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接客態度

作者: 雉白書屋

 深夜、客の数が疎らになったファミレスにひとりで入店した彼は、席に座って手を挙げた。


「……すみませーん」


『……』


「あの、すみません、あの」


『……チッ。なんだよ』


「え、なんだよ? なんだよ?」


『はははっ、おめーが繰り返すのかよ』


「はぁ!?」


「あ、あ、お客様どうなさいましたか!」


「え、ああ、あなた、店長さんですね。こちらの店員さんの接客態度はどういうことですか?」


「いやぁ、それがその……ちょっと君、どうしてホールにいるんだよっ。奥にいるように言っておいたじゃないか!」

『っす』


「あのー、確認なんですけど、そちらの店員さんはアンドロイドですよね」


「……ええ、見てのとおり、彼はアンドロイドです。実は、本社のほうが近年、ロボット事業に力を入れておりまして、それで系列グループであるこのファミレスにも導入することになったのですが……。ははは、いやぁ、お恥ずかしながら私、見てのとおり、ほら、おじさんじゃないですか。だから、どうもこういった機械の扱いは苦手でして」

『人を機械扱いすんじゃねえよ!』


「ちょ、今蹴られましたけど、大丈夫ですか!?」


「ええ、うぅ……えっと、それで最初のうちは素直に働いてくれていたんですけど、搭載されている人工知能が、いろいろ学習するらしいんですよね。それで、その結果、こんなのになってしまいました……」

『こんなのってなんだよ! 舐めてんじゃねーぞ!』


「ああ、また蹴られて……」


「お、お気になさらずに、注文は私が承りますので、どうぞ……」


「そうですか……じゃあ、アイスコーヒーをひとつ」


「はい、アイスコーヒーをおひとつ」

『これひとつで何時間も粘るんじゃねーだろうなぁ、貧乏人がよぉ。こちとら慈善事業でやってんじゃねーんだぞ』


「えっと、以上で……」


「かしこまりました」

『これひとつかい! まあ、ママ友連中の集まりはマシだけどな! ただ、目障りだから飲んだらとっとと帰れよ』


「いや、口が悪すぎないですか?」


「大変申し訳ございません!」

『だりぃな、こいつ、クレーマーかよ』


「お客様に大変不快な思いをさせてしまい!」

『お客様は神様っていうのは、店側が言うやつだって、こいつまだわかってねーんじゃねえの?』


「彼にはあとでしっかり言っておきますので!」

『自惚れるなよ、このチンパンジーが!』


「いや、もう言って聞くレベルじゃないでしょ!」


「申し訳ございません! ……ただ、お客様に限らず、どのお客様にもこの態度ですので、これはもう正直仕方がないかと……」


「いや、仕方がないって、それじゃ困るでしょ……」


「ええ、ですのでスタッフルームにいるよう言っているのですが、それでは、試験運用にならないと本人が言うもので」


「まあ、それはまっとうな言い分ですね」


「仕事熱心な子なんです。ですので、ここは何卒……」

『どうせ今日しか来ねーんだろ? 我慢しろよ』


「悪態が隠れることを知らないんですけど……」


「ええ、でも本社の方がお見えになる際は、ちゃんとするよう約束をしているんです」

『おめーみてえな貧乏客と違ってな!』


「いや、こっちは知りませんよ! 普通のお客さんにも、ちゃんと接客するように言い聞かせるのがあなたの仕事でしょう!」


「ええ、それはもうおっしゃるとおりでございます!」

『うるせえなぁ、お前ごときが一丁前に説教してんじゃねえぞ!』


「まあ、わかっているならいいですけど……」


「はい。店長として、このあとビシッと言いますので!」

『本社の連中がよぉ、給料増やさねえくせに、余計な仕事は増やしやがってよ!』


「いや、もうあなたの本音を代弁しているみたいじゃないですか……」


「いやいや、とんでもございません!」

『早く帰れ! アホ! ボケ! 二度と来るな!』


「はぁ……あのー、僕なんですよ」


「はい……?」

『は?』


「僕が、その本社から来た人間なんですよ。はい、これ名刺。各店舗でのアンドロイドの仕事ぶりをチェックしているんですけど、この店のクレームがやたら届くので来てみれば、この有り様で……。あの、やっぱりあなたが裏でお客さんの愚痴とかをアンドロイドに聞かせて――」


「んもぉ、それならそうと最初から言ってくださいよぉ。やだなぁ。アイスコーヒーのほうを大盛りにサビースさせていただきますねぇ、あぁ、一緒にケーキか何かお持ちしましょうかぁ?」

『ほーんとぉ、意地悪なオ・ト・コ。ねえ、お隣いいかしらぁ? あら、意外と筋肉があるのねえ』


「いや、何を学習させていたんだよ!」

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