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第44話 勧誘は失敗らしい

スカウト……失敗です。

 廃屋を去ろうとした僕とプラシア。

 扉越しで魔物の姿は見えなかったが、振り返った瞬間だ。

 平たく伸ばした腕が突き出された。


「ライン!」

「ワカッテルヨ、ザイア」


 現れたのは鎧を纏った魔物だ。

 騎士型とは聞いていたが、三体全員が騎士型とは思わなかった。


 それにしても自棄に好戦的だ。しかも一瞬で背後を取った?

 扉の向こうにいた筈だが、何処か不自然。

 印を付けた様子もなく、恐らく魔物の特性だろう。


「汝らに与えしは光の源、魔を跳ね除けよ—シャイン・リペル!」


 プラシアが魔法を唱えた。やけに判断が早い。

 高速かつ丁寧に魔法を唱えると、僕とプラシアを覆った。

 そこに飛び込んでくる魔法は可哀そうだけど、返り討ちにさせて貰う。


「これもオマケだよ」


 マントをパッと翻した。

 その瞬間、魔物二体掛かりで放つ魔法が炸裂。

 印がマントに触れた瞬間に解除され、雷は放電現象を起こすだけに留まった。


 バチン! ジリリィィィィィ——


 鈍い音を立てていたけど、普通に魔法は発動した。

 でも威力は完全に殺し切っていて、残念だけと掻き消してしまう。

 魔物達は驚いて固まってしまっているが、残念僕達は余裕な表情だ。


「驚いたよ。まさか二人の方から、先に出て来てくれるなんてね」


 僕とプラシアは余裕だった。それもその筈、光属性の魔法をプラシアが唱えてくれた。

 事前に掛けておいた防御魔法も上手く噛み合い、魔物の攻撃を跳ね返すことに成功。

 加えてマントを払ったことで印の魔法(から)雷の魔法のコンボもサクレすることなく霧散した。


「ナ、ナンダト?」

「ワタシタチノイタダイタマホウガキイテイナイ?」


 魔物二体はさぞかし驚いていた。

 兜を被っているので表情までは読めない。

 そもそも奥に光はなく、全てが透過している。輪郭だけは見えるけれど、それよりも気になることがあった。


「魔法を頂いた?」


 如何やら借り物の魔法を使ったらしい。

 魔物の中には魔法を使えるくらい、魔法力に長けていて、高い知性と素質を持っている種類や個体も存在している。

 上手く魔法は扱えているものの、それが借りものだと分かれば、少しだけ騎士型から外れる。そうして導き出した答えに、僕は少ない知識から辿り着いた。


「ああ、ゴーストナイト」


 僕は魔物の種類を言い当てた。

 ゴーストナイト=直訳で幽霊騎士だ。

 幽霊が騎士の鎧を身に纏うことで、物体に触れることが出来、ましてや本体は幽霊なので壁や床を透過出来る。

 

