第38話 ギルドマスターの依頼
実は裏で繋がってるって訳。
「ユイガさん?」
プラシアが心配そうに僕のことを見ている。
うん、だって固まっているからね。
いや、まさか本当に電話機が掛かって来るとは思わなかったよ。
「あはは、気にしないで」
電話を掛けて来た主は決まっている。
僕は電話の受話器越しに話しをした。
「えっと、それでなにかあったんですか?」
僕がそう訊ねると、電話越しに早速怒鳴られる。
鋭い罵声が鼓膜を突き破る勢いだった。
『緊急事態だ、ユイガぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! すぐにでもギルド会館に来い、いいなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
あまりにも一方的な要求だった。
当然だけど、飲む気は無いし、冒険者ギルドに行きたくない。
僕は眉間に皺を寄せると、落ち着いた口調で断った。
「ああ、ごめんなさい。行きません」
電話の主は、当然のことながら、ディアレイのギルドマスターだ。
名前はボルトロン。かつては優秀な冒険者であり、Sランクにはなれなかったが、Aランクの冒険者として、高い功績を上げてきた英雄だ。
今ではディアレイの冒険者ギルドで、ギルドマスターの席に座っている。
日々冒険者が起こす数多の問題の処理に勤しんでいる身だ。
正直僕と似たような面がある。うん、同情はするけど、要求は飲まない。
『行かない、だと?』
「はい、行きませんよ。それに緊急事態なら、自分達でなんとかしてください」
当然のことを言ったつもりだ。
冒険者ギルド側の不祥事や緊急事態を、魔王軍に投げ出すなんて言語道断。
いざとなれば魔王軍が総攻撃でディアレイなんて簡単に潰せるのにね。まぁ、しないけどさ。
「ユイガさん?」
「(ちょっと待ってね)っていうか、僕を呼び出す理由が分からないんだけど?」
『理由ならあるぞ。魔物にうちの冒険者がやられた』
「あはは、そんなの普通のことでしょ? なに当たり前のことを言ってるのかな? それじゃあ保険も下りないし、裁判なんてできないよ?」
冒険者が怪我を負うのは至極当然、当たり前以前の何物でもない。
当然魔物に襲われて、命を落とすことはある。魔王城でもその仕様は採用しているから、最低限死人は出ないように配慮しているけど、怪我は当たり前にする。まぁ、死んでも大丈夫だけど、精神的に負担が大きいけどね。あはは。
それが分かっている上で冒険者と言う過酷な職業に就いているのだ。保険も下りない、裁判も出来ない。にもかかわらず、僕に責任を丸投げして呼び出そうなんて、バカでも負けるって分かってる。
(けど、それだけ切羽詰まってるってことかな? もしかして、強い魔物が現れた?)
ここまでの会話からある程度推測してみる。
冒険者がやられただけなら普通のことで、取り上げることでもない。
僕に電話をして来た=強い魔物が出たに違いない。それは面白いかも? 勧誘出来るかな?
『お前、楽しんでるだろ?』
「そんなことないよ。それで、魔物にやられたって、そんなにマズいの?」
『当たり前だろうが、ごらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
罵声を浴びせられた僕。本当理不尽だ。
ボルトロンの愚痴を聞くのが僕の仕事じゃない。
そういうのは副ギルドマスターにでもやってくれと思いつつ、僕は上手く受け流す。
「怒らないでよ。もしかして、本当にマズいの?」
『やられたのはジョイだ』
「ああ、ジョイかー」
「ジョイさんになにかあったんですか!?」
如何やら魔物にやられたのはジョイだった。いつかはやられると思っていたが、意外に早い幕引きだ。簡単に予想出来ていたとはいえ、ジョイがやられたとなれば僕に連絡を寄こした理由も分かる。
冒険者ギルドの前でバカな決闘をした。僕が勝っちゃって、ジョイのプライドをへし折った。それで折れ切って本来の実力を発揮出来なかった……とかのレベルじゃないと思うけどさ、僕のせいって言いたいのかな? プラシアも目を見開いているけど、如何してこんなに面倒事が襲い掛かって来るのか、無性に腹が立ってしまった。
「なんだろう、それで僕の責任になるの? それは違うと思うけど」
『問題はそこじゃねぇ。ジョイを襲った魔物だ』
「魔物? そんなに強かったの?」
ジョイを倒せるような魔物は、この世の中にゴロゴロ居る。
