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第34話 頸狩り騎士が来る

魔物とは本来こう言うものです。

「なんだよ、クソがっ!」


 ジョイは悪態を付いていた。

 森の中を歩きながら、草木を蹴っ飛ばす。

 ミュジョワとフィーに散々バカにされた(※事実を羅列された)せいで、苛立ちが収まらなかったのだ。


「ふざけんなよ、どいつもこいつも。この俺のおかげでパーティーが組めてんだぞ、分かってんのか?」


 ジョイは自分が強いと思っていた。別にそれは悪いことではない。

 散々言ってはいるが、強いと思うこと自体は、決して悪いことではなく、寧ろ良いこと。精神を高め、実力を引き上げてくれる、所謂魔法の言葉だった。


「あーあ、俺が魔王を倒していればな」


 ジョイは魔王と戦って武勲を上げたかった。

 実力が証明されれば、誰もが勇者と認める筈だ。

 そうすればチヤホヤされる。幾らでも威張れる。小さな村から出て来た田舎者でも、成し遂げられることの証明になる筈だったが、その野望は果てしなく遠い。


「クソがっ。ファメラもウルームもましてやプラシアまで俺を裏切りやがった。クソがよっ!」


 ジョイは木の幹を蹴り飛ばした。

 爪先がゴツンと当たると、「うっ」と呻き声を上げる。

 あまりの痛みに激しく動揺すると、ゾワリとする感触がした。


「うっ、なんだ今のは!?」


 ジョイは背中が撫でられたように気持ちが悪かった。

 今のは一体何なのか? まさか魔物に睨まれた?

 それにしては気持ちが悪くて、ジョイは腹の底から声を上げた。


「はぁーっ!? 上等だ、おらぁっ! 俺は今機嫌が悪いんだ。スライムでもなんでも、ぶちのめして……(グハッ!)


 ジョイは振り返った。

 手にしている安物の剣を勇者の剣と思い込む。

 鋭い剣戟を叩き込もうとすると、ジョイの胸に痛みが走った。


「うっ、ああっ、うっ……今のは一体……」


 ジョイの胸は切られたような痛みが走った。

 けれど実際にはダメージは無い。

 防具を切られた訳でもなく、血が走った訳でもない。

 胸ではなく肺の方にダメージが入ると、口から血を吐き出した。


「ぐはっ! な、なにが起きたんだ?」


 ジョイは顔を上げた。すると目の前に人型の魔物が立っていた。

 全身が黒い靄に覆われている。鎧を着込んでおり、完全に騎士系統。

 今までに見たこともなければ戦ったこともないタイプで、ジョイは目から涙が零れた。


「ナンダコノヨワイニンゲンハ」

「サァネ? ライザァスサマニホウコクデス」

「その必要はない」

「「ライザァスサマ!?」」


 如何やらオスとメスで分かれているらしい。

 それにしても、一体何なのか。

 この圧倒的な強者感に晒されると、ジョイは顔を上げられなかった。


「ライザァス? それにしてもこいつら、人間の言葉を喋ってやがるのか?」


 魔物が人間の言葉を口にする。

 相当知能が高い証拠で、ジョイでも聞き取ることが出来た。

 一体どんな魔物が出て来るのか。そう思って待っていると、完全に人型騎士系統のボスが現れた。


「なっ!?」

「人間か。フン、弱いな。興味はない、生かしてやるからとっとと去れ」


 人間の言葉がより正確かつ流暢だった。

 ジョイでも分かるこの圧倒的強者の気配。

 立っているだけでもやっとだったが、舐められているのは釈然としない。


「去れだって……ふざけんじゃねぇ! この俺が、勇者が逃げると思ってんのか!?」

「「ユウシャ!?」」

「フン、威勢だけで腹は膨れないぞ」


 やけに人間に詳しく寛容だった。

 それがまた腹立たしく映ると、ジョイは手にしていた剣を構える。

 肺が破け、血が体の中で暴れているが、そんなことは関係が無かった。


「ライザァスサマ。コノニンゲン、ヨワスギル」

「ソウネ。ヨワスギマスワ」

「ラインにザイア、手を抜いたのだな?」

「「ハイ」」


 如何やら手を抜かれていたらしい。

 不意打ちなどライザァスの掲げる騎士道精神とは意に反している。

 そのせいか、ライザァスに忠誠を誓う二体の魔物も、その意向に従っていた。


 そのおかげで、ジョイは即死を免れることが出来た。

 本来ならば、この時点で死んでいるかorすぐに逃げ出している筈だ。

 それが向かって来るとなれば話は別。無鉄砲なバカには、それだけの敬意を払うことにした。


「いいだろう。相手をしてやる」

「「ライザァスサマ!?」」

「無鉄砲な剣士への手向けだ。受け取るがいい」


 とても貴重なことだった。

 黒い靄を解き放つと、鋭い剣がお目見えする。

 明らかにジョイの持つ剣とは異なり、禍々しい魔力を放ち、歴戦の傷痕を残していた。

 これぞ強さの簡潔な照明で、ジョイは慄くものの、それでも前に出た。


「舐めるなよ、舐めてんじゃねぇぞ。俺でも勝てんだよ、俺でもな!」


 ジョイはライザァスに向かって行った。

 鋭い剣を叩き付けに行くと、ライザァスも剣を構える。

 人間対魔物の戦い。度合いとしてみれば、明らかにライザァスが上だった。


「はっ!」


 ジョイは剣を振り上げた。

 一撃くらいは受けてもいい。

 そんな余裕を見せると、ライザァスは剣を使わず鎧で受けた。


「(カキン!)はっ!?」


 しかしジョイの攻撃は掠り傷も浴びせられない。

 あまりにも手応えが無く、ライザァスは困惑した。

 今の攻撃はなんだったのか? 攻撃だったのだろうか?


