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第26話 冒険者に絡まれた件

無視したいけど無視されてくれない!!!

「いいんですか、ユイガさん?」

「いいよいいよ。ああいう、騒がしい冒険者に構っていても、疲れちゃうだけだよ?」


 プラシアはジョイのことをチラチラ見て気にしていた。

 前にパーティーを組んでいたからこそ、ジョイの性格を知っている。


 気に掛けるのも無理はないよね。

 だってジョイにあんな態度を取ったら、きっと怒っちゃう。

 もちろん僕も怒らせる気はなかったんだけど、余計なことに首を突っ込んでも、疲れちゃうだけだ。省エネ省エネ。必要じゃないことに、意識は向けない。


 それに、あの手の冒険者の行動パターンはある程度決まっている。

 ドタドタドタドタ! 背後から足音が聞こえた。

 ほらね。あの手の冒険者は、自分の思い通りにならなかったら許せない。

 だから、無鉄砲にも突っ込んで、難癖を付けに来るんだ。


「おい、待てよ。逃げてんじゃねぇ!」


 ジョイは突っ込んできた。

 しかも物理的に突っ込んできた。

 凄まじい形相で僕の肩を掴むと、グイグイ指を入れる。

 力強い……けど、痛くない? ああ、筋力が足りてない証拠だ。


「ん、なに?」

「なにじゃねぇ! お前、この俺を無視したよな。俺は勇者だぞ、勇者!」

「あー……勇者様? ごめんなさい、無視はしていないんだけど、僕達も急いでいるんだ。それじゃあね」


 ジョイを軽くあしらうことに決めた。

 ここは穏便に穏便に。出来るだけ喧嘩にならないように努める。


 何せここは街中。冒険者ギルドの前だとしても、そのもっと前は大通り。

 たくさん人が行き交っていて、変に目立つと評判に繋がる。


 正直ジョイの評判が幾ら下がろうが如何だっていい。

 大事なのは店の方で、売り上げが減ると悲しい。

 ジョイの勝手な喧嘩腰に付き合っても、僕には全くメリットが無いから、早く切り上げたかった。


「ふざけんなよ。俺は勇者だぞ」

「? みんなそんな風には思ってないみたいだけど」

「なっ! 俺は勇者だ、期待の新星だ! ジョイの名前を覚えておけ」

「覚えるだけでいいの? ジョイね。覚えたよ」

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ああ、安い挑発に引っ掛かるなんて……僕はつくづくジョイを憐れんだ。

 仲間の冒険者達も顔に手を当てて、見ないふりをしている。

 きっと他の冒険者パーティーでも同じようなことをしてきたんだ。

 野心家なのはいい。直情的なのも冒険者らしい。でもさ、一つだけ足りないよ。


「ジョイさん。勇者でしたら、もう少しおおらかに」

「うるせぇ。元はと言えば、プラシアが俺の誘いを断ったのが原因だろ!」

「ですから、それは……」

「俺は勇者だ。勇者の誘いを断る冒険者なんていないだろ? だから俺が一番正しいんだよ」


 ヤ、ヤバい。ヤバすぎる。ジョイの性格が終わってる。

 勇者に憧れている自称勇者なのかなって思ったけど、もっとヤバい奴だった。

 冒険者らしいけど、話聞かない自己中だけど、それで勇者の冠を語るのは、流石に烏滸(おこ)がましいし、迷惑が掛かる。


「はぁ。もういいよ。プラシア、行こう」

「は、はい。ユイガさん」


 溜息を付いてしまった。

 本当は人前で付くのは印象が悪い。

 でもジョイの印象最悪な性格や態度を見た後だと、溜息の一つくらい(かす)んじゃうよね。


「あっ、俺の話を無視するな!」

「無視無視無視……あっ、蒸し焼きに使用かな。後で野菜と肉を買って」

「いいですね、ユイガさん。私もお手伝いしますね」

「あっ、大丈夫だよ。一人で作れるから」


 ジョイの声何て耳に入らないようにした。

 だって耳に入ってもつまらないし、ウザいだけ。

 別に嫌いな奴ってことでも、腹が立つって訳でも無くて、単純に関わり合いになっても面白くないので無視することにした。もう今日の夜、何食べようか考えちゃうよね。


「チッ……なんだよアイツ。部外者が」


 ジョイは悪態を付いていた。

 全然部外者でも構わないし、冒険者になる気もない。

 冒険に行きたいなら勝手に行って欲しい、こっちは冒険者(そっち)が壊したダンジョンの修復で忙しいんだよ。時間無いんだよ!


