨れ上がっている。



「ああ...痛みを感じる。生きていると、体が教えてくれている!!」



クオカミは天を仰ぎ、恍惚の表情で自分の傷を撫で回している。



「斬れば斬るほど強くなる」。 そういうことか。こいつは、ダメージを糧にする怪物だ。



「貴様も、この痛みを味わってみない?」



クオカミは目線をこちらに移し、パチンと指を鳴らした。 足元の血だまりがうねる。 そして、その血だまりは無数の鋭利な「針」へと姿を変えた。



「しま──」



ズドドドドドッ!!



「がッ...!?」



強靭なはずの魔装ヒュニエスタを、針が容易く貫通する。 腹、太腿、肩。全身を串刺しにされる感触。



痛い。熱い。 でも、まだだ!! まだ意識はある!



◇◇◇◇◇



戦い始めてから、何分が経っただろうか。 俺はムラクとクオカミの攻撃を、何とか受け続けることしかできなかった。



体力は底をつき、左腕は潰れ、全身が血まみれだ。 限界が近い。



対するあいつらは、一人は血を流すほど強くなり、一人は痛みすら感じていない。 詰みだ。どうしようもない戦力差。



遠目に見えるロンベルの方角では、爆炎が上がっている。イーシア達はまだ戦い続けているのか。 俺がここで倒れれば、あの化け物二人があっちへ向かう。 それだけは...。



だが、体はもう動かない。



「......クソ」



視界が、急速に暗くなる。 ブラックアウト。



俺の意識は、冷たい闇へと落ちていった。

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