 とは言え厳密に言えば幽霊で、魔物とは言い難い。

 それもその筈、元々幽霊の魔物として生まれ、騎士の鎧を身に纏う例は少ない。

 恐らくは何処かで死んで、恨みを持ったまま現世に留まった。その結果、騎士の鎧を纏ったんだ。


 でも、如何してゴーストナイトになったんだろう? 凄く興味は……無いかな。

 僕もプラシアに詳しい家族構成までは話していない。

 あくまでもザックリとした具合でいい。知っている範疇で充分なんだ。

深追いして親身になって来ると好意的に思われる場合よりも、嫌われる可能性が怖い。下手に経緯を訊ねるのも違うと思ったんだ。


「ユイガさん、ゴーストナイトですか?」

「うん。プラシア、光属性……もっと言えば、聖属性の魔法は使える?」


 プラシアには野暮なことを訊ねた。

 光属性の魔法が使えるのは、回復役ならさも当然。

 その先の話で、聖属性の魔法が使えるか聞いておく。


「使えます……けど。そこまで自信はありませんよ」

「充分だよ。それじゃあ……ふぅ」


 まさか使えるなんて思わなかった。

 だけどこれで立ち回りは非常に楽になった筈。

 息を整えると、最後にもう一度だけお願いする。


「改めて聞くね。魔王軍に入ってくれないかな?」


 これだけ腕が立つなら、是非とも魔王軍に入って欲しい。

 誠心誠意頭を下げ、お願いしてみたけれど、残念ながら芳しくない。

 上手く行かなかったみたいで、すんなり断られる。


「「コトワル」ワ」

「そうだよね……分かったよ。それじゃあ僕達は帰るね。それじゃあ行こっ、プラシア」

「ええっ!?」


 断られてしまった以上、ここに居ても仕方がない。

 無理に引き入れるのは違う上に、僕が間に立って仲介する必要も無い。

 二体なら如何にでも冒険者達を返り討ちに出来るだろう。

 その結果、どちらかが倒れても知らない。関係ない。実に魔王らしかった。


「いいんですか、ユイガさん?」

「構わないよ。それじゃあ君達のボスによろしくね。いずれ冒険者がここにやって来る。この間君達が倒した冒険者よりも強い人(ひと)がね」


 ここにはいずれ、冒険者達が足を運ぶ。

 情報を仕入れ、ガチガチに武装した冒険者一行だ。


 ゴーストナイト二体では骨が折れるだろう。

 もっと言えば、ボスである騎士型でさえ厳しいの一言に尽きる。


 どちらかが倒れるまで、戦いは終わらない。

 逃げるなら今の内だと警告はして置くが、止める気は一切無い。

 僕達は事前に争いが起きないよう止めに入った。でも聞き入れて貰えなかった以上、非情でも冒険者と魔物が織り成す命の取り合いを邪魔しない。


「それじゃあ、時間を取らせちゃったね。後は好きにして」


 僕はゴーストナイト二体に手を振った。

 プラシアを連れて、間を潜り抜けると、キョトンとしている。

 ゴーストナイトもそうだけど、プラシアも「これでいいんですか?」と悩んでいた。


「いいんですか、ユイガさん?」

「いいよいいよ。後は命の取り合いでしょ?」

「そうですけど……止めないんですか?」

「止める? 僕はもう止めたよ。それともプラシア、冒険者として魔物の命を容易く奪って来たのに、この期に及んで情が湧いたの?」

「うっ、それは……」


 冒険者と魔物のやり取りなら知っている。

 それを否定するつもりはないし、情が湧かない訳でも無い。

 でも出来ることには限りがある。何せ魔王とは言え、それはあくまでも役職でしかないんだ。


「だからプラシアも割り切らないとね」

「は、はい……」


 プラシアは少しだけ俯いていた。

 言い過ぎたかな? 幻滅させたかな?

 悪いとは思いつつも、僕は僕なりの善意で配慮すると、ラインとザイアから離れる。


 無防備にも背中を向けた。明らかな隙。

 その瞬間、異様な魔力が飛んだ。

 そのせいか、ラインとザイアは本能に駆られる。


「ニガストオモッテルノカ!」

「ニガサナイワヨ!」


 ラインとザイアは攻撃を仕掛ける。

 雷と印の魔法が発動し、僕達に襲い掛かると、プラシアの袖をツンと引っ張った。


「今だよ、プラシア」

「は、はい!」


 アイコンタクトで計っていた。

 魔力を放ったのは僕って言うか、僕の持っているアイテムが原因。

 それを発端にラインとザイアは襲い掛かって来たから、プラシアに確認を取った通り、魔法を放つ。


「汝らに与えしは聖なる源、魔を討ち払い亡ぼせ—セイント・フラッシュ!」


 プラシアは聖属性の魔法攻撃を使った。

 幽霊とか悪魔系にはこれが一番効く。

 近付いて来たラインとザイアも案の定光の波動を受けると、全身が悲鳴を上げて拭き取員だ。


「「ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」」


 断末魔が上がると、ラインとザイアは膝を突いていた。

 身動きが全く取れなくなると、僕達のことを恨めしそうに見ている。

 手加減をしたみたいで、本当なら塵になって消滅していたんだ。おお、怖い怖い。


「イマノハ……」

「イッタイナニヨ」


 ラインとザイアは怒っている。っていうより怖がってる?

 僕とプラシアは申し訳ない気持ちで、「ごめんない」と言い続けるしかない。

 でもこれも仕方が無い。力を示さないと、きっと懲りないから。


「ごめんね。でも油断を好機って勘違いしたのはダメだと思うよ?」

「ユイガさん、説教はダメですよ」

「そうだね。そんなつもりは無かったけど……でも、痛い目は見た。だからこれ以上の反撃はやめてよね」


 上から目線の言い回しが、何となくだけど魔王っぽい。

 ついつい魔王感に浸ってしまうけれど、今の衝撃はとてつもなかった。

 何か起こっても不思議じゃない。僕はプラシアに合図を送る。


「さっきはありがとう、プラシア」

「はい、なんとか汲み取りました」

「本当、ありがとう。でも今すぐここから離れた方がいい。なにか来ちゃうかも」


 僕はプラシアの推察力に感謝する。

 もう、最低な発言ばっかりして煽ってたけど、アレを勘違いされたら終わってた。

 プラシアに頭を下げると、それはそれとして早めにここから立ち去ることを提案。の筈が、もう遅かったらしい。早すぎない?


「なんだ、今の音は」


 ズキン! と鋭い殺気は放たれるみたい。

 一瞬で空気が変わったのが流石に僕には分かるけれど、それだけのこと。

 でもプラシアやラインにザイア、みんな固まってる? 声は頭上から聞こえた?

 そう思って視線をあげれば、そこに現れたのはマジで風格の良い騎士だった。

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