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 狭い道中から一転、開けた場所へ出た。山を上から細長い棒でくりぬいたような場所であった。見上げれば星が瞬いており、今が夜であったことがわかる。切り立った岩肌に沿うように篝火の跡があり、祭壇があった。そして、祭壇に向こうに巨大な像が一つ。

 像は巨人の幼児がままごとで作ったような不格好なものであった。のっぺりとした顔に腕が六本。上半身だけである。もとはもう少しましなものであったのだろう。雨風で今は無残な姿だ。

 ジル一行は祭壇の前まで来て、祭壇にティナを寝かせた。

「ここでティナちゃんを殺せばいいのかしら?」「そうだな」

 ジルの言葉にナージャは驚愕するが、肝心の主は眉根一つ動かさず静観している。ジルは懐から小刀を取り出し、ティナに向ける。

「魔人を呼び出すには魔女の血が必要」リオルはうなずく。「じゃあ、私の血ならば?」「だめだろう」「・・・試してみるわ」

 ジルは少し逡巡しながら小刀を握りしめた。指の隙間から血がぽたぽたと滴る。小さくジルの呻きが聞こえた。特段周りに何か変化があったようには見えなかった。

「この地にゆかりがないとダメなんだ。だから、この子じゃないといけない」リオルは我が子を見た。

 ベルと一緒に生まれてくるのを待ち望んだ幸せな日々。引き裂かれ、唯一我が子との記憶がこんなに血なまぐさいものになろうとはその時には想像もつかなかった。

 けれど、リオルは決心していた。やらねばならない。彼の肩には多くの命がかかっている。守らねばならない立場にある。リオルはジルの握りしめていた小刀に手をかける。

 だが、小刀はジルの手から離れなかった。

「やらせはしない」

 リオルはジルの獣のような鋭い眼光に寒気がした。

「けれど、これしか手がない」「あなたの血を差し出しなさい」ジルは小刀の切っ先をリオルに向けた。

「何も贄は一人でなければいけないわけではないでしょ?」「初めからこうするつもりで?」「そうよ。ティナちゃんを殺させるつもりなんてない。けれど、それではあなたは納得してついてこなかったでしょ?」

「初めから抵抗しなかった理由は?」「その先に母さんやティナちゃんの幸せがあるかもしれないから」

 静観していたティナが大きくため息をついた。「ほんと大馬鹿ね」と吐き捨てるように口にする。

「・・・試してみればいい。私たちが殺しあうのはそれからでいい」

 


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