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落とし穴は落ちなきゃ、ただの穴  ―4―

「高笑いと共に現れたのは魔女。恐らく断頭台の正面には大きな時計台があったのでしょう。その魔女は事もあろうにその時計台の頂上に上り、そこで高笑いしていたのです。当然人々の目はその魔女に注がれます。騒然となった断頭台に集まった野次馬の喧騒は私の耳を滝のように打ち、まともに何を言っているか分からぬほどでした。ですが、刹那それが一瞬にして静まり返ったのです。なんとその魔女は断頭台の前へ飛び降りたのです」

 ティナはメルフォキアの話にフンと鼻を鳴らした。

「へぇ、なかなかカッコイイ登場の仕方ね」

「いえ、そうでもございません」メルフォキアは軽く否定する。「むしろ格好悪かったのです。なにせ着地は失敗、無様な姿を晒し、笑い者になったのですから」

「そ、そう」

 ばつの悪そうにティナは相槌を打つ。

(不平等だ。そのウサギも格好悪いと言っておるのに。そのウサギも我と同じように殴られるべきだ。蹴られるべきだ。燃やされるべきだ。グチャグチャのギチョギチョに・・・)

 とナージャはメルフォキアを呪いながら、だんだんと自分のされてきたことを思い出し意気消沈していく。

 もちろん呪いに効果はない。

「そして、その魔女は野次馬たちの嘲りが気に入らなかったのでしょう。魔女は一瞬にして街を火の海にしたのです。阿鼻叫喚とはまさにあのようなことを言うのでしょうな。だいぶ派手に暴れたようですから、こちらにもとばっちりを食わないか心配であります」

「そんな心配無用よー。私を誰だと思ってるのよ。獄炎の魔女ティナエルジカよ」

「おお、これは心強いお言葉。ウルリカロナエルザ様がお聞きになったら、どんなにお喜びになられるか」

「大げさね。メルフォキアは」

(何を偉そうに。自分の失態が暴露するのも時間の問題。まあ、その時のこの馬鹿者のうろたえぶりを見るのもよいか)

 思わずナージャの口元が緩んでしまったのだろう。

 すぐさまティナの蹴りが入る。

 アウアウ喘ぐナージャを尻目にティナは少しよれたコートの襟を正した。

「忠告感謝するわ。ともかく今はウルばあちゃんのとこへ急がないとね」

 その様子を見てメルフォキアは道を譲り、ティナに平伏する。

「それと・・・」

 メルフォキアは顔を下げたまま、ティナに見送りの言葉を送ろうとする。

「言い忘れておりましたが、その辺に我々ウサギの通り道が地下にあり、足元が少々不安定に・・・」

「そういうことは早く言いなさいよー」

 悲鳴と共にお約束とも言える落下を見せるティナ。

「も、申し訳ありません。ティナエルジカ様!」

「言ったところで変わらんだろうに」

 その通りである。

 ため息をつきながらナージャは、主の落ちた穴へと近づく。

 助けたくもないが、助けなくては後が怖い。

「主よ。無事であるか?」

 そんな心無い言葉をナージャが穴の中に投げかけた瞬間である。

 突如として穴の中から光が放たれた。

 目がくらむ中、ナージャは必死に穴に落ちそうなのを堪える。

「これは?!ナージャ様どうぞ避難を」

「避難と言われようとも」

 体勢を整えるので精一杯である。

『まいどー。二名様、ご案なーい』

 ナージャの頭の中に妙に能天気な声が響いたかと思うと、気が遠くなっていくのを感じた。

 やがて光は収束していく。

「一体何が?」

 メルフォキアはかけていたサングラスを取り、懐にしまった。

 そして、光がおさまった後に倒れているナージャと穴の底で倒れているティナを赤い瞳で見つめていた。




 その頃ジル、深緑の魔女ジルルキンハイドラのもとには珍客が訪れていた。


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