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第51話 お見舞いに来たけど嬉しくない?

皆さんはどう思いますか?

自分の嫌いな人に、お見舞いら来られるの。

 あれから数日が経った。

 ライザァス達は無事、ボンディング魔王軍に加入してくれた。

 最初のうちは警戒されていたけれど、今ではスッカリわだかまりは解消されて、魔王城の足りない警備をやってくれている。


 これで一件落着だ。

 僕は電話越しにギルドマスターであるボルトロンに伝えた。

 今回の事態、無事に収拾したので、万事解決だ。


「ってことで、一件落着だよ」

『一件落着か。また、お前の所が強くなっただけだな』

「あはは、それは仕方が無いよ」


 ボルトロンも分かっているのに、また意地悪なことを言うな。

 そもそもボルトロンが持って来た事態なのに、その口振りは絶対に無い。

 まぁ僕としては、別にこれくらいで怒ったりしないけどね。

 そこはグッと押し殺すと、ボルトロンは受話器越しに『まぁいい』と唱えた。


『それよりユイガ、ギルドに何故来なかった』

「面倒だからかな?」

『面倒だと? お前、俺が直々に読んだのに来なかったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』


 うるさい、うるさすぎる。鼓膜が破けたかと思った。

 止めて欲しいと思い、眉間に皺を寄せて呆れる。

 自分のことを相当過信しているのかな? 全く、謙虚になろうよ。


「はいはい、また今度行くから。あっ、説教は無しだからね」

『仕方がねぇか。だがな、俺だって寛容って訳じゃないぇんだぞ!』

「知ってるよ。それよりもう切るね。これから予定があるんだ」

『予定だと? ……待て、そう言えばユイガ。話によるとお前がプラシアと一緒にいるとかなんとか、アレは一体……』

「はいはい、そう言うことだね。じゃあね」


 ガチャリ!


 僕は受話器を置いた。ボルトロンはいちいちうるさいんだよね。

 声がやけに大きい、耳も痛くなる。それにそんな深入りする話をしないで欲しい。

 話せないこと、話したくないこと、話さなくてもいいことは山程あるんだからね。


「ふぅ。それじゃ行こうか」

「は、はい。あのユイガさん、今のはボルトロンさんからの……」

「いいよいいよ。それより行く所があるでしょ? 早く行こう」


 僕はプラシアの顔を見た。

 不安そうな顔をしているけど、もちろんボルトロンからだ。

 話の中身がちょっとなーって感じだから、あまり口に出来なくて、僕は上手く受け流すと、プラシアを連れる。


 これから行かないといけない場所がある。

 って言うか、プラシアが行きたいらしい。

 だから僕はソッとプラシアの手を掴んだ。ズキンと温もりを感じると、緊張しているのかな?


「プラシア?」

「えっ、あっ、はい。行きましょう、ユイガさん!」


 プラシアは何故か頬が真っ赤になってる。

 何でだろう? 分からない、分からなすぎる。

 だから考えるのを止めると、僕はプラシアと一緒にとある場所に向かった。




 僕とプラシアはとある場所にやって来た。

 ここはディアレイにある病院で、僕達の知り合いの一人が入院しているらしい。

 何だか相当な手術になったらしくて、今はベッドの上らしい。


「ここかな?」


 案内されたのは、六人用の病室。

 僕はプラシアを連れ、受付で訊いた番号の部屋に来た。

 ここに居るようで、早速扉を開けようとすると、罵声が聞こえた。


「クソがよ!」


 やっぱり相変わらずだった。

 痛い目を見たから、少しは大人しくなっていると思ったけど違う。

 寧ろ闘志以上の怒りを身に着けると、吐き付けるように不満を漏らした。


「なんで俺がこんな目に遭わなくちゃいけねぇんだ。俺は勇者だぞ、新時代の勇者にこんな仕打ちあっていいのかよ!」


 未だに自分のことを勇者だと思い込んでいた。

 まぁ、それは全然構わない。本人の自由で、僕は否定しない。

 でも負けることもある。そこから何を学ぶかだと思うけど、何も学んでいない、反省もしていなかった。あーあ、アドレナリンが出過ぎだよ。


「あー、クソだクソだクソだクソだ! なんで保険は下りねぇんだよ!!」


 いや、そんな態度だから魔物にバカみたいなことをして死に掛けるんだよ。

 少しくらいは弁えて行動した方がいい。少しずつ、小さなことからレベルアップするべきだ。

 でもそれが出来ないからこそ、今ここに居る。ベッドの上で保険が適用されない悲劇に見舞われていた。


「ユイガさん、なんだか大変そうですよ」

「そうだね。地獄だね」


 正直この先に行きたくない。このまま退き返してしまいたい。

 クルンと振り返り、踵を返して逃げかえるのも悪くない。

 そう思ったけど、プラシアは扉のノブに手を掛けた。


「ユイガさん、行きますね」

「えっ、本当に行くの?」

「はい。このために魔王城からここまで来たんですよ」


 確かにそうだけど、時間は有限だ。

 こんな所で油を売っている暇が果たしてあるのかな?

