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冬と夜と校庭と包丁の物語

作者: まぐね

第一話。

冬の夜の校庭。

確か7時位だった気がする。

姉のおさがりの女物のコートを着て、一心不乱に野球ボールを投げている。

野球部をやめた僕は土日が退屈だった。

勉強するにも身が入らず、毎日が冴えない。

成績は下がる一方だし、このままじゃ高校受験が危ない。

悩むと壁当てする癖は当分直らないかもしれないなぁ。

野球やらないのにね。


夜の校庭は好きだ、誰もいないし音もしない、一人って感じ。

いや、ボールと壁がぶつかる音があったな。

これが響く音もまた良い、なんか校庭を占領してる気持ちになれる。

と、感傷に浸っていると、門の開く音がした。

見ると、少し遠くて見えないが、女の子…それも同年代かな、

位の人が入ってきた。

僕は知り合いと会うのはあまり喜ばしくない。

だから、こういう時はさっさと帰るのだが、もうちょっと投げたかったからやめておいた。


何分か過ぎたな。


「…さて、どうしようか。」


いや、別に僕がどうこうするって問題じゃないか。

でもちょっと困るんだよなぁ。

ん、何が困るって?

さっきの女の子がこっち見てるんだよ。

ちらっと見た所、どうも知り合いでは無い。

まぁ、話し掛ける様子もないし、かといってどっか行くって感じでもないなぁ。

ただ見てるだけ、って雰囲気だな。

あのバッグから包丁が出てきて殺されるんじゃないかと妄想を膨らませて失笑した。

次に告白されるのではないかと思ってしまった。

いやだってこの状況ってその可能性もある訳じゃない?

ちょっとドキドキしたが、そんな様子は無いので後悔した。


まぁいいかと思い、出来もしないフォークを投げ大暴投しつくずく自分は馬鹿だなと思いつつ

ボールを取りに行こうとした所どうも脇腹に違和感が。

なんだろう、何か冷たい物が刺さっていて周りが生暖かい…

あれ?刺さってる?


突然激痛が走り膝を着いてしまった。

両手で脇腹を探ると、なるほど生暖かい…じゃなくてっ!

何とか刺さっている物を探り当てるとすぐに引き抜いた。

めちゃくちゃ痛いんですけど。

手を見ると赤い液状の物がべっとり着いていた。


うわぁぁぁぁぁぁあああどうしよう。

考えろ考えろ、今何するべきだ?

血…そうだ血止めないと!

コートの下に着てるセーターをすかさず脱いで、脇腹に巻いた。

コレで少しは…うわっ、セーター赤!

