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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
2章 艱難辛苦のフォアードロード

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36話 魔法の学び舎

俺たちは、傷心のユキを連れてロンベルへと戻ってきた。



ユキの心が壊れかけていること、そして勇者一行の戦力が低下していることは、円卓側にも知られているだろう。 そのリスクを考慮し、ヴァイドヘイム王の計らいで、第一王女であるイーシアも護衛として同行することとなった。



イーシアはヴァイドヘイム王国でも一番の腕のため、信頼があるみたいだ。そして見聞を広めるという体で同行を許可したというわけだ。



「ここが、ロンベルか。魔力の濃度が違うな」



イーシアは物珍しそうに街を見渡しているが、その手は常に剣の柄にあり、警戒を解いていない。頼りになる。



「レイ様。こちらをお使いください」



ソフィアが案内してくれたのは、街の一等地にある豪邸──『エデニアム本部』だった。 外観は貴族の屋敷そのものだが、張り巡らされた結界の密度が段違いだ。



「ここは......?」



「エデニアム。勇者を支援するための直属組織の本部です。そして──」



ソフィアは俺に向き直り、恭しく一礼した。



「本日をもって、レイ様を正式に『勇者の守護者』として登録いたしました。これにより、エデニアムの全設備、資金、人員に対する指揮権限が、勇者様と同等に譲渡されます」



守護者。それは、ただの付き添いではない。世界が認めた「勇者の半身」としての称号。 ユキがいる以上、ここの設備は俺たちにとって使い放題というわけだ。



そして、今は動けないユキの代わりとして、俺が動かないといけないというところもあり、この体裁をとったということらしい。



「......分かった。ありがたく使わせてもらう」



俺は、虚ろな目をしたユキを一番奥の広い寝室へと運ぶ。ふかふかのベッドに寝かせても、ユキは人形のように動かない。



「......ゆっくり休め。俺は、ずっとここにいるから」



俺はベッドの横に座り、ユキの手を握る。反応は薄いが、温かい。もう、置いていったりしない。焦ることはない。少しずつ、歩み寄っていこう。 転移と戦闘の疲労もあり、俺も今日は泥のように眠ることにした。



◇◇◇◇◇



翌朝。部屋を出ようとした時、ソフィアが切迫した様子で話しかけてきた。



「レイ様。本日、魔導ギルドへお越しください。きっと、今の貴方様の役に立つ『知識』があります」



魔導ギルド、か。確かに、半分は自己流の魔法で戦っている俺には、体系化された知識が必要かもしれない。



「ユキ。俺は魔導ギルドに行ってくる」



俺はまだ眠っているユキの耳元で囁く。



「必ずすぐに戻るから、安心してくれ」



そう言い残し、俺はイーシアに護衛を頼んで、魔導ギルドへと足を運んだ。



ロンベルの中央にそびえる巨塔。その低層階が魔導ギルドとなっている。 全世界の魔導ギルドの総本山であり、古今東西、ほぼ全ての魔法知識が貯蔵されている知の殿堂だ。



アカデミックな空気が漂うカウンターを抜けると、奥の特別閲覧室にソフィアが待っていた。



「おはようございます。レイ様。ようこそ、魔導ギルドへ」



周囲にはおびただしい数の蔵書。そして、無償で開放されている教室では、多くの魔導師たちが講義を受けている。 なるほど。この世界では、ここで魔法教育を受け、知識を循環させているのか。



「お越しいただいた、一番の理由。......それは、我々が『ディソナンス』と呼んでいる存在についてお話しするためです」



「ディソナンス?」



初めて聞く言葉だ。



「はい。ディソナンス。通称、悪意。魔法と似た現象からなる概念、とも言いましょうか」



ソフィアは分厚い古書を開き、一枚の不気味な挿絵を見せた。 人間から黒い靄が出て、それが魔物の形になる絵図だ。



「そのディソナンスというのは、簡単に言えば何なんだ?」



俺は思ったことをそのままに聞いた。



「人間の『悪意』を媒介に、モンスターとして発散させる現象のことです」



「悪意が、モンスターになる......?」



「はい。人の負の感情が世界に溜まりすぎると、世界そのものが腐敗してしまう。だから、世界は自浄作用として悪意を実体化させ、物理的に排除できる『モンスター』という形に昇華させているのです」



「つまり、モンスターは......」



「世界の防衛装置、だそうです」



なんて皮肉な話だ。 俺たちが倒している魔物は、元を正せば人間の汚い感情の集合体で、それを倒すことで世界は綺麗に保たれているというわけか。



「そして、この理論を提唱した天才魔法学者こそ──円卓第二席、ベター=サイプ」



円卓、第二席。ルターやタゼの上位存在。



「彼はかつて、魔導ギルドの原型となる組織、エルザナ魔法研究機関のトップでした。......かの男は、本当の天才です。魔法の理を解き明かし、それを自在に書き換えるほどの」



ソフィアの声が、一段低くなる。



「どうか、お気を付けを。円卓の中でも、彼の危険度は群を抜いています」



ベター=サイプ。 その名は、俺の記憶に深く刻み込まれた。 魔法の理を知り尽くした敵。そんな奴と戦う日が来るのか。



まだ見ぬ強敵の影を感じながら、俺は本を閉じた。



その後、俺はここにある魔本を片っ端から読み漁った。 グリモ=メモリアとは違い、誰でも使用するに足る魔力さえあれば行使可能の様だ。魔本の持ち出しは厳重に管理されているみたいだが、守護者の権限を使えば閲覧は自由だ。



冒険者ギルドによる「肉体の鍛錬」と、魔導ギルドによる「知識の補強」。この二つのコネクションを得ることができた。



これで、この世界での土台が、やっとできた実感が湧いてきた。 ここからだ。ここから、円卓に対して本格的に対抗していくことができる...!

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