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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
2章 艱難辛苦のフォアードロード

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25話 紅蓮の魔術

詳しく話を聞くと、名だたる冒険者はほぼ全員、対円卓組織『エデニアム』に引き抜かれているらしい。 そんな中で起きたダンジョンブレイク。確かに、残された戦力からすれば絶望的ってやつだな。



......だが、俺にとっては好都合だ



俺は過去に戦ったダンジョンリザードを思い出す。 あれから俺は、ルターとの死闘を経て、魔剣も技術も桁違いに成長した。今の俺なら、あのクラスのボスが何体いようと問題ない。



それに、このまま放っておけば、この街が魔物に蹂躙される。 宿も食事もなくなり、ユキを危険にさらすことになる。それだけは看過できない。



「その依頼、俺にも任せてもらえませんか。その働きをもって入団試験ってことで」



その提案に、周囲がざわめく。



「おいおい、正気かよ兄ちゃん」



「死にに行くようなもんだぞ」



明らかな侮蔑と、哀れみの視線。 あまり注目はされたくなかったが、ここまで言ってしまったら引くに引けない。 この依頼をこなして、金と冒険者資格を得る。それがユキとの旅を続けるための最適解だ。



隣にいたユキが、不安そうに俺の袖を掴む。



「レイ、なんか危なそうだよ? そんなに無理しなくても.......」



「大丈夫。ここは任せろ」



俺はユキを安心させるように、その頭にポンと手を置いた。 子供をあやすような、慣れた手つきで。



「すぐに終わらせて、美味い飯でも食おう」



◇◇◇◇◇



ダンジョンの入り口。そこには今にも決壊しそうなバリケードと、必死に食い止める冒険者たちの姿があった。 あれじゃもってあと数分、といったところか。



「ひぃっ、斬っても斬っても増えるぞ!?」 「魔法使いはまだか! 焼き払え!」



悲鳴が響く。 ここのダンジョンは、スライムが大量発生すると教えられた。 見た目はプルプルして無害そうだが、その性質は凶悪。物理的な斬撃は無効化され、中途半端に斬れば分裂して数が増える。 対処法は高火力の魔法で核ごと焼き尽くすことだが──数が多すぎる。



「皆さん! 下がってください! 巻き込まれますよ!」



俺はバリケードの最前線に躍り出ると、そう警告を発した。 冒険者たちが「ああん?」と振り返るが、俺の手に集束する膨大な魔力を見て、顔色を変えて道を開ける。


俺は右手

を突き出し、スライムの群れを焼き尽くす灼熱の地獄をイメージ。 その破壊の映像を、グリモ=メモリアという回路を通して増幅させる。



バリケードを突破したスライムが、緑色の濁流のように押し寄せてくる。 しかし、その時にはもう、魔法は完成していた。



「エクスプローシブ=フォイア」



放たれたのは、ゆっくりと進む赤黒い熱の塊。 それはスライムの群れの中心に到達すると──俺の掛け声と共に弾けた。



「爆ぜろ!!!!!!」



ドォォォォォォォンッ!!!!!



轟音と共に、視界が紅蓮に染まる。 熱波が周囲の冒険者の髪を焦がすほどの、局地的な大爆発。



爆煙が晴れると、そこには蒸発したスライムの痕跡と、黒く焦げた地面だけが残っていた。 よし。これで何とかなったかな。



そう安心したのもつかの間。 飛び散ったスライムの残骸──黒い粘液たちが、意思を持ったようにズルズルと集合し始めた。



「な……?」


集まった粘液は瞬く間に膨れ上がり、人の背丈の何倍もある、巨大な王冠を被ったような姿へと変貌を遂げる。



それを見た冒険者の一人が、腰を抜かして叫んだ。



「エ、エンペラースライム……!?!?」



なるほど。アイツがこのダンジョンブレイクの原因だったわけか。 周囲が絶望に包まれる中、俺は冷静に分析する。 あの巨体だ。生半可な魔法では表面を焼くだけで再生される。かといって物理攻撃は通じない。



俺はすかさず、虚空から魔剣を生成する。 漆黒の刀身が月光を反射して輝く。



「おい坊主! 剣じゃ無理だ! スライムには効かねえ!」


親切な誰かが叫んでくれるが、問題ない。 普通の鉄の剣ならそうだろう。だが、この魔剣は違う。 刀身そのものが、俺の魔力を凝縮して作られた結晶体だ。ゆえに、魔法との親和性(伝導率)が段違いに高い。



俺はイメージする。剣そのものを、焼き切る熱線に変えるイメージを。



「エンチャント・ファイア」



ボォッ!!



刀身が呼応し、青白い魔剣に紅蓮の炎が纏わりつく。 それはまるで、剣の形をした炎そのものだった。



「さて……掃除の時間だ」



俺は炎の魔剣を構え、見上げるような巨体へと踏み込んだ。



「はああああッ!!」



地面を蹴り、思いっきり飛び上がる。 狙うは巨体の中心核。スライムの身体に、炎を纏った魔剣を深々と突き刺す。 ジュワジュワと肉が焼ける音がするが、構わない。これで、スライムの中身と魔剣は繋がった......!



俺は魔力回路を全開にする。



「内側から……炸裂しろッ!!!!」



魔剣を通して増幅された熱量が、スライムの体内へ暴力的に注ぎ込まれる。



ボコォッ……!



異音が響く。 エンペラースライムの体表が波打ち、内側からの圧力で異常な形に膨れ上がっていく。



「ギ、ギギ……!?」



スライムが悲鳴のような音を上げるが、もう遅い。 許容量を超えたエネルギーは、出口を求めて暴れまわる。



俺はとどめとして、突き刺した剣をねじり込み、魔力の栓を抜いた。



「チェック、メイト!」



カッッ!!!!



閃光。 そして一拍遅れて、スライムは内側から木っ端微塵に爆散した。



ズドオオオオオオオオオンッ!!!!!



闇夜に轟く焔光が、戦場を真昼のように照らし出す。 空から降り注ぐのは、燃え尽きたスライムの灰と、キラキラと輝く魔力の残滓だけだった。



「.......」



誰かが言葉を発することも忘れていた。 喧騒と悲鳴が支配していた戦場に、今はただ、燃え残った火の粉が爆ぜる音だけが響いている。 圧倒的な破壊。それを成し遂げた、たった一人の青年に、全員の視線が釘付けになっていた。

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