15話 『真なる魔剣』
ダンジョンリザードとの激闘を終え、俺は師匠の自宅で目を覚ました。
「目が覚めたようだな」
師匠は無言で温かいスープを差し出した。肺が痛かったが、俺はそれを何とか飲み干した後、静かに師匠を見つめる。
「次の修行を始める」
師匠は、俺に向き直し、神妙な顔を浮かべ、次の段階の修行を告げた。
「これまでの魔剣は、ただの仮初めだ。ただ魔法を剣に付与しただけの”魔剣もどき”といってもいい」
「これからキミが生成するのは、一からその刀身を作る、”真の魔剣”だ」
真の魔剣。その荘厳な名前を聞いて、俺は息をのむ。
そして、魔剣の生成に取り掛かった。
「難しいな」
いざ取り掛かると、マナが剣のように固まるだけで、魔剣として定着させられない。雑念が少しでも入ると、マナが霧散してしまうのだ。
悩んでいる俺を見て、師匠が助言する。
「これまでの魔剣は、もともと剣として存在している所に魔法を付与していただけだ。今やるべきなのはキミの純粋な思いを剣に変えること。それができなければ魔剣として成り立たない」
「もっと深く考えろ。キミをここまで突き動かしている感情の根源を」
俺は目を閉じ、これまでの戦いを思い返す。
終わりなき戦争、仲間の死、ユキを置き去りにした後悔、ルターとの絶望的な戦い、そして何度も繰り返した死に戻り。その全てが、俺をここまで突き動かしていた。
沈黙を破り、師匠の言葉が静かに響いた。
「キミは、なぜ一度ユキを見捨て、この3年間を作りだしたんだ?」
心の中で思い出す。あの日の強い後悔の感情を。とてつもない無力感を。俺はその運命を変えたい一心で、がむしゃらにあの森から逃げてきたんだ。
俺の根源の感情は、ユキを救いたいという願いだけじゃない。世界に、運命に、理不尽に対する「反逆」の意志だったのだ。
自分の意志を心に留め、一度心を水面のように落ち着かせる。生まれた時のように、ただそこにいる感覚に集中する。
そして、その水面に自分の意志をぶつける。
「俺は、俺の運命を、ユキの運命を、誰にも決めさせない!この世界に、俺の意志を示す!」
自分の思いを、ユキへの思いを、叫びに乗せて世界へと誇示する。
その思いは、想いへと変わり、剣を形作る。理不尽への反逆は剣身に。ユキを守るという意志は柄に。少しずつ、魔力がマナと結合して魔剣として成り立っていく。
「はああぁぁあああ!」
今の俺が持てる魔力を仕掛中の魔剣へ注ぎこむ。
その時、”真なる魔剣”は世界に定着した──────。
手には自分の情熱がそのままにのしかかるような重みを感じる。
柄は漆黒、剣身は透き通るようなマナと、重厚感を持った魔力が結合した、神秘的な輝きをしている。完成したのだ。俺の魔剣が。
俺は祈るように目を瞑り、魔剣の存在を感じ取る。
そして、切っ先を上に向け、生まれたての魔剣をゆっくりと顔の高さまで持ち上げる。
カチャン、と。
静寂に包まれた部屋に、この世界へと定着した魔剣の硬質な音が響く。 俺はこの剣に、そしてこの剣を振るう自分自身に、無言の誓いを立てた。
目を開けると、その剣に映る自分と目があう。そこには世界に反逆する戦士の顔があった。
そんな様子を見て、師匠は満足そうに頷いた。
「よくやった。それこそが意志をのせたこの世界の一つの到達点。真なる魔剣だ」
本当の意味で、俺は強くなることができたと確信する。
遂に、俺はルターを打破する本当の“剣”を手に入れたのだ。




