昼
マーティに言われ、ミームの様子を見ると骨は大丈夫だったが、打撲していた。これ以上動くと悪化する恐れがあった。
「まずいな。山を降りるにもこれじゃあミームの脚が持たない。」
「まっかせて!!私の力を使えば大丈夫!って、あ…手が壊れてたんだった」
「本当だ。無理をしたからな。見せてみろ。応急処置くらいならなんとかなる。」
そう言ってマーティは自分の鞄から様々な道具とネジやパーツを出して手際よく作業をしていく。
本来であればこの程度では壊れないのだが、たまに力の限界値を超えるとパーツの耐久が耐えられずこうなる事がある。
そしてこの義手の素材は特殊な素材で出来ているのと専門の知識がないと直せないがマーティの努力のお陰で私はまだ動かしていけている。
子供の頃の事故は村に突然現れた魔物にマーティが襲われそうになった時に咄嗟に私が庇いその魔物に腕をやられてしまった。
マーティは自分のせいで私を傷つけてしまったと思っている。その罪滅ぼしとしてこの義手をメンテナンスしてくれている。
獣人は人族ほど手先が器用ではない。けどマーティは人族の専門鍛治職人よりも技術があるように見えた。
ひとえに懺悔の気持ちからここまでなったのだろう。
「よし。これで動かせるはずだ。あくまでも応急処置だからまた限界まで力を使うなよ」
その場でグーパーしてみた所きちんと動く。
「ありがとう!よーし!ミーム!少しの間大人しくしててね!」
義手の力を使いミームを持ち上げた。最初はミームも驚いて鳴き声を上げていたが、草食動物の本能?で大人しくなってくれた。
普段私はこの義手のお陰で家の力仕事は私が対応している。人の力の限界以上の力をだせるのはありがたい。
村の道まで戻ってきた時通り過ぎる村人達はヒソヒソと陰口を言っている。
この村の人達は私がただ弱いだけでは無いことはわかっている。けど赤い目は不吉だと言われている。
またこの辺りの人間達や他の場所からやってくるもの達はみな鮮やかな配色の髪色をしている。赤や青など様々だ。
だが私のような白い髪はいない。
そして、マーティの黒い髪もいない。何者にも染まらない漆黒の髪はとても美しく見える。
マーティと私はこの村では異物だと感じる時がある。
けどマーティは捨て子ではなく立派な家に住んでいる。この村の獣人族の長の家だ。
シンハサン村は小麦の栽培が盛んで有名だ。小麦は主食であるパンを作れるから流通の上で強い。この世界では、食料は豊富にはなくどこも枯渇している。
そのためマーティの父は村だけでなくこの辺り一帯の影響力を持つ。
その息子となればマーティもそれなりに畏怖される存在となる。
でも…
「ヴリカのとこの息子だ。一緒にいるのは忌み子か…おっかねぇ2人だ。」
人族がコソコソと話し獣人は見てみぬふりをする。
「マーティ、私と居ない方がいいよ。ミームを戻したら帰った方が…」
「俺は好きでお前といる。誰に何を言われようと俺が関わる人間は俺が決める。だからパドマも気にするな」
キッパリと言ってマーティはまっすぐ前を見ていた。
マーティは強い。凛とした姿はその小さい体であっても存在を大きく見せた。
その姿をみて私は尊敬の気持ちと周りの目を気にする愚かな自分を恥じた。
無事自宅に戻りミームを小屋に下ろした。
干し草を集めてきてミームの寝床をより柔らかくし足の治療を行なった。
気づいたら朝から昼になっていた。