19話 英雄
僕は、ただ見ていることしかできなかった。
目の前で繰り広げられる、レイとローブの男の壮絶な戦い。
レイが出してくれただろうこの岩に隠れながら、僕はその戦いの行く末を見守っていた。
目の前の岩壁に、そっと手を触れる。ひんやりと冷たく、そして何よりも硬い。 外では爆風が吹き荒れているのに、僕の周りだけは痛いほど静かだ。 レイはこんな状況でも、僕のことだけは傷つかないように、完璧に守り抜いているんだ。
レイは見たこともない力と、剣を使って戦っている。余りの速さに見失いそうになる。
一手、また一手と、その戦いは進んでいく。僕は何もできないやるせなさを感じながら、それを見ていた。
そして、レイはあの男に手をかざし、まばゆい光に包まれた。
その光が消えた時に、レイは目や鼻から、血を流して不敵にほほ笑む。あれは、いつも僕を守る為に奮闘する、レイの、あの顔だった。
「これで公平だな──────」
そうレイが言うのが聞こえる。でも、見るからにボロボロ。それでも立ち上がる姿に、昔読んでもらった物語に出てくる、英雄の姿を重ねてしまう。
僕の心臓が、激しく高鳴る。胸の奥が、熱くなる。
しかし、その熱が何なのか、僕にはまだわからなかった。いいや、違う。本当はわかっている。
これは「悔しさ」だ。 元居た世界でも、この世界でも、僕はいつもレイの背中ばかり見ていた。 傷つくのはいつもレイで、僕はただ震えているだけ。 ......嫌だ。もう、守られるだけの荷物にはなりたくない。
僕は、ただ見ていることしかできない。……そんなのは、そんなのはッ!もう御免だ!
ローブの男は、レイの攻撃で手負いながらも、力をひしひしと溜めている。
その圧倒的な力の奔流を感じ、僕は恐怖で体が震える。
レイの表情に焦りが浮かぶ。
次の一撃に、この戦いのすべてを賭けていることが僕でも分かった。
「次で、決める.....!」
レイの口から、覚悟を決めた呟きが漏れる。
世界が求める「勇者」なんて知らない。 僕にとっての英雄は、泥だらけになって、血を流して、それでも僕を守ってくれる、レイ……キミだけだ。
その時、僕の心からの叫びが、僕の知らない不思議な力を引き出した。
「負けないで……僕の英雄!」
僕の体から、温かく、眩しい黄金の光が溢れ出す。 それは、レイの青い光とは違う。でも、間違いなくレイを助けるための光だ。
その光は、まるで僕の心からの願いが、この世界に響き渡ったかのようだった。
光は、レイへと向かう。
その瞬間、勇者は再臨した。
それは、僕の祈りが、レイを救うために奇跡を起こした瞬間だった。




