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沈む黄昏  作者: 三ッ井乃
5/6

5 寂寥

異世界にて国の宝と称される一流の刀工が打ち出した短刀。

その行き先、葬儀の場に居合わせた人々の一番の関心事のようだった。


真紅のアラクネシルクのテーブルクロスの上に長持の中身が一つ、また一つと取り出されて並べられ

シランゼリシェ侯爵に訪われて進み出たのは王妃付きの異世界人の護衛騎士伯クラウド ツチヤ。


「僭越ながら私、クラウド ツチヤが故ショーン デ リヴィエール シランゼリシェ侯爵母公より

生前から御遺物についての相談を受けておりました御縁にて形見分けを託されましたので進めさせて頂きます」


ツチヤ卿が以前より預かっていたという、形見分けとして持ち物の行き先を(したた)めた

エンディングノートを取り出すと、教会より派遣された鑑定官がノートに記載された文字の残存魔力にて

本人直筆の当人の意思によって記載された直筆との判定を下したので記載通りの分配が認可された。


「此方の純金真田幸村立像、24金六連銭ネックレスを王立魔術研究塔へ寄贈。

これは貴金属としての価値より地金、地球産ゴールドが此方の金に較べて魔力の親和性が高い

貴重な魔導材料として活用されたし、との事です。

次にプラチナ製『マフィアン ファイター』ファミリーリング10連、『ラスト・ファンタジー』勇者の銀盾と

『ヴァンパイアショット』の純銀の弾丸1ダースも同じく貴金属としての価値より

地球産プラチナ、シルバーとしての価値があるので冒険者ギルドの方で有効活用して欲しいそうです」


地球産シルバーは魔法耐性の高い防具の素材として、プラチナは魔道具の触媒としてどちらも最高の物だ。

そのプラチナと銀を用いて高性能防具を作成、モンスタースタンピートの際に前線に立つ冒険者に

貸与する等、有事の際に活用して欲しいとの事だ。


「そして此方の腕時計、小型の時間計測計は5本。

2本は王家に献上、2本はリヴィエール本家に納め、1本はシランゼリシェ侯爵家所有とします。

翡翠、瑪瑙、螺鈿細工の帯留という広帯(サッシュ)飾りとブローチ。

母君の祖母様の形見という鼈甲の櫛、笄に珊瑚2本と翡翠の簪7本と

揃いの蒔絵の櫛と笄はシランゼリシェ侯爵夫人所有とします。

それと、母君の御実家手塚家よりショーン様こと恵美子嬢への入輿の持参品として支度された

白珠もシランゼリシェ侯爵家所有とし、運用に関してはリヴィエール本家と相談の上活用なさりますよう」


ここで書かれた白珠とは真珠の事、元々は恵美子が日本に居た時の結婚の際に

両親が誂えた真珠のアクセサリーだった物。

此方では真珠はかなり稀少な宝石で、王冠や宝冠の飾りに何粒か使われれば凄いという世界で

真珠だけを連ねたネックレスなんて大国の王妃ですら持ち得ない物凄く贅沢が過ぎる品だったが故に、

糸を切り台座から外しバラした183粒の内50粒は王家に献上し、33粒はリヴィエールの一族の夫人へ。

10粒はリヴィエール本家へお納め、その内3粒は辺境伯夫人の装飾品として

ブローチとイヤリングに仕立て、残り25粒は故人の手元に置いていた。

その25粒の所有を大々的に明かせば問題になるのが目に見えている為の言い回しだ。


そして完全受注生産のプレミアムトイの月王国のセーラー服戦士の変身コンパクトは少し大きく

コンパクト型のジュエリーボックスで、18金に様々なジュエリー嵌め込んだ

お値段が当時240万というかなり気合の入った推しグッズだ。


「此方の『セーラーソルジャー』コンパクトと、輸送艦『御嶽』『雷電』の所有権、運用権共に

ベンツの鍵は王太后様へと献上致します。

此方の鍵は輸送艦『御嶽』『雷電』の起動キーとなっておりますので

国難に際しお役立て下さる事をお願いしますと、王太后様宛ての遺言書も御座います」


ツチヤ騎士伯がシルバートレイに紫のアラクネシルクの帛紗を敷いて

コンパクトと鍵、遺言書を並べるとそれを列席していた王太后の前へと厳かに運んだ。


「王太后様、此方のコンパクトの蓋を開けて中のサファイアのボタンを押して頂けませんでしょうか」


生前頼まれていた事柄を遂行しようとツチヤ騎士伯はトレイを捧げれば、王太后側付きの女官が

トレイの上のコンパクトを受け取って王太后様へとお渡しします。

そうして王太后様は言われるがまま、コンパクトを開きボタンを押せば内蔵されたギミックが動き出し

仕込まれたLEDがジュエリーを尚一層輝かせ、在りし日の故人の声が響いた。


王太后サフィールの故国マムクールの古い詩の一節と一言、最期の別れの言葉。

それは日本語でありながら胸にストンと落ちるように不思議と意味が通じた。

参列者の前でキラキラとジュエリーに弾けた光が様々な色を纏って放たれながら

故人の別れの声が聖堂に響き、その不思議さに人々の度肝を抜いた。


王太后サフィールはキリアラナ王国の王妃であったが、故国マムクールとの諍いと

紛争により王妃の座から退いて久しい。

退位と故国の敗北により彼女の立場を一部、軽んずる向きもあったがこの遺言により

リヴィエールの誇る魔導戦艦の内2機を保有、運用出来る立場となってサフィールを

敗戦国の王女、王妃の座から陥落した女と軽く見ていた軍部の人間はホゾを噛む思いで見ていた。

王太后サフィールに2機を譲られたならば、王家に権利を移譲したと同義だから異議を唱えるのも難しい。


異世界からやって来たギフトという膨大な魔力と戦闘力を持って、魔導戦艦という空飛ぶ武器のアイディアと

設計施工、資金と資材調達もほぼほぼ一人で熟して実現させてしまった

ショーン亡き今、辺境伯を拝命しているリヴィエールは兎も角、イチ侯爵家には過分な武器ではないかと

理屈をつけ、シランゼリシェ侯爵家が所有する戦艦を軍部へ巻き上げようと算段していた面々は

肩透かしを食らった形となる。


そして取らぬ狸の皮算用となった一部の人間はサフィールが王妃だった頃から

ショーンに目を掛け贔屓していた関係から、権力を失ったサフィールへの憐れみから

遺物を譲ったのだと下衆の勘繰りで邪推したのだがそれは違う。

一国の王妃と一貴族家の猶子で、しがない子爵夫人。

立場が違い、互いに守るものもあれば信念もあればこそ、何でも明け透けに語らい心許し合えるような

友人には成り得ないが、それでも通じるものがあり其々がその立場と責任に誇りを持ち

キリアラナ王国の安寧の一助として戦う気概と矜持を認め合うからこそ

王妃としてサフィールの器を認め、信頼したからこそ国家防衛と安全を願い託した遺言なのは

直接の言葉で無くとも王太后サフィールに伝わったのだ。

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