「俺よりも、あんな部外者の方がいいのか」


 誰と比べているんだろうか?

 僕には分からないんだよね。

 プラシアが僕と一緒に居るのは、“観察”したいだけなんだからさ。


「ふざけんなよぉ。勇者の俺を虚仮にしやがって」


 いやいや、虚仮にしているのはジョイ自身だよ。

 僕の知っている勇者達はみんな性格が違って面白い。

 変って言葉が似合うけど、それが個性だ。


 誰に何を言われても我が物顔で澄ましている。

 虚仮にされたくらいで対応が変わる訳でもない。

 基本的に寛容。我が道を行かないジョイには、勇者(どう)は荷が重い。


「チッ。俺は認めねぇ。絶対に……おい!」


 ジョイが叫んだ。流石に公衆の面前でやめて欲しいな。

 恥ずかし気もないのは、凄く自信家でいいことだと思う。

 だけど声を大にして、僕を呼び止めようとしないで欲しい。


「ユイガさん、呼ばれていますよ?」

「いいよ、勝手にしよう」

「俺と勝負しろ。勇者の俺は、直々に叩き潰してやる!」


 ジョイは凄いことを言ってる。恥ずかしくないのかな? 恥ずかしくないんだろうね。

 仲間の冒険者達が止めようとしている声も聞こえた。

 本当に大変だよ。もうソロで活動した方がいいんじゃないかな?

 当然受ける気は無いんだけど、一言言っておく。


「はっ。勝負だ、部外者」

「……やらないかな」

「はっ? やらない……だと」

「うん。一般人を相手に一方的にボコボコにする勇者がこの世界の何処にいるのかな?」


 僕はあくまでも一般人。冒険者でも何でもない。

 プラシアに勝負を挑むなら止めなかった。けど僕はおかしいでしょ?

 一方的に一般人をボコボコにする勇者なんて、冒険者以前の問題だよ。


「そうですよ、ジョイさん。一般の方を相手にするのは流石にモラルが……」

「うるせぇ、プラシア。元はと言えばお前のせいなんだぞ!」

「責任転嫁だな~。気にしなくてもいいよ、プラシア。行こう」

「ユイガさん……はいっ」


 プラシアがジョイに口を出した。

 一番正しい展開なんだけど、何故かジョイは責任転嫁をする。

 プラシアの責任にされると、勇者の器に値もしない。

 こんなのを相手にする価値は無かった。


「じゃあね、ジョイ」

「あっ、待ちやがれ!」

「待たないよー」


 待つ訳がない。待ってあげる訳がない。

 これ以上の話は無駄だって分かるんだよ。

 僕はプラシアを連れて、ジョイから離れるけれど、ジョイは苛立って、言葉の刃を突き付けた。


「部外者の癖に、お前の家族も全員腰抜けなんだ!」

「はっ!?」


 僕は怒りでブチ切れてしまった。

 心の奥底から腹が立つと、怒りの炎を燃やした。

 流石に言ってはいけないことを言った。訂正を要求する。いや、死んで償って貰う。


「ゆ、ユイガさん?」

「プラシア、ごめんね。ちょっと許せないよ」


 ごめんね、プラシア。正直許せない言葉が出てきちゃった。

 僕は怒りを振り飾ると、笑顔のまま恐怖を生み出す。

 一応持って来た武器に手をかざすと、あるアイテムを嵌めこんだ。


「ジョイ、今言っちゃいけないこと言ったよ?」

「あっ、腰抜けか?」

「そこじゃない。僕の家族を同列にしないでくれるよね」


 もはや命令だった。凄まじい殺気が迸る。

 空気が一変した。空が地面が呼応して、殺意が滲み出る。


「うっぶ、な、なんだ。この……ぶはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ジョイは耐えられなかった。否、全員耐えられなかった。

 口元を抑えたまま、四つん這いになって吐き気を催す。

 実際、ジョイは本当に吐いていた。僕の殺意は、家族でも最強なんだよ。そこだけは最強なんだよ。


「訂正してくれるよね? 訂正してくれるんだよね?」

「や、やめてくれ。やめてくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 泣き叫んだ所で止める気はない。

 寧ろ止めて欲しいなら訂正することだ。

 それしか僕の殺意を止めることは出来ない。死んで償って貰う。

 そう決めると、ジョイは血相を変え、地面に横たわっていた。

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