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Every night comes to an end. (それでも朝は来る)

功の車にのってから、酒が回ったのか、博史は浅い眠りに落ちていた。


卒業式の日は3月だというのに雪が降っていた。

うっすらと体育館に行く道に雪が積もっていた。


 「さむ」

と功はいってポケットに手を突っ込んだ。

博史は、多めの紙袋を持っていた。

その横には、真姫がいた。


 「いいな、明日から学校来なくていいし」


と真姫はふくれっ面をしている。


 「3年も通ったんだ。さすがに飽きるぞ」


と功は笑った。


 「でも、功は 水産大学校だろ、頑張ったよな」

博史は、高2まで勉強嫌いだった功が、進学するといって勉強しだしのは参ったが、まさか国立の学校とは恐れいった。

共通一次は受けなくてよかったけれども、功は 水産系の国立の学校に合格を決めた。


 「いつか、自分の船を持ちたいから、がんばるさ」


と功は胸をたたいた。

功の家は、遠洋巻き網船の漁師だ。

もちろんきつい仕事だか、実入りはいい仕事だ。


 「博史も、関西の大きい会社に就職を決めたし、すごいな」


 と功は、博史の肩をたたいた。

博史は、照れながら


 「まぐれだよ、でも うれしいよ。これでやっと 母さんに楽がさせられる」


と博史はほっとした顔を見せた。


 「私は、あと2年もここに通わなきゃいけないんだよ、不公平だよ」


と真姫は、博史の腕によりかかった。


 「学校では、あんまりいちゃつくなよ。雪が解けてるぞ アツアツで」


功が、博史と真姫をからかうと、真姫は余計に博史の腕にしがみついた。

朝シャンの匂いがかすかにしていた。

くせっけの髪が、博史のほほをかすめた。


ふと もうすぐ、真姫にもこんな風に会えなくなると寂しくなってしまった。

そんな気持ちを察したのか


 「ヒロは、さみしい?」


と真姫は伏し目がちにたずねた。

博史はどきっとして、答えに詰まった


 「ばか 都会に行けば、きれいなお姉さんがいっぱいいて、うはうはだよな 博史」


と日に油をそそぐようなからかいを功はいった。


 「もう ヒロは絶対に浮気はしないの」


 と真姫は拗ねてヒロの腕を強くつかんだ。

 博史は苦笑しながらも、とても幸せだと思った。

 あの頃は・・・


 ほんの少しだったのに、博史は短い夢を見た。

 あの頃は、何でもできると思っていた。

 真姫とさえいつかはと思っていた


 「寄るか」


という功の声に、博史は眼をさました。

博史は首を振った。


 「俺に、そんな資格はない。それに、今はお前の嫁さんだ」


 「そっか、わかった。駅でいいのか」


 「ああ 頼む」


 功は、博史が朝降りた駅まで送ってくれた。


 「落ち着いたら、連絡くれよ。」

 といって功は、名刺を出した。

 博史も、名刺を渡した。


 「お前、こんな近くにいたんか」

と功はあきれていった。

 「2年前にこっちに転勤になった」


 功は、少し沈黙して


 「どうして、会いに来なかった。俺が残っているのは知っていたろうが」


 今度は、博史が黙った。


 「恨んでるんか、真姫のこと」


 と唐突に功が言うと、博史は


 「それは、違う。むしろ感謝しかない。」

 手を振って否定した。


 「俺は、真姫と結婚して、幸せだった。あの頃は、お前なら仕方ないと思ってあきらめていたから。」


 「すまん。・・・」

 博史は、いたたまれなくなってドアに手をかけた。


 「責めちゃいない。仕方のないことだ。あの出来事がなければ、お前だって幸せだったはずだ」


 「仮定の話は、無しだ。俺は 功と結婚した真姫は幸せだったと信じている。情にほだされて結婚するほど真姫は、軽い女んじゃない。」


 博史は、ドアを開けて車を出て、駅の改札に歩き出した。

 功まの車は、ユーターンして幹線道路に出た。


 運よく、電車か入ってきた。

 博史は、電車に乗り込むと、席に座って大きくため息をついた。


 あの日から、博史の夜は明けていない。


 いつまでも、5時46分52秒のまま留まっていた。

 いつものように朝は来るのに

 明けない夜はないのに

 いつまでも、あのまま、あの場所で博史の心が死んでしまっていた。

 そう 言い聞かせて生きていくことしかできなかった。

 差し伸べられた、すべて あしらって 生きてきた。

 未だに、得たものより失ったもののほうが多かった。


 鉄橋を渡る白い車体の電車を雲の間から射す夕日が、淡い赤い色に染めていた。


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