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魔女ジルルキンハイドラへの奇襲

深い森の奥に一人の魔女が住んでいた。

魔女の名は、ジルルキンハイドラ。

その姿は幼女の姿をしているが、数百年の歳月を生き、その知識は海よりも深く、ありとあらゆる妙薬の知識をもっていた。

そして、遠くを見渡せる千里眼をもち、彼女の知らないことなどこの世にはないとさえいわれている。

俗世を嫌い、一匹のペットと暮らしている。

ペットの名はトットルッチェ。

人語を解する稀有な黒いライオンである。

ある日のことである。

ジルルキンハイドラの妹、ティナエルジカとそのペットである真紅の豹、ナージャが彼女のもとを訪れた。


「おや、新顔だねー。ティナの知り合い?」

「我はナージャである。我が主に向かって馴れ馴れしいぞ。そこな猫」

「・・・なんか、すっごく偉そうなんだけどー」

「偉そうなのではない。偉いのだ。間違えるな、猫」

ナージャの不遜な態度にトットルッチェは眉をひそめる。

「うわー、第一印象最悪だねー。ティナ、なんなのこいつ」

「うんうん。思った通りの反応ね♪ナージャは私のペットよ♪性格はあんなだけど、そこそこ役に立つわ」

「ティナ、趣味悪いよ」

「それはそうとジル姉は?」

「そこで寝てる」

トットルッチェがさしたその先にはジルが机の上に突っ伏していた。

読書中に食事をとっている最中に睡魔に襲われたのだろう。

片手にはスプーン、食事は食べかけで、本は食器から少し離れて置いてある。

「主よ、そこの小娘を懲らしめればよかったのだな」

「ええ、そうよ。でも、今日は間が悪かったみたいね。また出直しましょう」

「そうだねー、その方がいいね」

「ふん。主も猫も何を気にしている。騎士道精神という奴か?このままこの小娘を痛めつけてやればいいではないか?」

ティナとトットルッチェは見つめあい、どうしたものかと肩をすくめた。

「そういうんじゃないけど。まあ、やりたいって言うんなら、止めはしないけど」

「そうだね。いっぺん痛い目見ればいんだよー」

「ふん。わめくな、猫。臆病者はそこで見ているがいい」

そう言うとナージャは必殺の間合いに足音も無く詰め、爪をむき出しにしてジルに飛びかかった。

しかし、その爪がジルに届くことはなく、ナージャの振り下ろされた腕はジルにつかまれ、牙もジルの手中におさまっていた。

何が起こったか分からないナージャをジルは寝ぼけ眼で見つめる。

「あ~。いい爪~♡この牙もいい♡良い材料になりそう♡うふふ」

まるで何かの花を手折るように爪と牙をもがれ、ナージャはひるむ。

何が起こったか分からない恐怖に逃げ出そうとするナージャをジルは容易く押さえ込み、ナージャの腹の中を探る。

「こっちにもいいものないかな~♡」

「あう、あう、あー、た、助けてー」

「どうする?ティナ?」

「悪いけど、助けてもらえるかしら」

「まあ、仕様がないよね。こんなところで死なれても困るし・・・ジル、木イチゴのゼリー、そろそろできてる頃だけど、僕一人で食べてもいい?」

ジルの動きが一瞬止まり、食べる~っとハイハイしてトットルッチェの元へ向かう。

取り残されたナージャはというと、ひくひくとけいれんしながら気を失っていた。

 

「いやー、ジルルキンハイドラ様は実にお強い。感服いたします。おい、そこな猫、早くジルルキンハイドラ様にお茶を出さぬか。ジルルキンハイドラ様、肩などはこってはおりませんか?足でももみましょうか?大丈夫です、これでも肉球の柔らかさには自信があるのです」

「いや、いいよ~」

「何か性格変わってるんだけど」

「というか、ナージャ。あんた誰の従者なわけ?貴方の主は私よ」

「そうでしたな。ですが、主の姉君のジルルキンハイドラ様に礼を尽くすのは当然でしょう。話では毎度ジルルキンハイドラ様にこっぴどくやられているとか?そんなか弱い主のためにこうして身を削って奉仕しているのに、何か不満が御有りか?」

「・・・いいわ。ナージャ、ちょっと外に出なさい。お灸をすえてあげるわ」

「おお、怖い怖い。一体どんな目にあわされるのか?くっくっくっ」

「・・・ねえ、ジル。二人ともほっといていいの?」

「いいんじゃないの?一応ティナもウルばあちゃんのところで力の使い方はみっちり仕込まれているはずだから」

「でも、ティナのことだから間違って、森ごと燃やしちゃうかも・・・」

「・・・そ、そうだね~」


森の中のやや開けた場所。

そこに二人は対峙していた。

傍目にジルとトットルッチェもその様子を見守っている。

「さてさて、我の実力を知っていながら相対そうとは、実に無謀。実に浅はか。さあ、何処からなりとも来るがよい」

ティナはナージャの挑発に乗らず、目を閉じ集中していた。

怪訝そうにするナージャに、ティナの煉獄の瞳が開かれた。

瞬間、ナージャの髭が燃え尽き、灰となった。

タンパク質の焼ける臭いにナージャは驚愕し、思わず叫ぶ。

「ジルルキンハイドラ様、これは一体?」

「ティナの二つ名は獄炎の魔女。その身に煉獄の炎を宿す魔女よ。知らなかった?」

「そ、そんなこと知らされていない!助けてください!ジルルキンハイドラ様!」

「やだよ~、私熱いの嫌いだもん」

「そ、そんな・・・トットルッチェ様、何とかなりませんでしょうか?」

「僕にまで様付けだよ。まあ、いいか・・・うーん、そうだな。頑張ってやられるふりしてみたら?」

「そんなことできる訳な、うおっ」

今度はナージャの全身を炎が包み、ゴロゴロとナージャは転がり、消火する。

しばらく転がり続けたナージャは、くすぶった煙を上げ、動かなくなってしまった。

それを見たティナは悠然とナージャに近づき、見下ろす。

「どう、私のお灸は少し熱かったかしら♪」

そう問いかけられたナージャは白目をむいて、気を失っていた。


「魔女怖い、魔女怖い、魔女怖い、魔女こわ・・・」

「そんなに震えなくても大丈夫だよ。牙も爪も毛もジルの薬で何とかなるから大丈夫」

「トットルッチェ様は怖くはないのですか?ジルルキンハイドラ様やティナエルジカ様が」

「うーん。馴れたかなー」

「そ、そんな。馴れるものなのですか?」

「うん。こんなの序の口だと思った方がいいよー。多分これからもっと大変な目に合うと思う」

「じょ、序の口・・・魔女怖い、魔女怖い、魔女こ・・・」

その後、傷が癒えるまでの間、トットルッチェはナージャをなだめ続けた(不安をあおり続けた)という。


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