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 とある荒野に魔女がいた。

 魔女の名は人々の記憶の片隅からも消え去ってしまった。

 魔女には特別な力はなく、異なるのは人よりも長く生きられる程度である。

 その程度ではあるが人にしてみればそれは奇異の目を引くには十分で、さりとてその目をかいくぐる術を持ち合わせてはいなかった。

 故に魔女は人の住みそうにない荒野にひっそりと住み、命の灯が消えるのをじっと待っていた。

 穏やかに、ただ穏やかに生きたいと願っていた。だが、そんなささやかな願いさえかなわなかった。住みにくいその土地に人々が移住してきたのだ。魔女にはわざわざ住みにくいこの土地に移住してくる意味が分からなかった。

 開拓者、というわけではなかった。移住者たちもまた望んでその地に赴いたのではなかった。彼らの体には罪人としての烙印が押されていた。追放者、また逃亡者たちであった。

 最初こそ彼らを疎ましく思っていた魔女であるが、次第に移住者たちに魔女は馴染んでいった。それはひとえに後ろ暗いところがある者同士の無用の詮索をしないといった気風によるところが大きかった。それにただ生きるということさえ困難な土地でのことである、横暴な真似が許されるほど世界は優しくはなかった。

 やがて、魔女は恋に落ちる。そのものは移住者たちを取りまとめるリーダーの一人だった。魔女は人生の幸福をその一瞬に集約したように思えた。確かに幸福な時間であった。しかし、その時間は長くは続かなかった。魔女にとっては。普通の人間と魔女の時間の流れは違いすぎた。

 魔女は後悔した。幸福であった時間よりも多くの時間を使って後悔していた。


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