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気の向くまま、風の向くまま  ―2―

 結局、山賊の砦にはジルの姿はなかった。

 そして、情報を集めるためか、ただの行き当たりばったりか、近くの村に立ち寄った時、何故かベルは歓迎を受けることになる。

 理由は簡単である。

「ありがとー。魔女様ー」

「こんな華奢な体で一夜にして山賊達を壊滅しちまうなんてね。全くすごいねー。ほら、こっちも食べとくれ」

「・・・いや、モグモグ・・・私、モグモグ・・・娘を探して、モグモグ・・・こんなとこでゆっくりしてる暇は、あ、ども」

 断りながらも出されたものはきっちり口に入れているベルであった。

「娘さん?」

「そう。ズズー、熱ッ!」

 麺をすすっていたら、汁が飛んで、ベルのおでこにはねた。

 少し赤くなったおでこをさすりながら、眉根を寄せる。

「何か知らない?」

 その場にいた村人たちが顔を合わせるが、首をかしげる顔しか見えなかった。

「何か特徴はないのかい?あんたの娘さん」

 恰幅の良い女がベルに尋ねる。

「そうねー」とどんぶりの汁を飲みほす。

「かわいいわ」

「・・・いや、まあ、自分の娘なのだから、かわいいのでしょうけど。他には?」

「小さいわ」

「・・・そう」

「それにぷにぷにしてるわ」

 ベルはさらに並べてあった饅頭をつつく。

「そう、ちょうどこの感触」

 もういっその事その饅頭をジルとティナとして持ち帰ってはどうかと、傍から見ていたナージャは思う。

 もちろん口に出さない。

 隣で真面目にジル達の行方をうんうん唸って考えているティナの気がこちらに向いてしまう。

 酒癖の悪い上司に絡まれないようにしている部下の如く、ナージャはただ黙するのである。

「仕方ないわね・・・地道に探すしかないわね・・・それにコルベルも・・・何か情報得てるかも」

 ゴマ団子を口に放り込むと、すかさずお茶が出てきたので、ベルはぺこりと頭を下げる。

「それにしても・・・今日はたくさん食べたわ・・・一年分は食べたんじゃないかしら・・・でも、私、食べ過ぎると・・・」

 ガシャンっと食器が踊り響いた。

 何事かとそこにいた皆が目を丸くしていたが、突っ伏したベルから寝息が聞こえると、笑いがこぼれた。

「食事中に寝ちまうなんて、ホント子供みたいな魔女さんだ」

「おい、だれか。この魔女さんを寝かせれるとこないか?」

「それならうちの宿屋がいい。丁度今日はベッドが空いてるんだ」

「今日はじゃなくて。今日もだろ」

「あんた・・・どうやら、魔女さんが目を覚ましたら初めにあんたにお仕置きしてもらうようお願いしなきゃいけないみたいだね」

「か、勘弁してくれ~」

 笑いが起きた。

 和やかな雰囲気の中、ベルが宿に運ばれていく。

「主よ。どうしたのですか?」

 ナージャの隣で唸っていたティナが、じっと運ばれていくベルを見つめ固まっていた。

 不審に思ったナージャが声をかけたのだった。

「いえ、別に何でもないのよ。ただ・・・」

 運ばれていくベルの目が少し開いてるように見えた。

 だが、、元より半分閉じているような状態だったのだから、見間違いかもしれない。

 世の中には半目で寝る輩もいると聞く。

「ええ、何でもないわ」

 ナージャは釈然としないまま「そうですか」とだけ答えた。




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