25話 紅蓮の魔術
詳しく話を聞くと、名だたる冒険者はほぼ全員、対円卓組織『エデニアム』に引き抜かれているらしい。 そんな中で起きたダンジョンブレイク。確かに、残された戦力からすれば絶望的ってやつだな。
......だが、俺にとっては好都合だ
俺は過去に戦ったダンジョンリザードを思い出す。 あれから俺は、ルターとの死闘を経て、魔剣も技術も桁違いに成長した。今の俺なら、あのクラスのボスが何体いようと問題ない。
それに、このまま放っておけば、この街が魔物に蹂躙される。 宿も食事もなくなり、ユキを危険にさらすことになる。それだけは看過できない。
「その依頼、俺にも任せてもらえませんか。その働きをもって入団試験ってことで」
その提案に、周囲がざわめく。
「おいおい、正気かよ兄ちゃん」
「死にに行くようなもんだぞ」
明らかな侮蔑と、哀れみの視線。 あまり注目はされたくなかったが、ここまで言ってしまったら引くに引けない。 この依頼をこなして、金と冒険者資格を得る。それがユキとの旅を続けるための最適解だ。
隣にいたユキが、不安そうに俺の袖を掴む。
「レイ、なんか危なそうだよ? そんなに無理しなくても.......」
「大丈夫。ここは任せろ」
俺はユキを安心させるように、その頭にポンと手を置いた。 子供をあやすような、慣れた手つきで。
「すぐに終わらせて、美味い飯でも食おう」
◇◇◇◇◇
ダンジョンの入り口。そこには今にも決壊しそうなバリケードと、必死に食い止める冒険者たちの姿があった。 あれじゃもってあと数分、といったところか。
「ひぃっ、斬っても斬っても増えるぞ!?」 「魔法使いはまだか! 焼き払え!」
悲鳴が響く。 ここのダンジョンは、スライムが大量発生すると教えられた。 見た目はプルプルして無害そうだが、その性質は凶悪。物理的な斬撃は無効化され、中途半端に斬れば分裂して数が増える。 対処法は高火力の魔法で核ごと焼き尽くすことだが──数が多すぎる。
「皆さん! 下がってください! 巻き込まれますよ!」
俺はバリケードの最前線に躍り出ると、そう警告を発した。 冒険者たちが「ああん?」と振り返るが、俺の手に集束する膨大な魔力を見て、顔色を変えて道を開ける。
俺は右手
を突き出し、スライムの群れを焼き尽くす灼熱の地獄をイメージ。 その破壊の映像を、グリモ=メモリアという回路を通して増幅させる。
バリケードを突破したスライムが、緑色の濁流のように押し寄せてくる。 しかし、その時にはもう、魔法は完成していた。
「エクスプローシブ=フォイア」
放たれたのは、ゆっくりと進む赤黒い熱の塊。 それはスライムの群れの中心に到達すると──俺の掛け声と共に弾けた。
「爆ぜろ!!!!!!」
ドォォォォォォォンッ!!!!!
轟音と共に、視界が紅蓮に染まる。 熱波が周囲の冒険者の髪を焦がすほどの、局地的な大爆発。
爆煙が晴れると、そこには蒸発したスライムの痕跡と、黒く焦げた地面だけが残っていた。 よし。これで何とかなったかな。
そう安心したのもつかの間。 飛び散ったスライムの残骸──黒い粘液たちが、意思を持ったようにズルズルと集合し始めた。
「な……?」
集まった粘液は瞬く間に膨れ上がり、人の背丈の何倍もある、巨大な王冠を被ったような姿へと変貌を遂げる。
それを見た冒険者の一人が、腰を抜かして叫んだ。
「エ、エンペラースライム……!?!?」
なるほど。アイツがこのダンジョンブレイクの原因だったわけか。 周囲が絶望に包まれる中、俺は冷静に分析する。 あの巨体だ。生半可な魔法では表面を焼くだけで再生される。かといって物理攻撃は通じない。
俺はすかさず、虚空から魔剣を生成する。 漆黒の刀身が月光を反射して輝く。
「おい坊主! 剣じゃ無理だ! スライムには効かねえ!」
親切な誰かが叫んでくれるが、問題ない。 普通の鉄の剣ならそうだろう。だが、この魔剣は違う。 刀身そのものが、俺の魔力を凝縮して作られた結晶体だ。ゆえに、魔法との親和性(伝導率)が段違いに高い。
俺はイメージする。剣そのものを、焼き切る熱線に変えるイメージを。
「エンチャント・ファイア」
ボォッ!!
刀身が呼応し、青白い魔剣に紅蓮の炎が纏わりつく。 それはまるで、剣の形をした炎そのものだった。
「さて……掃除の時間だ」
俺は炎の魔剣を構え、見上げるような巨体へと踏み込んだ。
「はああああッ!!」
地面を蹴り、思いっきり飛び上がる。 狙うは巨体の中心核。スライムの身体に、炎を纏った魔剣を深々と突き刺す。 ジュワジュワと肉が焼ける音がするが、構わない。これで、スライムの中身と魔剣は繋がった......!
俺は魔力回路を全開にする。
「内側から……炸裂しろッ!!!!」
魔剣を通して増幅された熱量が、スライムの体内へ暴力的に注ぎ込まれる。
ボコォッ……!
異音が響く。 エンペラースライムの体表が波打ち、内側からの圧力で異常な形に膨れ上がっていく。
「ギ、ギギ……!?」
スライムが悲鳴のような音を上げるが、もう遅い。 許容量を超えたエネルギーは、出口を求めて暴れまわる。
俺はとどめとして、突き刺した剣をねじり込み、魔力の栓を抜いた。
「チェック、メイト!」
カッッ!!!!
閃光。 そして一拍遅れて、スライムは内側から木っ端微塵に爆散した。
ズドオオオオオオオオオンッ!!!!!
闇夜に轟く焔光が、戦場を真昼のように照らし出す。 空から降り注ぐのは、燃え尽きたスライムの灰と、キラキラと輝く魔力の残滓だけだった。
「.......」
誰かが言葉を発することも忘れていた。 喧騒と悲鳴が支配していた戦場に、今はただ、燃え残った火の粉が爆ぜる音だけが響いている。 圧倒的な破壊。それを成し遂げた、たった一人の青年に、全員の視線が釘付けになっていた。