 僕は頬を指でなぞると、プラシアはノブを持って扉を開けた。


「失礼しますね」

「ああっ?」


 プラシアは病死に足を運んだ。

 六人用の病室の中は、まさかのたった一人だけ。

 きっとうるさすぎて、特例でこの病質を与えられたに決まっている。


「ぷ、プラシアだと!?」

「はい、プラシアです」


 病室のベッドに座って、ドン! と拳を振り下ろした。

 完全に怒ってる。プラシアは何も悪いことしていないのに。

 何だかやるせないな。ダサい、ダサすぎる。ダサすぎるよ、ジョイ。


「ジョイさん、怪我の具合はどうですか?」

「いい訳ねぇだろ! ゲホッ、ゲホッゲホッ!!」


 ジョイは咳き込んだ。今にも血を吐きそう。

 それはそうだよね? 肺に骨が突き刺さって穴が開いた。

 肺気腫を患ったんだから仕方が無くて、僕は扉越しに「はぁ」と溜息を付いた。


「なにやってるのかな、ジョイ?」

「なっ!? お前は……クソ野郎……ゲホッ!」


 僕も顔を出すことにした。病室に入ると、ジョイの顔色が変わる。

 血相を掻いて腹を立てると、貌が真っ赤になった。

 咳き込みがエグくなると、ジョイは腹を立て捲った。


「なんでここにいやがるんだ!」

「いや、プラシアの付き添いだよ?」

「付き添いだと?」

「うん。それ以上でもそれ以下でも無いよ? はい、コレ」


 僕はせっかくお見舞いに来たんだから、手土産を渡した。

 僕が持って来たのは花で、植木鉢に入った根の張ってある白い菊。

 もちろん意地悪だよ? 普段はこんなことしないからね。


「き、気持ち悪いな。なんだよ急に」

「……うん」

「ユイガさん、それはあまりですよ」


 プラシアの言う通りだった。

 でも、ジョイもこのくらい気が付いて欲しかったな。

 あーあ、あーあ、あーあ、はぁ、ってなるよ。


「それよりジョイ、いい部屋だね」

「んぁ? チッ。俺の声がデカすぎて、他の同質の奴に迷惑が掛かるって言うからな、この部屋に移されたんだよ」

「そうなんだ。それは仕方ないね」

「るせぇ! 分かってんなら、黙れよ」


 ジョイは図星を突かれてしまった。

 僕は心の中で笑ってしまうけど、本当に予想が当たっていた。

 プラシアも目を逸らすと、ジョイにことの顛末を伝える。


「聞いていると思うけど、ジョイを倒した魔物は……」

「倒されてねぇよ。勘違いすんじゃ……ゲホッゲホッゲホッ!」


 ジョイは負けたとは思っていないらしい。

 その威勢だけはいいけれど、現実は見た方がいい。

 病院のベッドの上に座っている時点で、魔物に恩情を貰ったに決まっている。


「その魔物だけど、何処かに行ったらしいよ」

「はぁ?」

「そうだよね、プラシア?」

「は、はい。そのようですね。私もギルドマスターから聞いたので、なんとも言えませんけど」


 実際には全然違う。ライザァス達は今も全然この街の近くに居る。

 でもジョイの手前、それを言うと流石に可愛そう。

 おまけに僕達の評判にも関わるから、嘘を付いて誤魔化した。


「マジかよ……ふぅ」


 ホッと胸を撫で下ろすジョイ。

 負けた悔しさもあるけれど、これ以上関わり合いにならないと分かって気持ちが楽になる。僕はジョイの気持ちをサッと汲み取ると、すぐさま調子に乗っていた。


「はっ! この俺の実力にビビって逃げやがったな」

「あはは、そうだといいね」


 ジョイを煽てると何か出て来るかもしれない。

 期待して僕は受け流すと、調子に乗ることしか言わない。

 流石にウザいのでジョイを少しだけ凹ませる。


「俺は勇者だからな。流石に逃げるのも無理はないゼ。これでAランク冒険者まで待ったなしだな。はーはっはっはっはっはっ!」

「いや、それは無いよ。Aランクになる前に……はい、これ」

「ん? なんだよこれ」

「請求書だよ。ギルドマスターが受付に預けたものを、代わりに渡しておくね」


 最悪の現実を突き付ける僕は、ジョイに請求書を手渡した。

 そこにはとんでもない額が記入されている。

 地獄を見るのはこれからで、赤らんだ顔が真っ青になった。


「えっ、まっ、嘘だろ?」

「嘘じゃないよ。はい、本物の請求書の用紙だよ?」


 もちろん嘘なんかじゃなかった。

 こんなつまんない冗談、付く訳無いでしょ?

 そんな義理も間柄でも無いからさ。だから、これは本物って訳。ヒィィ、怖い。


「それじゃあちゃんと払ってあげてね」

「いや、待ってくれ。なぁ、プラシア!」


 ジョイはプラシアに助けを求めてる。

 まあそうだよね。普通に助けて欲しいよね。

 だって死にたくなる金額なんだもん。でもね、無理だよ?


「すみません、ジョイさん。流石に私にも無理です!」


 そうだよ。この金額を借りようなんて言語道断。

 せめて銀行にでも行って、多額の借金をするのが精々。

 って、ジョイが銀行でお金を借りられるとは思わないけどさ。


「それじゃあ帰ろうか、プラシア」

「はい、ユイガさん。それではお大事に、ジョイさん」

「うん、早く怪我を治すんだよ」


 流石に面会時間にも制限があるよね。

 ジョイは凄く元気そうだけど、コレでも一応患者。

 だから変に心労を与えたくない……ってもう与えた後だけどさ、僕達は帰ることにする。


「あっ、ちょっと、待ってくれ、おーい!」


 ジョイの叫び声が、病室から聞こえて来た。

 いやいや、ダメだよ、ジョイ。病院で叫んだら。

 みんなの迷惑になることを、やっぱり考えていないジョイだなって、僕は思っちゃった。

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