It is then on that day (あの日、あの時)
1月17日5時46分52秒、あの日、あの時を忘れたことはない。
博史の中では、あの時のまま留まっている。
「でさ、今度のゴールデンウイークは、飛び石だから帰るのがきつめだね」
と博史は、テレホンカードを入れながらしゃべっていた。
その日は、朝から氷点下になる天気だったが、真姫と喋っているとなんとかくあったかい気持ちになっていた。受話器からもれる真姫の落ち着いた声が心地よかった。
正月にあったばかりなのに、次に会える日を楽しみにしていた。
残念ながら、今年のゴールデンウイークは、暦通りになってしまい、長期の休みが取りにくいうえにバブルがはじけたために会社の業績も急激な悪化していて休みが取りづらくなっていた。
それでも、博史は、真姫に会いに帰るつもりでいた。
新幹線とローカル線を乗り継げば、帰れないことはない。
「あっカードの残りがないから、またかけるね。風邪ひかないようにね」
と博史はいって受話器を置いた。
4点のなったテレホンカードが、出できた。
自宅でかけばいいのだが、さすがに母親と一緒に住んでいるのでのろけた話はできない。
それも、今年までだ。
来年は、真姫と一緒をに暮らせることになっていた。
生活にも目途が付き、結婚資金もできた。
仕事は順調で、もうすぐにチーフにも成れる予定だ。
「ただいま、今日は寒いね」
と博史は玄関を開けて、出迎えた母親に声をかけた。
「そうだね、今日はおでんだから」
と母親は笑っていた。
そんな、母親の顔をみてよかったと思った。
高校を卒業して、関西の外資系の食品会社に就職をした。
バブルの始まる前で、景気は年々よくなった。
数年後に、なんとか母親を呼び寄せることができた。
古かったけど、一軒家を借りることができた。
博史は、父親の顔をしらない。
漁師だった父は、海難事故で死んだと聞かされた。
産業もないにもない里では、漁師になるか、都会に出で働くしかない。
女で一つで、育ててくれた母を残してはいけずに、給料のいい外資系企業に就職をして、母親を呼び寄せた のだった。
狭い里では、母親たけで、子供を育てるのは奇異の目で見られる。
だから、置いてはいけなかった。
母親も、そんな博史の気持ちを察してか、すんなりと付いてきてくれた。
最近は、近くのスーパーの鮮魚店で働いている。
暮らしも、里にいたころに比べれば、数段よくなった。
しがらみが消えたせいか、里にいた時より若返って、どうも最近は、いい人がいるみたいだ。
まだ、40過ぎたばかりだ。
さすがに、子供を産む年ではないかもしれないけど、うきうきとしている様子は伺えた。
博史は、食事を終えて入浴を済ませ、2階の自分の部屋に入った。
築40年以上で修理はしているが、土塀で瓦屋根の家は、みすぼらしかったが、真姫との生活ができると思えば、それだけでよかった。
いっそ、今度のお盆休みは、真姫をここに連れてこようかとさえ思っていた。
真姫との結婚の話は、今年の正月に、真姫の両親へは話をして許してもらっていた。
結婚式は、秋口にしようということで、真姫と話していた。
母親は、博史の結婚を心から喜んでいた。
そして、意味深に
「私も、いい話があるかも」
と笑った。
博史は、真姫のぬくもりを思い出していた。
近くの町の初売りが、夜中に開くので近隣の町から、アーケードに人が集まるので、博史も真姫と一緒に出掛けることにした。
まっそれは、口実で、真姫との逢瀬の理由付けだった。
ホテルのベットの薄明りの中で、真姫が眠っていた。
石鹸のにおいとシャンプーの香りがした。
安心した寝顔に、博史はとても幸せだと感じた。
机の上の二人で並んで取った、赤い橋のたもとで桜が舞っていた。
博史は、眠りについた。
うつらうつくらとした意識の中で、1階の台所から音がしていた。
鮮魚店に勤めている母親は朝が早い、博史は時計を見るとデジタル時計の表示は5時40分を過ぎていた
近くで、野良猫が騒いでいてようだ。
盛りの時期でもないのに思っていると
ゴーという音が響いた。
地震!!
ドーンと突き上げね揺れの後に、激しい横揺れが襲ってきた。
あっという間に、一階部分が崩れて、屋根が博史に向けて落ちてきた。
とっさに博史は、頭を手でかばった。
マグニチュード7.3の都市直下型の地震が、この日起きた。