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夢の先咲-プロローグー

すみません。

また少し長いお話を。

しかも更新はゆったりです。

すみません。

 それは遥か昔の記憶。

 悠久の時を生きる彼女たちにとって、数千ページに及ぶ書物のたった一ページにしか過ぎないのかもしれない。

 森の中にある小さな花畑。

 そこでは何故か一年中花が尽きることなく咲いていて、柔らかな風が花々を揺らし、甘い匂いが辺りに充満している。

 花畑の周りの木々は、箱庭を守るように巨大で、天高く伸びていた。

 花に当たる日差しだけが、くりぬかれたように当たるのである。

 そこは二人にとって一番好きな場所で、二人で過ごした時間が一番長い場所だったかもしれない。

 今は白い花が多く、器用に白い花飾りを編んでいく姉に比べ、妹はうまくできず、くすんだ白っぽい何かしらを作っていた。

 空には一つ二つ羊雲が放牧され、青い草を食んでいた。

 黙々と作っていた二人であったが、妹はついに耐え切れず、白っぽい何を投げ捨てる。

 うまくできぬことが悔しいのであろう。少し涙を浮かべていた。

 そんな妹に姉は微笑み、手にしていた花飾りを妹の頭に乗せる。

 妹は乗せられたものを手に取り、それが何か確認できるとにっこりと笑んだ。

 現金なものだと思いながらも、すぐに変わった笑顔に姉の心はほころぶ。

「ねぇ、お姉ちゃん」

 右側に短くまとめた銀髪を揺らし、妹はさほど変わらぬ容姿の姉の顔を覗き込む。

 紫の瞳は無邪気に輝き、姉の姿を映しこむのであった。

「なぁに?」

 姉は答える。

 垂れていた妹と同じ銀髪を耳にかけ、膝を少し曲げて、あまり変わらぬ視線を合わせた。

 容姿こそ変わらぬが、そこには確かに姉たる配慮があった。

「どうしてママはいないの?」

 突然何をと姉は思ったが、悪意などそこには存在しない。

 妹はただただ疑問に思ったことを姉にぶつけただけなのだ。

「何でママは死んでじゃったの?」

 困った表情をして、答えない姉に催促するように疑問を続ける。

 どう答えたらいいのだろうかと、あれこれ思案を転がしてみるが、良い答えは一向に口からは出てこない。

 その間も純粋な眼差しが姉に注がれ、姉は耐え切れず天を見上げ、目を閉じた。

 そして、「はぁ」っと息を吐くと妹の肩をしかと掴み、しっかりと見据えた。

 少し驚いた様子の妹が落ち着いたのを見計らって、姉は口を開く。

「ごめんね。お母さんは私が殺しちゃったから・・・」

 それは妹の期待していた答えではなかった。

 肩を掴んでいた手は、そのまま妹の背後に伸び、妹を抱きしめる。

 真偽を探ろうとも、その表情は見えない。抱きしめる腕の強さ、息遣い、声の調子から探る他なかった。

「ごめんね」

 妹の耳元でもう一度謝罪の声が漏れた。

 姉の回答はさらなる疑問を生み、妹はさらに続けようとする。

「それって・・・」

 だが、「あっ、そうだった。おばあちゃんに頼まれごとされてたんだった」

 腕が解かれる。

 見たかった姉の顔は疑問を投げかける前の穏やかな笑顔に変わってしまっている。

 先ほどの一瞬がかき消されたような錯覚に陥る。

 何も質問していない。

 何も聞いてなどいないのだと。

 そして、姉はもう質問はこれでお仕舞だと言わんばかりに、いそいそとその場を離れていった。

「ちょっと待って!お姉ちゃん!」

「ごめんねー」

 姉の背はどんどん小さくなって、やがて見えなくなる。

 ぽつりと一人残された。

 手を伸ばせば、頭に乗った白い花飾りがあった。

 姉の優しさを胸に抱くと、すっと風がそよいだ。

 一際甘い香りが妹の鼻をくすぐる。

「お姉ちゃんがママを殺した?」

 何も明確にならないまま妹の心にじんわりと置き所のない感情だけが広がっていくのである。

 記憶は薄らいでいく、本当に何を聞いたのかさえ思い出せなくなる。

 ただその時の感情だけが、心の底にこびりついているのだ。

 自分でもその感情が何なのかも分からぬままに。


 やがて、夢は醒めた。


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