第28話 決闘を受けてみた
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「よっしゃ、決闘だ……うっ」
立ち上がったジョイは右腕を抑えていた。
完全に折れている。そのせいか、ブラーンとしていた。
この状態で剣を握ることは出来ない。
「なんだよ、腕が折れてんのか?」
「倒れた時に腕を折ったんだよ。どうする、やめる?」
ここで辞めてくれてもいい。
別に決闘を挑んだのはジョイで、ジョイが辞めるってことは、実質的に僕の勝ち。
それくらい分かっているのか、ジョイは痩せ我慢をした。
「うるせぇ。勇者が逃げるかよ!」
「バカだな」
「はっ、なんか言ったか!?」
ジョイは剣を構えていた。
折れた右手で握ると、辛そうに汗を流している。
顔も真っ赤になっていて、既に苦しそうだ。
引き際が分かっていない証拠だ。やっぱりまだまだ新米だと思う。
「ううん、なんでもないよ」
僕は嘘を付いた。首を横に振ると、ジョイは疑いもしない。
ニヤリと笑い自信満々な表情を浮かべるが、尋常じゃない汗の量。
肩も上下に動いていて、限界は目に見えて近い。
「ユイガさん、本当にいいんですか?」
「プラシア、大丈夫そう?」
「は、はい。少し気分が優れませんが」
僕の無意識化の殺意が伝播した。
そのせいか、周囲に居る人達全員に影響を与えてしまったらしい。
気持ち悪いのか吐き気を催し、今も座ったままの通行人の姿が目に付く。
それでも何も覚えていないのには理由がある。
僕が記憶を消したから。ただそれだけの話だ。
おかげで誰も僕が犯人だとは思っていないみたいで、安心して決闘を受けられる。
「休んでいた方がいいよ。僕はジョイと決着を付けるから」
「ユイガさん、気を付けてください。ジョイさんは剣士として、かなり素質がありますよ」
「そうだね。魔王城の床を傷付けた恨み、ここで晴らさせてもらうよ」
結局は絶好の機会だと思った。
ここでジョイを叩きのめせば、魔王城に足を運ばなくなる。
正直、カモにならないから困るんだよね。
テーマパーク的にも美味しくない存在だった。
「決闘の方法は? まさか殺すとか無しだよ」
「する訳がねぇだろ! 一撃与えた方の勝ち。ただし、気絶か降参するかのどっちかだけだ!」
「なるほどね。つまり戦えなくなった方が巻けって訳だ」
簡単なルールだった。だってジョイはもう戦えない。
多分残っている体力は一割もない筈だ。
何せ剣の持ち方が気持ち悪くて、トイレにでも行きたそうに、足をクロスしている。
正直ダサくてダサくて仕方がないけど、可愛そうなので言わないことにした。
「へっ、話が早ぇじゃねぇか!」
「それとこっちからも条件を出すよ」
「なんだ、条件だと?」
この決闘をする旨味が全く無い。
何か条件を提示しないと、ジョイは付け上がる。
そんなの明らかなので、ここはキツく要求した。
「僕が勝ったら、二度と僕の家族の悪口は言わない。後、プラシアをしつこく勧誘したり、無理難題や悪態を突き付けて、評判を落すのも無しだよ」
「つまりどういう意味だよ!」
「大人しくしていてよ。勇者を自称するなら、威張らないでってこと。いいね」
僕の要求はただ一つ。
これ以上迷惑を掛けないで欲しい。
ジョイの言動一つ一つが、周りへの相当な迷惑行為になっていた。
ジョイには非常に酷な要求だった。
つまり勇者のふりが出来なくなるって訳だ。
自称勇者が完全に汚名になってしまうが、何とジョイは了承する。
「はっ、構わねぇよ。俺が勝てばいいだけだからな!」
ジョイは威勢だけはもの凄くよかった。
その点だけは、勇者の素質があった。
でもそれ以外はダメダメ。僕の知っている勇者像とは掛け離れている。
「よし。それじゃあ始めようか……プラシア、開始の合図をして」
「開始の合図ですか!?」
「うん。なんでもいいからさ」
僕はプラシアに審判を頼んだ。
誰かが立会人になってくれないと、後で面倒なことになる。
そんなのは流石にごめんだから、僕はプラシアにお願いすると、困った素振りを見せつつ引き受けてくれる。
「で、では、これを……」
ポケットの中から財布を取り出す。
中から一枚のコインを手にする。
如何やら硬貨が落ちたらスタートらしい。
「それが地面に落ちたら開始だね」
「おう、上等だ。勝つのは俺、負ける気がしねぇぜ!」
とりあえずコインが地面に落ちたらスタートってことになった。
非常に分かりやすくて助かるよ。
僕とジョイはお互いに了承すると、プラシアはコインを放り投げる。
「では、行きます!」
プラシアはコインを宙に投げた。
指で弾く訳でもなく、普通に放り投げる。
凄く高い。全然見えない。僕達は耳を澄ますけど、それじゃあ全然追えない。
「プラシア、高過ぎるよ!」
「全然見えなぇな」
コインが全然落ちて来ない。
って言うか音も聞こえないし、見えもしなかった。
つい視線を飛ばして、お互いに、この場に居る全員がコインの一を確認する。
……三十秒だっても、コインは落ちて来ない。
「……これ、何処かに行っちゃったね」
「おい、プラシア。やるならちゃんとやれ!」
「私はやっていますよ? それにもう……」
「「ん?」」
ここに来て僕の凡人具合が際立つ。
魔王役を演じているだけのほぼ一般人だ。
そんなに視力がいい訳でも、聴力がいい訳でもないんだ。
そのせいか、プラシアには見えているものが、全く追えなかった。
「落ちます!」
急に何かが見えた気がする。
空からキラリと光る何かが、地面に落下する。
コローンと甲高い音を奏でると、僕とジョイは一瞬固まった。
「今のって……コイン?」
「そうなんだよな、だよな!」
「はい、スタートです!」
「「……」」
・・・なんだろう、凄く間が開いた気がする。
絶対にこんなの決闘じゃない。
だってこれだと、「はい、始め!」って言われた方が分かりやすいから。
僕もジョイも同意見だったらしい。
周りも訳が分かっていなかったみたい。
変な空気が流れると、つい声を張り上げてしまう。
「「分かり辛いよ!」だろうがよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
僕はちょっとだけ怒っちゃった。
でもジョイは激昂している。
本当にいつ決闘が始まるのか全然分からなかったけど、如何やら始まっちゃったらしい。
ある程度距離を取って対面していた僕達は、一瞬顔を見合わせると、あまりにもギコちない動きを見せながら戦うことになった。本当、ダサいよねって笑うしかない。
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