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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
2章 艱難辛苦のフォアードロード

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30話 北の王国

宿に戻り、俺たちは明日からの旅に備えた。しかし、その間──ユキの笑顔を一瞬たりとも見ることは出来なかった。



そして、翌日。



「ここからは、口外禁止でお願いします」



ソフィアが囁くように告げる。ここは音韻魔導塔の地下深く、隠された通路だ。迷路のように入り組んだ石造りの回廊を抜け、俺たちは一つの荘厳な扉の前にたどり着いた。



扉の隙間から漏れ出すのは、黄金の魔力。かつての勇者の力を使った、奇跡のような魔法。その気配だけで、肌がピリピリと粟立つ。



ギギィッッ......。



古びた扉が開く音が、寂れた通路に響く。その先には、巨大な魔法陣が四つ、床に描かれていた。



「これらは、ヴァイドヘイム、リスタリア、リベルタス、セイラムという四大国へと通じる転移陣です」



ソフィアが一番左奥の魔法陣を指し示す。



「転移した先では、真っすぐ進めば王城の中庭に出ます。なので、ここから先は、お二人に任せます。......ご武運を」



「ああ。必ず円卓を退けてみせる」



ユキが勇者としての責務を果たせないならば、俺がやるだけ。あんな顔をするくらいなら、俺が全部片づけてやる。だから──。



そう決意し、俺はユキの手をしっかりと握りしめた。ユキの手は氷のように冷たく、握り返してくる力は弱かった。



「いくぞ」



二人で、転移陣を踏む。



「...ッ!?」



世界が反転したように歪む。自分の存在が認知できなくなる。三半規管を直接かき回されるような、強烈な吐き気。これが転移か。 その感覚が数分──あるいは数秒続いた後、世界が「カチリ」と音を立てて戻ってきた。



視界が戻った瞬間、肌を刺したのは、刃物のような冷気だった。



「う、寒ッ......!」



地下だとしても伝わる底冷え。明らかにロンベルの気候とは違う。転移は成功したみたいだな。



「ユキ、平気か?」



なるべく、優しげな声を意識してユキに話しかける。ユキは青ざめた顔で、小さく頷いただけだった。



「大丈夫そうだな。それじゃあ、王サマへと謁見しに行くとするか」



ユキを気使いながら、歩みを始めた。  進んだ先の階段を抜けると、そこは豪奢な廊下──玉座の間の目前といったところだった。



「貴様! 何者だ!」



そこに立っていたのは、燃えるような紅色の髪を靡かせる女騎士だった。



「あー。俺は、ロンべ──────」



「ッ!?」



言葉の途中。刹那で抜かれた剣が、俺の鼻先を掠める。俺は咄嗟にユキを庇いながら、半歩下がってそれを躱した。



「いきなり攻撃するなんて、なに考えてるんだよ!」



流石に頭に来たのもあって、柄もなく声を荒げてしまった。だが、女騎士は俺が躱したことを見て取ると、満足そうに剣を鞘に納めた。



「すまない。本当にロンベルからの使いかどうか、確かめさせてもらった」



カチャン、と硬質な音が響く。さっきとは違った、厳しくも、真っすぐな声で彼女は続けた。


「現在、我が国は円卓の危機で警戒心が高まっていてな。無礼を働いたこと、謝罪する」


「......随分と手荒な歓迎だな」


「改めて自己紹介させてもらおう。この国の第一王女、イーシア=ヴァイドヘイムだ。今回の危機に馳せ参じてもらい、感謝する」



この人が、ソフィアの言っていた『姫』か。 ……あの太刀筋。殺気を見せずに一足飛びで間合いを詰めてきた。只者じゃないな。



「ついてこい。父上──国王陛下がお待ちだ」



イーシアさんは紅蓮のマントを翻し、重厚な扉を押し開けた。



 ギィィィィ......。



開かれた玉座の間。そこは、外気よりもさらに冷たく、張り詰めた空気に満ちていた。煌びやかな装飾は最低限。代わりに、壁には歴代の武具が飾られ、この国が「武」によって成り立っていることを示している。



その最奥。氷で作られたかのような玉座に、一人の男が座っていた。



白髪交じりの髭を蓄え、彫りの深い顔立ち。  イーシアさんと同じ、鋭い眼光をした巨躯の男──国王、ウラド=ヴァイドヘイム三世だ。



「よく来た、ロンベルからの増援よ」



ウラド王の腹の底に響くような声が、広間に轟く。



「話は聞いている。勇者とその守護者......だったな」



王の視線が、俺と、俺の後ろに隠れるユキを射抜くように見定める。俺は一歩前に出て、ユキを守るように立ちはだかった。



「ああ。俺がレイ。こっちがユキだ。円卓が迫っていると聞いたが」


「うむ。我が国の斥候が、国境付近の森で円卓の反応を捉えた。……しかし、一人だけでの行動らしい。余りにも不気味だ」



王の言葉に、イーシアも同調するよう頷く。



「我らヴァイドヘイム軍も総力を挙げて迎撃する構えだ。だが、相手はあの『円卓』。未知の能力を持つ怪物だ。……貴殿らの力、貸してもらえるか?」



一国の王が、頭を下げる一歩手前までプライドを捨てて頼んでいる。それほどまでに、状況は切迫しているということだ。



俺は短く答える。



「もちろんだ。そのために来た」



「感謝する!」



ウラド王は力強く頷いた。 こうして、俺たちは北の地での共闘を結んだ。

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