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光の聖女は闇属性の王弟殿下と逃亡しました。  作者: 屋月 トム伽


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ブラックローズの蕾


目が覚めれば、ヴェイグ様はいなくて外も暗くなっていた。

部屋を出れば、邸に灯りが燈っており、シオンたちもすでにブリンガーの邸から到着したのだろうとわかる。


そして、玄関ではリリノア様がシオンに詰め寄っていた。


「リリノア様。シオン。お帰りになったのですね。ヴェイグ様は?」

「ええ、まぁ……ヴェイグ様は、もうすぐでお戻りになられると思いますので……晩餐には、間に合うかと」


リリノア様に疲れたのか、シオンはぐったりとしている表情だ。


「セレスティア様!」

「はい」

「どうして先にお帰りになるのですか!」

「それは、ヴェイグ様に仰ってください」

「せっかくお話がしたかったですのに……」

「私と、ですか?」


潤ませた瞳で言い寄られると、何となくシオンの気苦労がわかる。

小動物を追い返せない気持ちに似ている気がしてきた。


「シオン。晩餐の準備があるのですよね」

「はい」

「でしたら、どうぞ行ってください。リリノア様は、私に用事があるようですので……」

「良いのでしょうか?」

「もちろんです。女同士で話もあるでしょう」


そうですよね? という気持ちでリリノア様を見ると、図らずも嬉しそうに彼女が頷いた。


「では、リリノア様。お話を聞きましょう」


シオンが後ろ髪を引かれるように階下へと行くと、玄関ホールのソファーに二人で腰かけた。


「実はですね」

「はい」

「セレスティア様に、魔法を教えて欲しいのです」

「……魔法?」


ヴェイグ様と別れてくださいとでも、言うのかと思えば、予想と違う。


「……その……セレスティア様は聖女だとお聞きしてます。聖女は、魔法に優れていますよね。どうやったら聖女のように魔法が使えるのか、その秘訣を知りたいのです」

「……聖女は、自分で決められるものではないので……」

「秘密ですか……」

「そうですね」


シード(魔法の核)持ちで生まれたにも関わらず、魔法の才がなかったリリノア様は悩んでいるけど、聖女にはなれないのですよ。


「リリノア様は、魔法が使いたいのですか?」

「使いたいです……でも、上手くいかなくて……だから、きっとヴェイグ様にも嫌われているんです」


ヴェイグ様は、リリノア様を嫌ってはいない。それは、何となくわかっている。


「……剣や馬術はどうですか?」

「私にそんな運動神経があるように見えますか?」

「得意ではないのですね……」


いわゆるこれは、落ちこぼれというやつでしょうか。

私は、自然と魔法が使えていた。それでも、光のシード(魔法の核)に選ばれてからは大聖女候補として修行に励んでいた。


私とリリノア様は違うけど、彼女も自分にもどかしいものがあるのだろう。

そう思うと、力になってあげたいとは思う。


「……上手くいくかわかりませんが……少し考えてみます」

「教えて下さるのですか?」

「今はダメです。でも、」


期待したような表情をリリノア様が見せると、ちょうど玄関の扉が開いた。


「今帰ったが……リリノア。何をやっているんだ?」

「セレスティア様とお話をしていました」

「何の話だ?」

「……言いたくありません」

「ふーん……なら、帰れ。もう夜も遅い」

「ヴェイグ様が送ってください……」

「城にいるのだから、大丈夫だろう……危険はない」

「酷いです……」


落ち込んだように、とぼとぼと帰って行くリリノア様。


「送って差し上げればいいのに……」

「外には、いつものお付きの侍女がいるからな。送る理由がない。それよりも、リリノアと何の話をしていた?」


そう言って、ヴェイグ様が手を差し出して私をソファーから立たせた。


「本人は言いたくないようですけど……」

「セレスティアと別れる相談なら、聞かなくていいからな。それよりも、こちらに来てくれ」


ヴェイグ様に肩を抱き寄せられると、仄かに花の香りがした。

女性とお会いしていたのだろうか。


玄関を出ると、そのまま置いてあったカンテラをヴェイグ様が持ち、離宮の側の庭園へと連れていかれた。


「……暗いから気をつけろ」


暗い庭園を、私を気遣いながら進むと、庭園の中央らしき場所で止まった。


「少し暗いが……」

「少しどころか、もう夜ですよ」

「遅くなったのだから、仕方ない」

「はぁ……」


ヴェイグ様が、カンテラの灯りを中央の花壇に照らすと、そこにはまだ蕾の花があった。


「セレスティアへの贈り物だ。急いで植えたから、まだ蕾だが……いずれ咲くだろう」

「……私に? 蕾が真っ黒なんですけど……」

「これは、ブラックローズだ。王宮の庭からいただいてきた」

「黒いバラなんて見たことありません」

「咲けば綺麗なものだ」


嬉しいと思う。ヴェイグ様が、バラをくれることが嬉しくて、図らずも頬が温かくなっている。


「ありがとうございます……ヴェイグ様」

「喜んでくれるなら、急いで植えた甲斐があった」

「……私も何かお礼をしますね。何が良いですか?」

「セレスティアがいてくれるなら、それで十分だ」

「そういうわけには……」


何かできないだろうかと悩むと、周りの庭園を見て、不意に思いついた。


「この庭園を好きにしてもいいと言ってましたね」

「今度は園芸でもする気か?」

「そうですね……ここは、誰も来ませんか?」

「城でも、この離宮は離れているし、王弟殿下の離宮に気軽に来るやつはいないな」

「でしたら、ここでシード(魔法の核)を造ります」

「シード(魔法の核)?」

「はい。欲しいシード(魔法の核)はないですか? 造れないシード(魔法の核)もありますけど……ちょうど、リリノア様にも造ろうと考えてたんです。良ければ、ヘルムート陛下にも献上します。お喜びになりますでしょうか?」

「好きに使えばいいが……」


でしたら、そのムッとした表情はなんでしょうかね。


「俺のために造ってくれるのではないのか? リリノアと兄上のためか?」

「一番はヴェイグ様のためですよ。でも、ロクサスまで来てしまって、陛下にもご迷惑でしょうし、リリノア様も悩んでいるようですので……」

「先ほど話していたのは、それか……」


嫌そうに頭を抱えるヴェイグ様がちらりと指の隙間から私を見る。思わず、鋭い視線にびくりとした。


「毎日、ブラックローズも見てくれるか?」

「もちろんです。毎日確認しますね」

「なら、許す」

「偉そうですね」

「こういう性格だから仕方ない」


その上、独占欲も強そうだ。

今も、力いっぱい抱きしめてきていた。








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