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第31話 アレで折れたら勇者にはなれない

誰でも心に勇気を持っていれば、勇者になることが出来る。

 僕とプラシアはすぐさま冒険者ギルドの前から離れた。

 出来るだけ距離を取り、目立たないように努める。

 幸いにも、一般人には見られていたが、ごく限られた少数だ。

 それなら記憶の奥底に、“冒険者同士の喧嘩”くらいの認識でしか留められないだろう。


「まさかこんな所で、能力(スキル)を使うことになるなんて」


 正直、こんな街中で使うことになるとは思わなかった。

 それだけが不愉快なんだけど、今更行っても仕方がないよね。

 僕は諦めることにして、気を取り直すと、目立つマントをスッと折り畳んで、短いローブにした。なんか、旅人っぽくない?


「まぁいっか。冒険者ギルドもなんかよさそうだからね」


 心配するだけ損だし、悩むだけ無駄。

 どのみちジョイがあの調子なら、ディアレイの周りは平和に違いない。

 だったら一々情報を集める必要無し。

 僕は清々しい気分になると、心の片隅にあった不安を放り投げた。


「えーっと、それじゃあどうしようかな?」


 予定が完全に空っぽになった。

 如何しようかな? 何して暇を潰そう。

 このまま街を散策してみるのも面白いかもしれない。

 そう思って思考を巡らせる中、美少女が隣で声を掛けた。


「ユイガさん、待ってください」

「どうしたの、プラシア?」


 プラシアは僕に話し掛けた。

 正直プラシアは有名人だから、目立つんだよね。

 冒険者ランクも高いし、下手に声を掛けられると、せっかく姿を消した意味が無い。


「よかったんですか、ジョイさんと揉めてしまって」

「いいよ、別に気にしてないでしょ?」

「ジョイさんは気にしていると思います」

「だろうね。でもこれでキレ散らかすようなら、勇者の器じゃないでしょ?」


 何かジョイは勇者に憧れている。

 英雄視するのは全然悪いとは思わないし、それを目標にして頑張るのは凄くいい。

 才能だとか天才だとか、そんな持って生まれた素養だけでは、勇者には決してなれない。

 例え凡人でも、努力を続ければ、勇者になることが出来るんだ。


「とは言え、ジョイはね……」


 何と言ったらいいのかな?

 ジョイにはその器は似合わないというより足りていない。

 絶対に早死にする。そんな未来が見え見えで仕方ない。


「ジョイさんがどうかされたんですか?」

「いいや、別になんでもないよ」


 ジョイの人生に深く介入しても面白くない。

 逆に因縁を付けられ続けても仕方がない。

 少しは負けを糧に変ってくれればいいんだけどな。

 そんな淡い期待を抱くものの、内心ガチギレしているに違いない。


(そんなのを相手にしても仕方がないよ)


 もはや相手にするだけ無駄だった。

 僕は本当の意味でジョイに対する関心がない。

 多分“死ぬ”。それだけは勘だけど伝わった。


「ユイガさん、漠然とした質問なんですが、いいですか?」

「いいよ」

「ジョイさんは、勇者に慣れると思いますか?」


 本当に漠然としていた。

 あまりにも漠然とし過ぎていて言葉を失った。

 チラリとプラシアを見る。大真面目な顔で、「多分難しいですね」と表情が伝えている。


「う~ん、プラシアの想像通りかな」

「ですよね……ええっ!?」


 いやいや驚かないでよ。分かっていたでしょ、プラシアも。

 伊達に高ランクの、Aランク冒険者をやっていないんだから。

 僕は茶々を入れつつも、真面目に答える。今更だけど、プラシアも分かっていたんだ。なんだろう……ますます、ジョイを憐れんじゃうよ。


「今のままだと無理かな。アレで折れるようなら、本物の勇者には到底及ばないよ」

「本物の勇者、ですか?」

「うん。アレだと、本物の勇者にはなれないよ」


 僕は心の中で思っていたことを口にする。

 プラシアも痛感したのか、フォローの一つも無い。

 仲間のことを仲間だと思わないようなクズ勇者に、勇者を名乗る資格は、例えテーマパークの役でも無理だった。


「あ、それとユイガさん」

「なに?」


 今度は何だろう? もしかして、この後の予定かな?

 残念。それは僕も考え中。

 如何やって暇を潰そう。店の方は在庫をシュトルム義姉さんに頼んでいて、魔王城の方はスライム達とミニゴーレム達で賄えている。うーん、如何しようかな?

 色々試行錯誤する中、プラシアの顔が怖かった。笑顔のまま怒っていた。


「私のことはバカにされてもいいんですか?」


 ヤバい、痛い所を突かれた。

 プラシアは気にしないと思っていたけど、全然違った。

 いや、あれは、そうだね。僕の地雷外だったから仕方がないよね。


「えっと、それはその……プラシアは僕の家族じゃなくて、対等な関係かなって」

「対等!?」


 プラシアは急に顔が真っ赤になった。

 何だろう? 変なことでも言ったのかな?

 確かに完全な対等じゃないかもしれないけど、こう言っておくのが無難だった。

 けどこの反応は予想外で、プラシアは珍しくツンとする。


「それなら、そう、いいですけど……」

「どうしたの? 顔赤いよ?」

「ユイガさんはもう少し女性の顔色を窺うべきです」

「窺っているけどなぁ……」


 一応僕は魔王役なんだよね。

 だから人とか魔物とか、顔色をちゃんと窺うようにしている。

 でもね、分からない時もあるんだよね。本当必死にやって来れなんだから勘弁してよ。


「ごめんよ、プラシア」

「ふん!」


 プラシアが何故か怒っている。

 機嫌が悪い原因が分からない。

 一体何が起きてこうなったの?


「ふふっ。ユイガさん、面白いですね」

「揶揄ってる? 心外なんだけどな」


 完全に揶揄われていた。

 僕はムッとしちゃうけど、プラシアが楽しそうでいい。

 この雰囲気を崩したらダメだ。多分崩したら、また怒られる。何かいい方法ないかな?


「あっ、そうだ。プラシア、ちょっと公園にでも行かない?」

「公園ですか?」

「うん。リラックスしに行こ」


 僕はプラシアを誘っていた。正直誘い文句として弱々だ。

 でもプラシアは迷う素振りを見せない。

 何処か緊張した様子だけど、頬がちょっと赤らめている。


「は、はい」

「よし、それじゃあ行こうか」

「あ、あの、ユイガさん。これってデートですか?」

「ん? 違うけど」

「ムッ」


 僕の誘いに乗ってくれたプラシア。

 よかった、本当によかったよ。


 だけどデートってなに? なんでそんなことになるの?

 話が飛躍しすぎて怖いんだよね、まぁもっと怖いことになったけど。


 僕が否定すると、プラシアは唇を尖らせる。

 何故か凄く怒っているのが伝わった。

 ヤバい、地雷を踏んだかも。ジョイのことを悪く言えないなと思った。

少しでも面白いと思っていただけたら嬉しいです。


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