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Smoke Gets In Your Eyes (煙が目に沁みる)

 分厚い掌に太い腕、とても同級生とは思えなかった。

 もう、6杯以上、大ジョッキでビールを飲んでいる。


 シーサイドパークの近くにあるホテルに、功から博史は呼び出しを食らっていた。

 指輪の一件もあるので断るかけにはいかなかった。


「あいつが、いなくなってから、いくら飲んでも酔わない」


 と功は、ビールを飲みほした。


 真姫が逝ってから、2か月が過ぎていた。


 49日を過ぎて功から、電話があって、今こうして付き合っている。


 仏教では、人が亡くなると四十九日後に生まれ変わると考えられている。

 7日ごとに供養して、7週目に生き返るという信じられている。


「落ち着いたか」


 と博史は功に尋ねた。

 功は首を振った。

 30年近く一緒にいたんだ、居るのが当たり前の存在が居なくなることは、耐えられない。

 人の最大のストレスは、配偶者の死であり、次が離婚だそうだ。

 博史はウイスキーのロックグラスの丸い氷が解けるのを待ってから冷えたウイスキーを飲んだ。


 功はこのホテルで、会合があったらしく、昼休みに電話が電話があり、博史は仕事を終えてバスに乗ってやってきた。

 すでに功はレストランのビアホールで飲んでいた。

 飲むというより、煽るるといった方が正しい。


「ずっと 飲んでないんだろ」


 と博史は、前に見た時より少しやせたように見えた功を気遣うように言った。


「家にあいつが、真姫がいないんだ。飲んでも仕方ない」


 ビールから焼酎ロックに変わったグラスを飲み干した。


「あんまり、飲むな。少しは体を労わってやれよ。」


 功は何も言わなかった。


 ビアホールも、人が多くなりこんできた。

 大声や笑い声が、少し耳に障ったので、功を促して外に出た。


 下弦の月が、空に浮かんでいた。


「まだ 飲み足りないんだろ」


 と博史が功に言うとうなづいた。

 博史は、近くのコンビニから、酒とコップを買ってきた。


 シーサイドパークのマリナーに伸びる階段に腰をおろすと紙コップに酒をついた。


「学生の時、よく お前の親父の棚から酒かっぱらって飲んでたな」


 と博史は言いながら酒を一気に飲んだ。


「次の日、学校に行くの面倒でさ、真姫が起こしに来たよな」


 という博史に


「あの頃が、一番楽しかった。ずっと3人一緒だと思っていた。お前は真姫と一緒になって、俺も嫁をもらって、俺は息子で、お前は娘で、許嫁にしてなんてな。・・・」


 功は懐かしむように言った。


「どうしてだ ヒロ。なぜ 真姫・・・」


 と功はずっと聞きたかったであろう問を博史に吐いた。


 博史はコップに酒をついで、一口飲んだ。


「本の数時間前まで、本当に幸せだった。何もかも順調で、頑張った分よくなる。明日は今日よりよくなる、そう信じられた。」


 博史はしばらく沈黙して


「神様は理不尽だ。乗り越えられない試練は与えないといいながら、俺から未来を奪った」


 博史は、スボンをまくり上げて義足の装着金具を外した。

 功は眼を伏せていた。


「これを失って一緒に、俺の心も死んだんだ。」


 博史の手に持たれて義足をみて 功は


「すまん・・・」


 と言って黙り込んだ。


「いや、足一本で命が助かるならいいんだ。だけれど、母親もなくしたんだ。たった10秒揺れただけで

 家の下敷きで、即死して、生きてても火事で焼死してたんだ。」


 思い出したくもない思いが、博史の中を駆け巡っていた。


「どうして、俺が助かったか知ってるか、母親が叫んでくれていたんだ、俺を助けてくれと。俺は意識がなくて知らなかったけれども、母親がずっと叫んでくれていて、俺は屋根の剥いで助かったけれども、母親は生きたまま焼かれて死んだんだ。だから俺は狂った。狂った俺はきっと真姫を苦しめると思ったんだ。

