24話 街の窮地
森を抜け、整備された街道を歩くこと数時間。 俺たちの視界に、石造りの城壁に囲まれた中継都市『サーク』の威容が現れた。
「わあ……! 大きい街だね、レイ!」
ユキが目を輝かせて歓声を上げる。 関所をグリモ=メモリアの知識で作った偽造身分証代わりの魔力パスで無事に通過すると、そこは熱気に満ちていた。
ロンベルへと続く街道の要衝だけあって、人の往来が激しい。 荷馬車の車輪が石畳を叩く音、商人たちの活気ある呼び込み、そして漂ってくる香ばしい串焼きの匂い。 森の中での静寂とは対極にある、人間の営みの喧騒だ。
「すごい……! 見てレイ、あんな果物見たことない! あっちのお肉も美味しそう!」
ユキはキョロキョロと視線を巡らせ、子犬のようにはしゃいでいる。 森での生活も悪くなかったが、やはりこういう場所に来ると年相応の少年に戻るようだ。 俺は少し安心して、ユキに微笑みかけた。
「よし、まずは宿を確保して、ロンベルまでの最終準備をしようか」
「うん! 賛成!」
意気込んだ俺は、懐に手を入れる。 まずは屋台で何か軽く食べさせてやろう。そう思った、その時だった。
俺の指先が、空を切った。
「…………あ」
背筋に、冷たいものが走る。 思考がフリーズする。 ルターと戦った時の恐怖とも違う、生活に直結する根源的な恐怖。
「……お金が、ない」
そう。あまりに基本的なことで失念していたが、俺たちはこの世界の通貨を一銭も持っていなかったのだ。 元の世界のお金などただの紙切れだし、魔剣や魔本で腹は膨れない。
これでは、ロンベルに行くまでの物資どころか、今夜の宿代すら払えない。 野宿なら慣れているが、せっかく街に着いたのにユキを路地裏で寝かせるわけにはいかないだろう。
「……まずい。非常にまずい状況だ」
青ざめて立ち尽くす俺を気遣うように、ユキが顔を覗き込んできた。
「レイ? どうしたの? 顔色が悪いけど……」
「ユキ……すまない。致命的な計算ミスをしていた。俺たちは今、無一文だ」
「えっ」
ユキは瞬きをした後、困ったように、でもどこか頼もしげに笑った。
「それじゃあ、お金稼ぎしようよ。レイだったら、ほら、傭兵とかできるんじゃないかな? すごく強いし!」
傭兵、か。 ユキの言葉に、俺の記憶の底にある感覚が蘇る。 戦うことで金を得る。それは、俺が元の世界で生きるために繰り返していた日常だ。 血と泥にまみれた仕事だが、今の俺にはそれしかない。
「……そうだな。この世界でも、手っ取り早く稼ぐ方法があるはずだ」
俺は脳内の知識を検索し、師匠が言っていたある場所を思い出した。 魔物を狩り、護衛をし、報酬を得る荒くれ者たちの互助組織。
「冒険者ギルドだ!」
俺は顔を上げ、街の中心にあるひときわ大きな建物──剣と盾の看板が掲げられた場所へと視線を向けた。
中に入ると、冒険者ギルドには、独特の緊張感が漂っていた。いや、緊張感というより「混乱」に近い。
「ポーションが足りねえぞ!」
「衛生兵はまだか!」
怒号が飛び交い、奥のスペースでは怪我をした冒険者が運び込まれているのが見える。いかにも何かありましたよっていう感じだ。
早速、受付に行き、冒険者登録をしようとする。
「こんにちは。冒険者登録をしに来ました」
しかし、受付の人の顔は青白く曇ったまま、手元の書類を震える手で整理していた。
「ええと、何かあったんですか」
俺が声をかけると、彼女はすがるような目で俺を見た。 普段なら俺みたいな部外者に話さないであろうその事情を、よっぽど切羽詰まっていたのか、吐き出すように語り始めた。
「緊急事態なんです。近くの地下迷宮で、『ダンジョンブレイク』の前兆が観測されました......!」
予約投稿するのミスっててすみません.....!




