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隻腕の女神  作者: りむ
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夕方

ミームの世話が終わりマーティと馬小屋を出ると家からラビと1人の老人が出てきた。


「おじいちゃん、ラビ。ただいま。ミームは連れ戻せれたけど足を怪我しちゃって…暫くはミームを連れて畑を耕すのは難しいかも」

「おぉ、パドマ。帰ったか。そうか仕方がない。ミームがダメならワシらで耕そう。まだ種を蒔くのに日にちはある。」

「ミームの世話はぼくが暫くみてるよ!」

ラビはそう言ってミームを見に行った。


齢80になるかほどのおじいちゃんは、私を育ててくれた人だ。とても温厚で優しい。だが、高齢で畑作業は最近辛そうだ。

私の家はおじいちゃんとラビと私の3人で暮らしている。ラビの両親であり、私を拾ってくれたお父さんとお母さんはもう何年も帰ってきていない。


細々と3人で手を取り合い農作業を行なっている。

ミームの他に馬はもう一頭いてミームを産んだ母馬だ。だが、今は子がお腹に宿っているため農作業に出せない。老人と子供2人と馬二頭。

私の大事な家族である。


「マーティ様、孫をまた助けていただいたようでありがとうございます。向こうみずな所がありまたご迷惑を…」

「大丈夫だ。気にするな。パドマが向かうみずなのは子供の頃からだから慣れている。」


「おじいちゃんもマーティもちょっと言い過ぎだよ!!確かに落ち着きは無いかもだけど最近は多少マシになってきてるよ!」

「ふぉふぉふぉ…マシになってる気は全然せんぞぉ。最近もミームに乗ってラビと共に馬耕の最高速度を競っておったのに。そのせいで畑の土はぐちゃぐちゃになったのぅ」

「そ、それは…」

おじいちゃんは声は優しいが目の奥が笑っていなかった。


チリンチリン…


村の広場の方から鈴の音が響き、私達の所まで聞こえる。

「明日は奉納祭か。何人帰ってくるか…」


おじいちゃんはその音を聞いて遠くを見るような目をした。

「お前達も今夜は祭りだ。楽しんできなさい。」

「私達が行っても楽しくないよ」

「狭量なもの達の事はほっときなさい。我々も同じようにそ奴らを無視すればいい。お前達は何も悪くないのだから。」


そう言っておじいちゃんは家に戻っていった。

奉納祭はお父さん達が帰ってくると約束していた日。

私達3人にとって毎年辛いことを思い出す。


ラビに声を掛けようと馬小屋に入るとミームにくっついて寝ていた。涙を流しながら…

そっと毛布をかけた。

「祭りは行かなくていいだろう。パドマ、いい所見つけたんだ。行こう。」

そう言ってマーティに手を引かれて歩いた。


村の農道を子供達が鈴をもって鳴らして平場に向かう。広場には村人達が集まり歓声を上げていた。

彼らが待っていたのは、村から選ばれた若者達が旅から帰ってきた。


世界には20の空に浮かぶ島がある。そのうちの半数ほどは生物として活動している島となりその上で私達は生活していた。島の面積はそれぞれ違い、この村は小規模ながら農耕で成り立っていた。


島が生きているので食糧、エネルギーを与えねばいつか死に島は崩れ落ちてしまう。そのエネルギーとなるのが、魔物の体内から生成されている不思議な石、私達はヴァジュラと呼んでいる。

生まれてまもない魔物などは持っておらず、高確率で保有しているのは地上の魔物、ナラクの地にいる魔物となる。


ヴァジュラを取りに降り一年に一度村に帰り島に捧げる。どの村や街でも行われており、私達はその繰り返しで歴史を作ってきた。


お父さん達が帰ってこなくなったのは、もしかしたらナラクの地で死んでしまったのかもしれない。村の代表者として旅立って8年になる。

過酷な旅になるので毎年全員で戻ってこない年もある。

村の代表者に選ばれるものはみなそれぞれ能力があったり、戦闘に強い者。5年程で引退になり引退した者は家庭を持つ。お父さん達が行った年は途中で代表者が死んでしまい、急遽選ばれた。


過去にナラクに行っているからと選ばれた。その年は村の食糧が全然取れず捧げていたヴァジュラが少なかったからだ。やむを得ないんだ、と言って私の頭を撫でた大きな手と私を抱きしめるお母さんの温もり。


朝方の雨の中、一歳半のラビを抱っこしてお父さんとお母さんを見送ったあの光景は忘れられない。


鈴の音を聞いていたら過去の記憶を思い返してしまった。歓声を上げている村人達の後ろを私達は通り過ぎようとした。



「パドマ!」


1人の青年に呼び止められた。そちらを見ると人だかりの中心からかき分けて寄ってきた。


「ネトラ…」

美しい金髪と碧眼の彼は一心に私を見つめてきた。

ネトラはもう1人の私の幼馴染。そしてこの村の人族の村長の息子である。村の代表者としてナラクに行くメンバーになっていた。


「迎えに来てくれたのか?」

ネトラは嬉しそうにその整った顔で微笑んだ。だが、隣にマーティの姿を見つけると怒気のはらんだ顔に変わった。


「まだこいつと一緒にいるのか。」

「……」

ネトラの碧眼の瞳が氷のように冷たくなった。

マーティもネトラを睨む。

そして、周りの村人達も誰もが口を閉じ静かになった。

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