17話 再戦
俺は、今の状況を冷静に確認した。
身体は転移する前に戻っており、手の豆は無くなっていた。
しかし、心の中に”あったはず”の3年間はある。それを忘れてはいけない。そう心を引き締め、前へと観測を進める。
魔剣を生成するのと同じように、手を前へとかざす。アーカイブされている記憶を思い出すように形をイメージした。
そして、グリモ=メモリアが目のまえに現れた。
「あの時間は、無駄じゃなかったってワケだな」
そう呟き、グリモ=メモリアを開く。そこにはこの世界の歴史や、今まで使った魔法などの前の知識が整理されて記載されている。
これが、師匠が最後に渡してくれた魔本。うまく使えば、何度死に戻りしても、記憶を曖昧にせず戦いを分析できそうだ。
そう読み進めていくと、特殊な魔法を見つけた。それは身体強化魔法と、知覚強化魔法。あのダンジョンリザードの時に死に物狂いで使用した魔法だ。
・チャージング=ストレングス
筋肉を魔力で補強し、限界を超えた力を出すことができる。
・ディテクティブ=アイ
脳に強い負荷(魔力)を流し込み、脳を活性化させる。
この2つの魔法は、体が鍛え切れていない今、特に有用な魔法だと言える。ルターの攻撃に追いつく希望の一つだ。
現状を整理し、今後の計画を練っていたその時、あれ程助けたいと願ったユキの姿が目に入る。
「ユキ!」
俺の声に、ユキは驚き、振り返る。
「レイ!?どうして、そんなに泣きそうなの……!?」
その表情には困惑と、ほんの少しの喜びが浮かんでいた。
俺はユキの危機を救うため、ここまで来たのだ。ここで弱音を吐くワケにはいかない。
俺は無理をして言葉をひねり出す。
「大丈、夫。何でもないよ」
思わず抱き留めてしまいそうになる感情を抑え込み、普段のように会話する。
この幸せな時間を、俺は守るんだ。そう再び決意し、ルターがやってくるのを待つ。
そして、ついぞその時がやってきた。
「再臨した勇者よ。我々の理想には、貴様は邪魔だ」
不気味なローブ、その佇まい。3年前に嫌になるほど見て、聞いた光景を、俺は静かに受け流す。
「その勇者サマとやらを殺す前に、俺と戦ってもらおうか」
ユキを庇うように前へと出る。あの時と違って、恐怖による震えは無かった。そこにあるのは、理不尽を超えるという意志のみ。
その瞬間、高速で移動し、俺の左腕を狙ってくる。予想通り。だって見てきたのだからな。
俺は魔剣を即座に生成し、ルターの手刀に合わせた。
「....反応しますか。どうやら只者じゃあないようですね」
──────雰囲気が違う。やはり、俺はまだルターの本気を見ていなかったのだな。
そして、今魔剣を生成したことで、ルターの警戒度が跳ね上がったと考えるのが妥当、か。
ユキをちらっと見る。ちゃんと安全な所にいるようだな。俺の勝利条件は、俺とユキの同時生存。ユキを巻き込まずに戦闘する必要がある。
俺はユキの方に手をかざし、魔法を行使した。
「モノリス=ウォール」
グリモ=メモリアから魔法を行使する。イメージする必要はほぼなく、ラグが生じない。
そのため、俺が詠唱したのと同時に、ユキを守る岩の壁ができた。
「これで、気休め程度に守れそうだ──────ッ!?」
一瞬のスキをついてルターが突進してくる。
俺はそれを体術を用いて何とかいなす。しかし、左手がひどくしびれる。受け止める時に衝撃を逃がし切れなかった。
「チャージング=ストレングス、ディテクティブ=アイ」
すぐさま強化魔法を使い、その怯みを見せない。隙を見せれば、すぐさま相手のペースにもっていかれる。それだけは避けなければ。
「少し、本気を出すとしましょう」
俺の身体強化を感じ取ったのか、ルターは動きを止め、力を溜め始めた。