 今でも、俺は狂っている。毎日 これを見る度に・・・」


 と言って博史は義足を装着した。

 博史は、功のほうに顔を向けると


「本当に感謝しているんだ。真姫と一緒になってくれて。一時の気持ちで一緒になっても、いつか互いに傷つけてしまうは分かっていたんだ。」


 博史は、立ち上がると


「毎日、毎日 あの時間を体が覚えていて、目が覚めるんだ。28年も経つのに」


 紙コップを握りつぶした。


「大好きだったから、大切だから、壊したくなかった。だから、功でよかった。ありがとう」


 博史は深々と功に向って頭を下げた。


「お前も真姫もバカだ、お互いに知りすぎていたんだな。まるで、寺で聞いた衆合地獄の刀葉林のようだな」


 熱心な仏教信者らしい功の言葉だ。


 "自分の作った業のために自分が受ける報いなのだ"


「功 真姫はなんか言ってたのか、この指輪をお前に渡したとき」


 博史の問いに、功は立ち上がってタバコに火をつけて、大きく吸い込んで吐き出しながら言った。


「もういいよと言っていたよ。決して未練で持っていたわけじゃないと。喧嘩したバツで買ってもらたものだから、今度は、私が全部許してあげるって。悲しみは、全部私が持って行ってあげると。笑ってたよ。あいつ。あの時の祭りの夜のように。少女みたいにな」


「そっか。長い喧嘩もやっと仲直りできたんだ。よかった。功 1本くれる」


 と博史照れたように苦笑いして、功からタバコをもらい、火をつけてもらった。


「28年ぶりだ、タバコなんて、なんか 煙いな」


「そういや ひろ タバコが煙いっていう歌があったよな」


「Smoke Gets In Your Eyes な」


「ああ それ。CD持ってるぞ」


 と言いながら、功は娘にシーサイドパークまで迎えに来るように電話した。


 残りの酒を飲んでしまう頃、4灯のヘッドライトの車が近づいてきて留まった。

 功が手を挙げると、窓が空いて、ルームライトに照らされた奈央がいた。

 車内からは、スローバラードな  JD Southerの Smoke Gets In Your Eyes が流れていた。

 昔、真姫と一緒に見た映画の主題歌だった。



~ 往生要集 上巻より 衆合地獄の刀葉林 ~


  地獄の鬼が罪人を捕えて刀葉の林に置く。 かの木の頂上を見ると、 みめ麗しく、 きらびやかに装った女がいる。 罪人は、 この女のいる事に気がついて、 すぐさま木に上ると、 木の葉は刀のように罪人の身体の肉を割き、 次にその筋を割く。 こうして身体のすべての場所を、 ずたずたに切り割いて、 やっと木の上に登ることができて、 かの女を求めると、 もはや地上にいて、 ^媚を湛え、 欲情に満ちた眼差しで、 罪人を見あげながら、 こういう言葉を投げかける。 「わたしはあなたを恋しさのあまり、 ここに来ましたのよ。 なぜ、 今あなたはわたしの傍に来て下さいませんの。 どうしてわたしを抱いて下さらないの」 と。 ^罪人は、 この女を認めるがはやいか、 欲情は火と燃えあがり、 女の所へと次第に、 ふたたび降りて行くと、 刀葉は上向きになって、 剃刀のように鋭い。 罪人は前のように、 身体のすべての部分を残す所もなく切り割かれて、 やっと地上に降り立つと、 かの女は、 またもや木の頂上にいる。 罪人は、 これを見ると、 また木に登って行く。 ^こうして無量百千億年の長い間、 自分の心に欺かれて、 この地獄の中で、 このようにぐるぐるめぐり、 このように焼かれるのである。 これはよこしまな欲情がその因である。 なお広く説いてある。 ^地獄の鬼が罪人を責めたてて、 次のような偈を説く。


 ^他人の作った悪事のために お前が苦しみを受けるのではない


 自分の作った業のために自分が受ける報いなのだ 世の人々はすべてこのとおりである


 http://www.yamadera.info/seiten/d/yoshu1_j.htm 出展

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