あー何か浮いた感じがする。体から血が抜けた感じ。

死ぬんだな、これから。

どうしよう。

そうだ、そこに女の子がいたな。

と思い横を見た所近くに

無謀にも質問してみた、自分でも何聞いてるんだか、と思ったがまぁ仕方あるまい。

まぁ分かるとは思うが何故無謀かと思ったかは、彼女が僕を刺しただろうからだ。


「すみません、紙とペンあります?」


何を言い出すんだと言われても仕方ないが一応真面目だ。


「え?」

「家族とか友達とかに手紙書きたいんだ。」

「あ…はい…。」


応じてくれた。

僕が彼女だったらすぐ逃げている所だ。

彼女は鞄から、女の子が持ってそうなピンクの筆箱を取り出し

その中から手帳とシャーペンを手渡した。

彼女の手つきは壊れかけのロボットを思わせた。


「病院とか警察には行かないの…?」

「そうだなぁ、もう手遅れって感じがする。」

「怖くないの?」

「そんなに怖くないなぁ、生きるって事にあんまり関心が無いからかな。」


めちゃくちゃ痛いんですけどね。

補足すると、僕は静かに眠るように死にたいと強く思っていた。

無駄に足掻いて必死に生きようとする程僕の命に重みは感じなかった。

無駄に足掻くと言うのは、急いで救急車を呼ぶとかそう言うのだ。

刺されたら、僕は椅子に座って頬杖をついて目を閉じて死ぬであろう。

まぁ、僕の理想の死に方は、

小さくて薄暗い誰も来ないような公園で眠るように死ぬ事だったのだけれども。

んーどうしようかなぁ。


「あー、そうだな。そこに座って話さない?」


ちょっと歩いた先の木のベンチを指さして言った。


「え…。」

「手紙、ここじゃ書けないでしょ?」


彼女は戸惑っていたが、無視して僕はベンチに向かって歩いた。

そうか、これを千鳥足と言うのか。

体の自由が半分奪われた感じだ。


何とかして座ると、彼女は遅れて来て、近くに立った。

まぁそりゃね、見ず知らずの男の隣になんて座りたくないでしょ。


「えっとー…名前は?」

「…穗純遥(ほずみはるか)。」

「いい名前だなぁ。」

「貴方は?」

「僕?僕は萩原健介(はぎわらけんすけ)。」

「萩原…。」

「ん?誰かと同じ名前だった?」

「いや…。」

「んー、別に話してくれなくてもいいんだけどさ、俺これから死ぬんだぜ?

 何話してもいいと思うんだけどなぁ。」

「何でもないって…。」

「そう?ならいいんだけど。」

「……」

「……」


駄目だ、会話が続かない。

考えるのが辛くなってきた。

まぁ、血が抜けたからかもしれない。


「…あぁ、そうだ、何で殺そうと思ったの?」

「・・・・・・」

「あぁ、いや、言わなくてもいいんだけどさ。」

「・・・・・・」


酷な事聞いたなぁ…

まぁ、何かしら理由があるんだろう。


「・・・・・かったの。」

「へ?」

「辛かったのよ、私が私として生きるのが。」

「はぁ。」

「私で無くなる方法がこれ位しかなかったの…。」

「ふむ。」

「……」

「……」


いや、分からないってばよ。


「…えーっと、誰かに『刺したら許す』とか言われたの?」

「…違う。」


そりゃそうか。


「じゃぁ…あれか、殺したらMPが回復するとか。」

「違う。」


そうだろうな。


「じゃあ、何?」


ネタが尽きた。


「…私が私で無くなりたかった。」

「んー…つまり、自分を変えたくて、変える方法がこれしかなかったと。」

「そう。」

「何で変えたかったの?…あぁ、辛かったからか。

 何が辛かったの?」

「…周りの目が辛かった。」

「何で?」

「私の実力が過大評価されたの。

 本当は全然出来ないのに、『やれば出来る、諦めるな』って…。」

「へぇ…。」

「だから、誰かを殺してしまったら、

 お父さんもお母さんも私が出来ない子だって分かると思ったの…。」


ふむ。


「んー、過大評価ならさ、いいんじゃないの?

 それだけ信頼されるのは、僕としては羨ましいよ。

 僕なんて、両親から見放されたからねぇ。

 きっと、君の両親は君が心配なんだよ。」

「でも…。」

「出来ない出来ないっていってるから出来ないんじゃない?