スライムにも勝てないようなジョイのランクでは、どんな魔物にやられたとしても、別に不思議には思えないんだよね。
『それは知らんな。だが、ジョイを襲った魔物は騎士型らしい』
「騎士型!? それはいいね」
本当にいいじゃんか。だって騎士型はディアレイ近郊ではかなり珍しい。
ただでさえ珍しい上に、最低限の実力を兼ね備えている。
魔王軍の補強要因には充分以上で、もしかすると幹部に匹敵するかもしれない。期待がドンドン膨れ上がると、僕の目がキラリと光った。
「それで、ジョイはなんて言ってたの?」
『ユイガ、お前やっぱり楽しんでいるな』
「楽しんでないよ。それでそれで、どんな感じだったの? 戦ったのはジョイなんだよね? 勝てなかったのは残念に思うけど、一応参考までに訊いてもいいかな? 情報は一通りあった方がいいもんね」
もはや話の本筋からズレている。そんなの分かり切っているんだよ。
でもさ、こんなの興奮しちゃうよね? だって面白いもん。
ジョイが善戦してくれていたら嬉しいんだけど、難しいと思うんだよね。
胸膨らませると、ボルトロンはヤバいことを言った。
『ジョイの奴は今、病院のベッドの上だ。幸い意識はあるらしいがな」
「病院のベッドの上?」
「じょ、ジョイさんになにかあったんですよね!? それで病院のベッドの上と言うのは?」
如何にもこうにもヤバい状態らしい。
意識はあるが、ベッドの上と来たか。冒険者ギルドとしても、保険金を出さないといけないから厄介人かも。そんなことを思ってしまうと、どれだけ強い騎士型か気になる。気になり過ぎてワクワクしちゃうよ。僕は戦っても勝てないけどさ、あはは。
「ベッドの上か。不幸中の幸いだね」
『そうだな。ジョイの腕なら、確実に死んでいただろうぜ』
ジョイのことを非難するつもりはない。
けれど確実に言えるのは、僕に負けるくらいだと、騎士型には到底勝てない。
不幸中の幸いで、命が助かっただけありがたいと思った方がいい。反省するとは思えないけど。
「それで、僕になにをして欲しいの?」
『例の騎士型の魔物の調査を頼みたい』
「調査? また突然だね」
突然ってことでも無いかな? 普通に、どんな魔物が相手か調べたいのだろう。
生憎と、ボルトロンはギルドマスターとして日々忙しい。僕も忙しいんだけど、ディアレイの冒険者には頼めない。それだけ質が悪いみたいに聞こえるけど、今は強い冒険者パーティーが出払っているから仕方がないみたいだ。
『お前の所の魔物じゃないんだろ?』
「多分違うと思うよ?」
『だったら尚のことだ。今回はジョイで済んだが、被害がまた増えるかもしれないからな。下手に魔王軍の株を下げるのも癪だろ?』
ボルトロンの言うことも一理あった。
だけど僕ぼことを顎で使うのは釈然としない。
そもそも魔王軍に属している魔物の仕業ならある程度は把握している。そんな連絡も無いから違うのは明白で、それで僕が動くのは違った。
とは言え、普通の冒険者には魔王軍がディアレイの市長と冒険者ギルドが提携を結んでいることを知らない。
つまりは、一際強力な魔物は皆、魔王軍だと思われてしまう。
確かに株が下がりそう。おまけに貴重な騎士型を無いとは思うけど、冒険者に倒されるのは嫌だな。
(うーん、どうしよう? 僕達は関係無いのに、困ったな)
何が正解なのだろうか?
分からない。分からないから困ってしまう。
そんな中、プラシアの不安そうな顔が飛び込んだ。
「ぁぁ……」
この表情は、千差万別に対する不安だ。別にジョイのことを想っている訳じゃない。
僕の目は誤魔化せない。こう見えて人や魔物を見る目はある。
そのつもりでいると、眉間を摘まんだ。
「分かったよ。少し調査してみる。けど、僕達のやり方だけどいい?」
『引き受けてくれるんだな。それならなんでもいい。やり方はお前に任せる』
「はいはい。でもちゃんと報酬は払ってよね。払わなかったら……ね?」
声色を少し変えて脅した。ボルトロンにも気迫が伝わったらしい。
『わかあってる』と本当に分かっているのかな?
多少の不安はありつつも一応飲んで貰い、僕は溜息を付いた。
「はぁ(まさかこんなことになるなんて。好都合、ってことかな?)」
ボルトロンには見えない。プラシアからも隠す。
僕はニヤリと笑みを浮かべていた。
実に魔物らしい、なんて死んでも言えないけど、それくらい怖い表情で、何故か魔王役が依頼を受けるのだった。
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