「なんだ、今のは?」

「嘘だろ。俺の最高の一撃が防がれた?」

「あれが最高の一撃……か」


 拍子抜けにも程があった。

 地面には罅が入り、折れてしまった剣が突き刺さっている。

 高い防御力を誇る鎧を前に、ジョイの剣は折れてしまった。


「ふん、この程度か」

「なっ!? 魔物の癖に、生意気な態度取ってんじゃねぇ!」


 ライザァスはつい挑発した。

 ジョイのことを煽ってしまうと、そんなつもりはない。

 けれど血の気が多いジョイは気に食わないようで、勝てないと分かっていながらも突っ込んだ。その目はまだ、勝てないと思っていないらしい。


「その魔物から忠告だ。無駄なことはやめろ。貴様では俺に勝つことはできない」

「ふざけんな! やってみねぇとわからねぇだろうがよ!」


 ライザァスは無駄な戦いを止めようとした。

 けれどジョイはそんな忠告を聞く気はなく、剣を何度も叩き付ける。

 その全てを受け切られてしまうと、剣はボロボロ。もはや剣身は短剣同等だ。


「どうだ、分かっただろ?」

「はぁはぁはぁはぁ……まだだ」

「まだやる気か?」


 ライザァスの言う通りだった。

 ジョイの攻撃は全て通じていない。

 それもその筈、ジョイの攻撃は軽すぎるので、鎧を貫通しない。


 息も絶え絶え、膝で呼吸をしていた。

 ジョイの体力はそれこそEランク冒険者だ。

 逃げ足だけはAランク相当だが、剣の腕では敵わない。


 それでも退く気はないらしい。

 ライザァスは待ってはみたものの、再びジョイは剣を構える。

 折れた剣は何よりも頼りなく、ジョイの顔色も悪い。


「当たり前だ。ミュジョワもフィーも俺をバカにしやがった。そんなんじゃ、勇者にはなれねぇ。だったら覆してやる。俺だって逃げるだけの男じゃねぇ。本気(マジ)で勇者を目指してるんだ。こんな所で逃げてたまるかよ!」


 ジョイは確かに勇者ではない。その器でもない。

 けれど本人はそれを認める気はないのだ。

 例え剣が折れたとしても、それでもジョイは立ち向かう。

 逃げ腰なだけではない。本物の勇気を持っている……のかもしれない?


「ホントウニユウシャヲメザシテイルンダ」

「アワレネ」

「ふん。いいだろう……」


 ラインもザイアも呆れて鼻で笑っていた。

 そんな二人の従者とは対照的、面白いと思ったライザァス。

 含み笑いを浮かべると、ジョイの希望を絶つ。


「その勇気は認める。だが、勇者の幻影に踊らされ、勇気と無謀を履き違えるような奴に、明日はない!」


 ライザァスは剣を振り抜いた。

 ジョイの胸が切り裂かれると、安物の防具は粉々になる。

 まさしく夢を壊す、手向けの剣戟。ジョイは成す術なく、大量の血飛沫を上げると、パタリと倒れてしまった。


「(バッサリ!)ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


 ジョイは絶叫を上げた。

 その瞬間、肺が引き裂かれて、大量の血を吐き出した。

 木霊する声が木々を揺らすと、ライザァスは剣身に纏う血を払った。


「ふん、この程度か」

「ライザァスサマ、ユウシャジャナカッタデス」

「ライン、アタリマエヨ。ホントウノユウシャナラ、ヒキギワガワカラナイハズナイワ」


 ラインとザイアはジョイが勇者ではないと分かっていた。

 あまりにも無謀で無策。こんな所業は勇者ではない。

 引き際が分からないなど、英雄の前に勇者の素養とも違っていた。


「言ってやるな。威勢だけは無謀な勇者だったぞ、人間……いや、冒険者か」


 しかしライザァスは騎士としてジョイの奮闘を讃えた。

 とは言え、お粗末にも程があり、命を無碍にしている。

 命が可愛そう。そう思わされると、ラインとザイアを連れる。


「行くぞ、ライン、ザイア」

「「ハッ!」


 ライザァスの目的はここには無い。

 中継地点として寄ったダンジョンで魔力の回復も済んだ。

 目指すはこの先に待つ強者との戦い。本物の勇者が居たとされるディアレイに向け、魔王を名乗る者との戦いに昂っていた。

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