 やろうとしなきゃ出来る物も出来ないよ。」

「……」

「君の両親は、どんな仕事してるの?」

「…大学の講師。」

「へ?どっちが?」

「両方。」

「どこの学校出てるの?」

「えっと…N大学。」

「まじか。」


N大って言ったら、進学校中の進学校じゃないか。


「両方?」

「両方。」

「まじか。」


あーそうかだからか。


「成績は優秀だけど、もっと上を目指しなさいって事?」

「…優秀じゃない。」

「えーっと、最近のテスト、…二学期の学期末かな?のテスト何点満点中何点?」

「850点満点中813点。」

「うへぇ…。」

「貴方は?」

「忘れたよ、だけど君の合計点を2で割っても届かないって事は分かる。」

「ふぅん…。」


すっげぇ。


「そのテストで何て言われたの?」

「『あと20点欲しいわね。』って言われた。」

「本当ですかい。」

「本当。」

「そりゃあキツイだろうなぁ…。」


俺だったら逃げてる。


「辛かった、毎日が勉強で、遊ぶ時間も無い。

 唯一の時間が食事と塾に行くまでの電車。」

「その他は全部勉強?」

「うん…。」


苦痛だろうな…


「それだけなら良かった、でも、

 友達が出来ずにただ独りで問題を解くだけの機械にだけはなりたくなかった。」

「……」


他の解決策もあっただろうに、と言いたかった。

けど、僕が彼女だったらそんな余裕は無い事は断言出来る。


「んー、穂純は学校に友達はいるの?」

「…皆、私が頭良いのを妬むの。」

「まじか。」

「いじめられた、特に体育の時間は。」

「体育出来ないのか。」

「…うん。」


たしかにそんな感じだな。

僕の学校にもいるなぁ、授業中は成績がいい奴に頭が上がらないけど、

体育になるとここぞとばかりに言ってくる奴。


「私から話し掛けるの、怖くて…。」


そりゃそうだろうな。


「…じゃあさ、僕が生き残ったら、友達になるよ。」

「…へ?」

「んー、そうだな、友達になるって言ってなるもんじゃないよな。

 でもまぁ、気にするな。」

「でも…。」

「僕は、恐らく今僕が死んでも誰も悲しまないと思ってる。

 だけどさ、ここで死ぬのは、やっぱり人の為にならない気がする。」


僕以外の、他の誰かの。


「ここで生きて、未来で誰かの為に生きてたら、その人に申し訳無い気がしてきた。」

「…どう言う事?」

「えーっと、ここで死んだら、死ななかった時に僕が誰かの…んー…例えば、

 誰かの相談相手になったりとか友達になったりとかしたら、

 その相談しに来た人とか友達になる人に申し訳無い、って事。」


難しくしたかも。


「分かった?」

「…うん、分かった。」


難しくしてなかったか。良かった。


「それは、君にも言える事だと思うよ。

 …いや、寧ろ僕より君の方が当てはまるね。」

「何で?」

「ここで刺したのがばれて、刑務所行きとかになったら、君の両親が悲しむと思うな。

 両親だけじゃない、君の学校の先生とか、クラスメイトとか。

 僕が生きた場合よりも、君が捕まらなかった場合の方が、君を頼る人が多くなる気がする。

 って言うか、君が刺した事を無かった事にする為に、僕は生きようと思う。」

「え…。」

「僕が生きたら、どうとでも言い訳が出来るだろう?

 僕が生きる事で、君が助かるじゃないか。

 今まで僕にはそう言う人がいなかったからさ、何時でも死ぬ覚悟はあった。

 でも、僕が生きる事で君が助かるのなら、生きようじゃないの。」


ちとくさいか。

自分でもよくこんな台詞を言えたなと感心する。


「そんで、君が生きる為に、僕は生きる。

 君が死んだり、いなくなったら悲しいと言えるような友達になろうじゃない。

 まぁ、友達になりたくないって言われたらあれだけど。」

「…その台詞恥ずかしくないの?」


彼女は笑みを浮かべてそう言った。

…正論だな。


「ちょっと恥ずかしかったり。」

「…いいよ、これから友達ね。」

「む、良かったのか。」


さて、病院に行きましょうかね、と言おうとした所で頭が内側から叩かれる感覚がした。

彼女の戸惑いと不安が入り交じった声が聞こえる。

あぁ…景色が遠のく…。



ここは何処だろう。


真っ暗だ。


腕を上げようとしたが上げる腕が無い。


何も聞こえない。


声を出そうにも呼吸しているかどうかすら分からない。


あぁ…そうか…。


僕は死んだのか…


音も感触も色も無い、ただ真っ黒な世界が続く。


そうだな、言っておきたい事があった。


さようなら、それから、ごめんな。


僕は暗黒に身を委ねた。

後書き。


はい、第一作目で御座います。

ご閲覧いただき、誠にありがとうございますそしてごめんなさい。

いかがだったでしょうか。

っつっても読んでくれる人がいるかどうかも微妙ですが。


終わったばかりでなんですが、なんとこの話、続きがあるんです。

ちょっと休みたいのですが、続きを書き終わるまで頑張りたいと思います。

ちょっとネタバレすると、彼女視点でこの話を作ろうと思いまして。

萩原が死んで、穂純はどうなったのか。

萩原の過去、などを書きたいなぁと。

表記上は一話となってますけど、二話から読んで次一話、って読んでもまた違ったお話になるんじゃないでしょうか!

って感じになれば、当初の目的を達成出来るのですが。

難しいです。

一話で穂純の過去などをもちっと具体的に書こうと思いましたが、結局書けず。

二話のハードルを上げすぎました。


まぁ、前記の通り第一作目ですので、至らない表記や、馬鹿な間違いなどが

多々あると思います。

それから、ここはこうして欲しい、これは無理があるなどがありましたら、

是非、んー…評価?いや、感想?…どっちでもいいや、の所に書いて下され。

万が一、感想がありましたら、泣いて喜びます。

そんでもって万が一リクエストがありましたら、書かせて貰おうと思います。


では、長々とすみませんでした!

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