16話 回帰
「キミの修行は、これで終わりだ」
魔剣を寂しげに見つめ、師匠はそう語り掛ける。遂に、師匠の修行もここでおしまいか。
「最後に、私と一戦交えないか。キミがあの森へと戻る前に、その力を見せてくれ」
師匠の実力は未知数だ。でも、ここで師匠を超えてみたい。そんな気持ちでいっぱいだった。
「...わかりました。手加減はナシですよ」
「わかってるよ」
そして、師匠との戦いが始まった。
師匠は両手に剣を持っている。変わった点として、右には直剣、左には少し短めの剣を携えていた。
自分からは動かず、こちらの動きを伺うようにその場に立つだけ。その佇まいには隙がない。動く前から、すでに俺の動きを読み切っているかのようだ。
「見てるだけじゃ勝負は始まらないよ。好きなようにかかってきなさい」
手に握りしめている魔剣を感じ、俺は師匠へ突撃する。
愚直に突撃。どう反応してくるかを誘う動きだ。
それに対して師匠は機敏に動く。左の剣を振り上げ、体制を崩そうとする。どうやら師匠はカシムが語っていた鏡映流の派生した流派、二刀鏡映流の使い手のようだ。
二刀鏡映流はその手数が武器。カウンターから手数で突っ込むのが基本、だったかな。
その動きに反応し、練っていた岩魔法を地面へ放つ。地面から岩の柱が何本も生成された。これで手数を絞ることができる...!
「...おっと!」
しかし、その岩を飛び交うように師匠はステップ。体勢を立て直されてしまう。小細工は通用しないか。
ステップをそのままに、師匠は風魔法を操り高速で突進してくる。
「....ッ!」
寸でのところで受け流す。しかし魔剣をはじかれてしまった。
それを見て師匠は追撃をしようとした。
「これで終わりだ!」
勝ちを確信した師匠が距離を詰めてくる。その時、一つの考えを思い付いた。
空の手を師匠に振りかざす。そして、その瞬間、魔剣を再生成させる!
その剣撃は、浅く師匠の胸元を切り裂き──その風圧が、深く被っていたフードを宙に舞い上げた。
「......私の負けだな」
そう告げる師匠の現れた素顔を見て、俺は言葉を失う。 鏡を見ているのかと思った。
そこには、俺、レイと瓜二つの顔があったのだ。
「バレてしまったか。驚くのも無理ないだろう」
いきなりの情報に、脳が処理を拒む。師匠と、俺にはどんな関係があるんだ?
「いいか、私とキミは、平行世界上での同一人物だ。ユキと勇者も同じ関係だろう」
平行世界上の、同一人物...?
「なんでそんな存在が、俺を鍛えたんだ?」
その疑問に、師匠は答える。
「ユキ、つまりは勇者と距離が近かった。そしてこの世界に転移してくる。だから、転移して間もないユキを助けることができるのはレイ、キミしかいない」
「そのキミと最も繋がりがあるこの世界の人物。それが私だったんだ」
だから、師匠は俺に魔剣を教える使命を受けたってことか。
「レイ。ユキを、勇者を導け。そして、この世界を救ってくれ」
そして師匠は俺の頭を優しく撫で、懐から一冊の古びた本を取り出した。
「これをキミに渡す。名は『グリモ=メモリア』。キミの記憶と魔法のバックアップ、いわばキミ自身の軌跡を辿る魔本だ」
グリモ=メモリア....。俺の軌跡を辿る魔本。その名前にはどこか懐かしさを覚える。
「グリモ=メモリアがあれば、その発想力を魔本に記入できる。魔法のショートカットなんかもできる優れものだ」
この本があれば、ルターにも追いつくことができそうだと思わせる。
「世界を、頼んだぞ」
魔本を受け取り、俺は力強く頷く。
「ええ、必ず」
魔本に目を移し、見上げた頃には、師匠の姿はもうそこには無かった。
「ありがとうございました。師匠。この世界の俺」
そう師匠がいたところに礼と共に告げる。ここからは、俺一人の戦いだ。
「ユキ……待ってろよ」
深呼吸した後、覚悟を決めて魔剣を生成する。
そして俺は、魔剣を両手で握りしめ、自らの胸へ突き刺した。
「がはっ....」
吐血が止まらない。意識が遠くなる。でも、不思議と苦しくはなかった。やるべきことのために、俺はタイムシフトを使用する。
第六次観測──開始
次に目が覚めた場所は、これまで死に戻りのたびに辿り着いた、最初の森の中だった。
カシムの剣は手元になくとも、胸の温かさは確かに残っている。
手を当てると、その温かさが全身に広がる。これまでの記憶、そして手に入れた全ての魔法――全てが、俺の中にある。
「これで、準備は整った」
一人、静かに呟く。
「今度こそ、ユキを助ける」
俺は再び最初の道へと歩き出した。
俺の旅は、今、本当の意味で再開したのだ。




