第29話 勝負は本当に一瞬
ジョイはあまりにも弱い、弱過ぎるのだ。
「はっ、死にやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ジョイは剣を振り上げた。
右腕は折れているのに気にも留めない。
ブンブン鞭のように振ると、骨がズタボロだった。
「いや、勇者がそんな物騒なことを言ったらダメだよ」
僕は正直に答えた。
勇者がそんなヤバいことを言ってたら、みんな引いちゃうよね?
見守っている通行人の人達も、若干引いていた。
「そんなことどうだっていいんだよ。勝てば、勝てば、関係ないんだよ!」
勝てば関係無いって言っちゃってるよ。
そんなこと言ったら、誰も付いて来てくれない。
寂しいジョイの人格に、僕は何だか憐れんじゃった。
「そりゃぁ!」
「おっと」
僕はマントを使って振り下ろされた剣を払い飛ばした。
ひらりと躱してしまうと、ジョイは目を丸くしている。
何が起こったのか、理解できていないみたいで、体がよろけた。
「な、なにが起きたんだ?」
「はい、よそ見している場合じゃないよ」
僕はジョイと遊んでいた。
優しく声を掛けて、体勢を立て直させる。
キレ散らかすんだろうなと思い構えていると、案の定だった。
「はぁっ!? お前に言われるまでも……うがっ!」
僕はジョイの左頬に、渾身の右ストレートを叩き込む。
顔には筋肉が付いていないらしい。
普通に骨に拳が突き刺さると、ジョイの体が飛んで行く。
「か、軽い?」
ジョイに叩き込んだ拳は渾身の一撃だった。
だけどあまりにも軽すぎた。
前より弱くなっている? そう言えば、あの時はプラシアに強化魔法を掛けて貰って、バフが入っていたんだよね?
もしかして、ジョイって弱い?
雑魚なんて言い方は最低だけど、本当に勇者を自称するのが烏滸がましい。
僕はそう思ってしまうと、マジで憐れんでしまった。
「痛、痛てぇ……なんだ、今のはよ」
「普通に殴っただけだけど?」
「殴っただけ!? それでこの威力はおかしいだろうがよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ちょっと待ってよ、キレすぎじゃないかな?
そんなのキレること? 普通に殴っただけだよ?
後僕は一応偽者の魔王。少しくらいは鍛えているからね。
もしかして、僕のことを見くびっていたのかな? ちょっとなぁー、それは心外だなぁー。
「いやいや、僕だってただで勝負を挑む訳ないでしょ?」
「さてはプラシア、強化魔法を掛けたな! そうだろ!」
「そんなことしていません。今のはユイガさんの実力です」
「ふざけんじゃねぇ。この俺より、勇者よりも強い一般人がいてたまるか!」
それが普通に居るんだな。しかもジョイの目の前に居るんだよな。
そもそも僕は強いって程じゃない。ただ戦えるってだけ。
普通にジョイが弱すぎるだけ。多分、今までもこれからも、強化魔法のバフだけを頼りにしているんだ。
「いるだろ、普通に」
「うん、いるよね」
「ジョイが弱すぎるんだよな」
「だな。単に威張っているだけだ」
「そうそう、ジョイが弱いんだよ」
「えっと、その……えっと」
プラシアまで言葉に迷っているよ。
もうかける言葉が無い。本当回りが迷惑を通り越して呆れさえなくて、心配の域に居た。
多分、ソロになった瞬間に死ぬ。そんな未来が見えると、僕は心配になった。
「ジョイ、本当心配だよ」
「うるせぇ。俺は英雄になる、そのためにも勇者に、絶対に勇者にならないと行けねぇんだよ!」
勇者に固執する理由はさておき、ちょっと無理そう。
今のままだと、夢のまた夢な気がする。
ここは可哀そうだけど、面倒だからジョイを倒しちゃう。
そうすればきっと頭も冷えると思うんだ。
「ジョイ、もう終わらせるよ」
「ふざけるなよ。俺はまだ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ジョイは突っ込んできた。
剣を振り上げると、僕に叩き込もうとする。
あぁ、遅い。遅すぎる。そんなんじゃさ……ねぇ?
バン!
僕は引き金を引いた。
羽織ったマントの裏側から、武器を取り出す。
普段は剣の形状を取っているけれど、実は銃に変形出来た。
「ぐはっ!」
ジョイは撃たれた。もちろん僕が撃った。
お腹の辺りを抑えると、痛みで蠢く。
体が震えると、パタリと倒れてしまった。
「ううっ……あっ!」
ジョイは痛みに苦しんでいた。
けれど死んではいないし、怪我もしていない。
何せ極力無害なレーザーゴム弾を選んだんだ。
痛いは痛いけど、僕の知っている勇者達なら、この程度で倒れない。
「じょ、ジョイさん!?」
「ふぅ。僕の勝ちでいいよね?」
僕は銃をホルダーに戻した。
腰の部分に隠すと、マントを使って見えないようにする。
普通に見られちゃったかもしれないけれど、銃を取り出したのも一瞬で、ほとんどの人の目に触れていない筈だ。
「ユイガさん、これって、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だよ。怪我をしている訳じゃないからね。それよりジョイ、約束は守ってね。それから痛みも直に引くと思うから安心していいよ」
通行人を代弁し、プラシアが僕に訊ねた。
残念だけど、大丈夫なんだよね。僕もテーマパークの偽魔王。本気で人を殺したい訳じゃない。
寧ろ客足が減ると、テーマパークの収益が下がる。
バカみたいに無謀な魔王討伐チャレンジはして欲しくない。
何よりうちの評価を下げるような真似にはなって欲しくないから、極力手加減をした。
でも勝っちゃうんだよね……僕が強いのか、それともジョイが弱いのか? 真相は闇の中。
それでもジョイとして見れば、一般人の僕に負けて悔しいのは見え見え。
きっとこれで頭を冷やしてくれる筈。実力不足を痛感する。
真面目に冒険者をやってくれればいい。そんな淡い期待を抱き、肩の荷を下ろした。
「プラシア、行こうか」
「ユイガさん、本当に大丈夫ですか?」
「あはは、大丈夫だよ。あれくらいで死ぬような人間、いないからね。ほら行こう」
そんなことは如何だってよかった。
プラシアに言われなくても、あれくらいで死ぬわけがない。
僕の知る限り、威力も極限まで下げているから、ちょっと痛いだけで、魔物を硬直させる程度。
人間相手に使えば、体が痛くて麻痺する。
今のジョイの状態がまさにそれだ。
しばらくすれば動くようになると思うけど、決闘で負けた癖に余計な難癖を付けられても溜まらないので、そそくさと逃げる。
「えっと、その……すみませんでした。待ってください、ユイガさん!」
プラシアは通行人の人達や、ジョイのパーティーメンバーに頭を下げた。
それから先を歩いている僕に追い付いて来た。
このままの流れで事情聴取を受けてもいいのに。そんなことを思いつつも、プラシアは僕に付いて来ちゃって、とりあえず現場から離れることを選んだ。
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