第25話 冒険者の喧騒
迷惑なことしかしない男、それがジョイ。
ギルド会館は今日も賑わっていた。
早速扉を開けた僕は、プラシアを連れて中に入る。
そう思ったけれど、何やら騒がしくて、僕は直感した。
これ、入らない方がいい雰囲気だよ。
「ざけんな! これは俺達が先に見つけた依頼だ。引っ込んでろ!」
「うるせぇ。新時代の勇者の礎になるんだ。この依頼を受けるのは俺達だ!」
何やら冒険者同士で言い争いをしていた。
如何やらそれぞれ別々のパーティーらしい。
話の流れ的に、同じ依頼を取り合っているみたいだ。
別におかしなことではないし、珍しくも何ともない。
冒険者にとって、割のいい依頼を取れるかどうかは早い者勝ちだ。
特に下位の内は旨味の強い依頼を取れなければ苦労する。
同じ依頼を取り合っているってことは、ほぼ同時に依頼書を取ったに違いない。
先に受付カウンターに持って行った方が、依頼を受ける権利を持つ。
けれど同時に手を伸ばしたせいで、面倒な言い争いに発展したんだ。
「新時代の勇者だ? へっ、魔王にコテンパンにされて、パーティーも解散したお前がよく言うな」
「黙れよ。確かに俺は魔王には負けた。けど俺は勇者だ。こんなことで諦めるかよ」
「はっ。Eランクの癖にか?」
「当たり前だろ。そのために新しいパーティーを作ったんだ」
「なに言ってんだよ、ジョイ。一人ぼっちになったお前を、可愛そうに思った他のパーティーが仲間に入れてくれただけだろうが。実力不足のお荷物がよ!」
「なんだと……もう一度言ってみろ!」
僕はその瞬間、スッと一歩身を退いた。
とりあえずこれは関わり合いにならない方がいい。
何よりも相手が悪いと思い、扉を閉めた。
せっかく冒険者ギルドにやって来た筈が、扉を閉めた僕。
プラシアはキョトンとした顔をしている。
扉を少ししか開けていなかったせいか、中の状況を知っているのは僕だけだ。
「どうしたんですか、ユイガさん? 入らないんですか?」
「うん。今日は止めておこうよ」
「止めておくんですか? なにかありましたね」
「あはは、そうだよ。冒険者同士のいざこざ。正直関わり合いにならないのが身のためだよ」
冒険者同士のいざこざ……まぁ、喧嘩だよね。
関わり合いにならないのが身のためだ。
ギルド会館でも、二つのパーティーの言い争いに巻き込まれないよう、ほとんどの冒険者は無視していた。アレが正解の行動だと、僕は判断する。
「それに、あまり関わり合いになりたくない冒険者がいたからね」
「関わり合いですか? ……もしかして」
「そうだよ、そのもしかして」
プラシアは頭がいい。回転も速いからすぐに閃く。
別に嫌いって訳じゃない。だけど、ちょっとだけ驕りが酷い。
だから関わり合いになりたくない。どうせまた難癖を付けるんだから、見なかったことにするのが吉だ。
「ってことで、買い物にでも行こうか」
「お買い物ですか!」
「うん。冒険者ギルドで情報が収集できなかったからね。それじゃあ……ん?」
僕はプラシアを連れて、買い物に行くことにした。
別にデートでも何でもないよ。普通に暇潰し。
それでもプラシアは喜んでくれた。反応が凄くいい。
扉の前から離れると、早速街に溶けて……なんて、出来なかった。
「よしっ、とっとと依頼を達成するぞ! ……痛っ」
扉の前から離れようとしたタイミングで、後ろの扉が開く。
冒険者が出て来て、何やら威勢がいい。
だけど前を見ていなかったみたいだ。僕の背中に鼻をぶつけて、「痛い」と叫んだ。
「あっ、ごめんなさい」
「痛ててぇ……おい、ごめんなさいじゃねぇ。新時代の勇者の顔に傷が付いたらどうしてくれんだ。ふざけんじゃねぇぞ!」
この声、聞いたことがあるんだけど。
相変わらずって言うか、なんていうか、本当に奢っている。