「隙あり!」
もちろんその隙を逃さない。身体強化を受け、瞬発力が上がった状態で突っ込む。
だが、次の瞬間には、背後に回ったルターの手刀が胸を貫いていた。
「FIRST=GEAR」
ルターの本当の能力が、今明らかになった。
認識するより先に、心臓が消し飛んでいた。速すぎる。
──記録。奴は身体強化に反応してギアを上げる。突っ込むのは悪手だな。
意識がブラックアウトすると同時に、俺は次の行動を選択済みだった。
──────第八次観測、開始。
俺の身体強化を感じ取ったのか、ルターは動きを止め、力を溜め始めた。
さっきの経験から、俺は安易に突撃せずカウンターの姿勢をキープする。
「FIRST=GEAR」
先ほど見せた速度上昇能力。こちらが動きながらでは反応することは出来なさそうだ。
そして意識を極限まで尖らせる。ルターの一挙手一投足を見逃すな。
「行くぞ、勇者を庇う者よ」
その言葉が耳に届くころには、ルターは最高速まで吹け上がる。
「そこだッ!!!」
何とか俺はそれをカウンターする。しかし、カウンター攻撃の頃にはまた姿を消す。
埒が明かない。このままだと押し切られる。
その焦りから、俺はカウンターの構えを解いてしまった。
──────第九次観測、開始。
──────第十次観測、開始。
──────第十一次観測、開始。
ここまでやって、ようやくあの速度に慣れてきた。確かに速度は凄まじい。しかし、それは全て直線的な移動だったのだ。
その動きの特徴が分かれば、カウンターの隙もあるかもしれない。
「そこだ!」
「ここッ!」
俺は何度もルターの攻撃を跳ね返し続ける。
その数が二桁に突入する頃、ルターが砂埃を大きく立て、急停止した。
「なかなかやるな。テンションが滾ってきた」
性格が変わっている。能力の影響かわからないが、より暴力的に、より野性的な雰囲気を醸しだす。
「勝負は始まったばかりだ」
「SECOND=GEAR」
ズンッ、と大気が重くなる。 ルターの足元の地面が、ただ立っているだけでひび割れていく。
奴は速度を少し犠牲に、トルクを爆発的に向上させた──────。
「行くぞ...!」
ルターがそのあふれ出る力を漂わせながら攻撃に転じてくる。
俺は魔剣を強く握りしめ、ルターの拳に対応しようとするが、はじかれてしまった。
力も凄まじいが、あの纏っている魔力のオーラ。あれは今の俺では両断することができない!
「そんなもの....かッ!」
ルターがすぐさま追撃してくる。剣を吹き飛ばされているため、何とかそれを腕でガードする。
しかしその攻撃の重さは、先ほどの比ではない。だが、そこで一つの賭けを思い付いた。
「モノリス=ウォール!」
もう一度、今回は自分を守るように岩の壁を立てる。
「鬱陶しい!」
ドゴォォォン!!
腹の底に響くような轟音をたて、思い通りルターはその壁を突き破ってきた。
あれだけのパワー。アイツは必ず、回り込むのではなく、突っ込んでくる!
この時、突き破ってきたルターの足元にこっそり仕掛けていた魔法陣が展開した。
「ファイア=バインド」
「捕まえた」
師匠から教わった設置型魔法。そこに魔法が出現するようにイメージし、衝撃によってマナと結合させる罠の魔法。
俺はこのチャンスを逃さず、今取れる最大の攻撃を放つ。剣はだめだ。さっきの攻撃で、通りが悪かった。だから──────!
チャージング=ストレングスの魔力比率を、右腕に集中させる。より硬く、より精強に。その時、右腕が青白く光り輝く。
「しまっ──────」
焦るそのルターの顔面に目掛け、拳を振りかざす。
「はあぁぁぁあああ!!!」
その一撃は、手ごたえをもってルターに直撃した。




