18話 激戦
俺の渾身の一撃は、手ごたえをもってルターに直撃した。
「私を、俺をここまで追い詰めたのは、兄様以来、だな」
ルターは頭から出血しながら、その殺気を増幅させて立ち上がる。...あれを受けて、まだ立っていられるのか。
「ここからが、”本気”だ」
「THIRD=GEAR」
ルターを纏ってたオーラが、その体に集束されていく。さっきまでの威圧感はそこに無くなった。しかし、代わりに不気味さを漂わせていた。
THIRD=GEAR。嵐のようなオーラが、嘘のように引いていく。 それだけじゃない。風の音も、瓦礫が崩れる音も、ルターの周囲だけ「音」が死んでいる。 まるで、嵐の前の静けさだ。
最初の経験から、俺は迂闊に手を出せずにいた。当のルターは、ピクリとも動かず、目を閉じて佇んでいる。
俺の直感が、伝えている。ルターが狙っていることを止めなければいけないことを。
警戒を解かず、ずりずりと距離を詰める。
一歩、また一歩と、距離を詰める。しかし、もうその時は遅かった。
ルターがいきなり目を開き、静かにこの世界へと告げる。自らの本当の姿を、真の”速さ”を見せつけるように。
「FINAL=GEAR」
爆発ではない。世界の色が反転するような、静かな変革だった。 赤いオーラは揺らめくことなく、硝子細工のように鋭く固定されている。
......ああ、これは無理だ
直感が、戦う前に"死"を告げた。次元が違う。
「確かに貴様は強い。その洞察力、判断力どれをとっても普通じゃない。しかし、その慎重さが仇になったな」
その言葉を聞いた直後、ルターは文字通り、消えた。
そこからは蹂躙だった。知覚できる前にやってくる攻撃。対抗策が思いつかない。ここまでなのか。
そして、最後にルターが呟いた言葉が、一つの賭けをもたらした。
「貴様が攻めあぐね、様子を伺っている間、ここまで魔力を練ることができたぞ。残念だったな」
それなら、まだやりようがあるかもしれない。
──────第十一次観測、開始。
「THIRD=GEAR」
ルターを纏ってたオーラが、その体に集束されていく。さっきまでの威圧感はそこに無くなった。しかし、代わりに不気味さを漂わせていた。
ここまではさっきと同じ。大事なのはここからだ。ルターはTHIRD=GEARの時、魔力を練っていると言っていた。ということは、本当は、今無防備なのかもしれない。
本気とブラフで脅し、警戒させる。そしてその間に練れるだけ魔力を練っておく。こんな事、並みの胆力じゃできない。予想が正しければ、バケモノだな。
俺はさっきと打って変わり、一気に距離を詰める。狙うのは、考えている”一手”を遂行することだけ。
「むッ!」
無防備だと思っていたルターが俺の攻撃を避ける。しかしその身のこなしはさっきとは違い、能力を感じられない。これなら──────!
さっき無意識に使った、チャージング=ストレングスによる魔力の一点集中。その応用として、俺は足に魔力を集中させる。狙いは、今のルターのスピードを超えること。
「そこだッ!」
強化された俺の突撃に、ルターは反応が遅れる。その隙を見て、左手をルターの胸元へとかざす。
「存分に、味わってくれよ──────!」
その左手からタイムシフトを繰り返したことによって得られた、有り余る魔力を流し込む。ルターの魔力の許容量を遥かに超えるように。
ルターはその魔力によって、オーバーヒートした。
「まさか、そんな、手札を切って、来るとはな」
ジュウウウッ……!
ルターの全身から、凄まじい蒸気が噴き出す。皮膚が赤熱し、血管が不気味に脈打っていた。 体内のマナ回路が焼き切れそうなのを、無理やり耐えているのだ。
そして、苦しみながら次の行動を起こそうとしていた。
「仕方ない。不完全だが、あれを使う」
「FINAL=GEAR」
あたりの雰囲気が一変する。しかし、それは先ほどと違い木々を揺らす程度。
硝子細工のように美しかったオーラは、今は泥のように濁り、不規則に明滅している。 あれなら──「死」は見えない。戦える。
俺も、大量のマナを放出してヘトヘトだ。 鼻血を手の甲で拭い、ニヤリと笑って挑発する。
「これで公平だな──────」
そう吐き捨て、戦いは最終局面に移行した。