自分のことを新時代の勇者と呼称するのは構わないけど、それを理由に難癖を付けるのは、もの凄く冒険者全体に悪印象を与えることになる。
「おい、なんとか言え。慰謝料だ、慰謝料」
「まぁまぁ、ジョイ。これくらいいいよ」
「そうだよ。大した怪我じゃないでしょ?」
「一般人相手に切れるなんて、最低」
「なっ!? おい、俺は勇者だぞ。誰だって敬ってチヤホヤするのが当然だろ?」
「「「はいはい、偽者は黙ってて」」」
「おい、俺は偽者じゃねぇ! 絶対に本物の勇者なんだ!」
やっぱりこの声聞いたことがある。
横暴っぷりがまさにそうで、一般人相手に牙を剥く。
そんなんじゃ、本物とか偽者とか関係がない。ただのチンピラ以下だよ。
しかも自分のことを本当に勇者だと思い込んでいる。
想像力が豊かなこと、モチベーションの維持にとっては、凄く大事なこと。
その辺は褒められるけど、態度が悪すぎる。
僕の知っている勇者はそんなこと言わない。
寧ろ謙虚で、自分勝手なことをして、周りを巻き込んだらちゃんと反省する。
当たり前のことができる。本当に“人間”なのが、勇者なのに、チンピラ以下が勇者になるなんて相当難しいよ。
おまけに仲間に諫められている。
完全にお荷物になっている事実が伝わった。
他の三人が優しいからいいけれど、いつか迷惑を被るんじゃないかなって心配になるよ。
「クソがっ、ふざけんなよ」
「ふざけているのは君だよ、ジョイ」
「うるせぇ! おい、今回だけは許してやる。次からは容赦しないぞ!」
本当に一般人相手に喧嘩腰はよくない。
僕は人間性を疑っちゃった。
これで勇者を自称するなんて、あり得ないよ。絶対破滅する。
「いや、容赦って……」
「ん? なんだ、文句でもあるのか?」
「ううん、ないよ。ありがとう、新時代の勇者様。それじゃあ僕達は行くね、頑張って来てね、依頼達成」
僕は気にしていない。怒る気も湧かない。
ここで下手に騒ぎを起こしたら、他の三人に迷惑が掛かる。
ましてや相手をするのも億劫なので、ここは穏便に解決する。
淡々と謝ると、僕はその場を後にする。
幸いプラシアの顔は見られていないみたいで安心。
速やかに退散することを決めると、プラシアとアイコンタクトでやり取りし、冒険者ギルドから……
「お、おい待てよ。お前、プラシアだろ!」
「はい?」
「やっぱそうだ。丁度いい、プラシア一緒に来てくれ。これからダンジョンに行くんだ、いいだろ? 俺は勇者なんだぜ!」
面倒なことになった。まさか絡まれてしまうなんて。
プラシアはキョトンとした顔をしている。ダンジョンに行く気なんて更々ない。
ペコリと頭を下げると、丁重に断る。
「すみません、ジョイさん。私は冒険者に復帰する気はないので、パーティーには参加致しません」
「はっ、なんだよ、それ」
「ですので、新しいパーティーの皆さんと頑張ってくださいね。それじゃあ行きましょうか、ユイガさん」
前パーティーのよしみ。その言葉の意味を本当に知っているのだろうか?
ファメラとウルーム。それからプラシア。三人のおかげで成り上がった。
それこそが新時代の勇者を語るジョイの正体で、今回もプラシアを巻き込もうとする。
けれどプラシアもその手には乗らない。
優先順位を決め、丁重にジョイの誘いを断る。
呆然と立ち尽くし、愕然とした表情を浮かべていたけれど、気にも留めなかった。
「お、おい、待てよ。おい!」
ジョイは叫んでいた。だけど聞く耳を持たない。
ここで応じたら、きっと面倒なことになる。
そう確信すると、僕とプラシアはいち早く冒険者ギルドの前から立ち去った。
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